物語オーストラリアの歴史
多文化ミドルパワーの実験
竹田 いさみ
オーストラリア。
有名な国だ。小学生でも知っている。
だいたいの形も描ける。
でも、オーストラリアについて何を知っているだろう。
カンガルー、コアラ、グレート・バリア・リーフ、エアーズ・ロック、アボリジニ、山火事、捕鯨反対……。
自然遺産や生態系のことばかりで、文化的・歴史的なことをほとんど知らない。
そういや世界史の教科書にオーストラリアって出てきたっけ?
白豪主義とか聞いたことあるような……。
ほとんどの日本人が似たようなもんじゃないかな。
オーストラリアという国は知っている。
でも文化や歴史はほとんど知らない。オーストラリア出身の有名人もイアン・ソープぐらいしかわからない……。
知っているのにまるで知らない国、オーストラリア。
その謎(ぼくが知らないだけなんだけど)を解き明かすべく、『物語オーストラリアの歴史』を読んでみた。
2000年刊なので「今後の展望」などについては情報が古すぎるが、オーストラリアの歴史はよくわかった。
オーストラリア史は勉強するのが楽だね。(先住民の歴史を含めなければ)250年ぐらいしかないから。
オーストラリアは元々イギリス帝国の一植民地だった。
だが、アメリカに独立を許したことでイギリスは植民地政策の転換を余儀なくされる。
きつく締めあげて、独立されてはかなわない。ほどほどに自由を与えてイギリス帝国を支えるメンバーでいてくれたほうがいい。
オーストラリアは18世紀後半に独立してからも、イギリス帝国の一員だった。
君主制であり、オーストラリアの君主はイギリスの国王や女王が兼務していた。
そう昔の話ではない。
なんと1975年には、オーストラリアの首相がイギリス連邦総督によって解任されるという事件が起こっている。
連邦総督が首相を罷免することができると憲法に規定されているのだ。
それでいいのかオーストラリア人! と言いたくなる。
独立国なのに、よく黙っていられるな。
まあホワイトハウスの言いなりになっている日本も他の国から見たら同じようなものかもしれないが……。
とはいえ、今のオーストラリアはイギリスとは距離を置いている。
そのきっかけに日本が一役買っていたとは知らなかった。
といっても決して名誉なことではないのだが……。
第二次世界大戦で日本がオーストラリアに空爆をしかけた。
オーストラリアは日本から本土を防衛するため、英帝国の傘下から離れ、アメリカに庇護を求めた……。
恥ずかしながらぼくは、日本がオーストラリアを空爆したことすら知らなったよ……。
太平洋戦争ってオーストラリアまで行ってたのか……。
たしかに改めて地図を見ると、東南アジアのすぐ先だもんな、オーストラリアって。
一般にアジアじゃなくてオセアニア地域としてくくられるからずいぶん離れているように感じるけど、ほとんどアジアなんだよなあ。日本とほぼ時差もないし。
オーストラリアにとって日本は、
・第一次世界大戦は仮想敵国であるドイツやソ連の太平洋進出を抑えてくれる味方
・日本が大陸や太平洋に進出したことにより、仮想敵国になる
・太平洋戦争では現実の敵に
・戦後は貿易相手国。1966年にはイギリスを抜いて、対日貿易がオーストラリアの輸出市場一位となる
・最近は対中国が一位だが、依然としてよき貿易パートナー
というふうに、接し方がめまぐるしく変わっている。
知れば知るほど、日本にとってオーストラリアは大きな存在なのだ。
なのにぜんぜん知らなかったなあ。
「コアラとカンガルーの国」としかおもっていなくて申し訳ない。
オーストラリアの歴史を語る上で欠かせないキーワードが「白豪主義」と「ミドルパワー戦略」だ。
白豪主義とは、有色人種の排除政策のこと。
移民国家として誕生したオーストラリアには、ヨーロッパだけでなく、様々な国からの移民が多く流入してきた(日本人も多かった)。
移民が増え、自分たちの地位が脅かされることに危機感を抱いた先住者たちが有色人種の入植を制限したのが白豪主義だ(ほんとの先住者はアボリジニなんだけど)。
有色人種を締めだすためにオーストラリアがとった方法はなかなかえげつない。
移住希望者に対してヨーロッパ語の書き取りテストを課す。
これだけでも非ヨーロッパ人にとっては不利なのに、フランス語が得意なアジア人にはドイツ語で試験をおこない、ドイツ語が得意ならイタリア語やスペイン語の試験を課す、などして必ず不合格にしたというのだ。
あからさまにやると国際的に非難されるのでこういうやりかたをとったそうなのだが、汚いなあ。
女子学生だけ減点していた東京医科大学みたいなやりかただ。
だが第二次世界大戦後には移民の労働力が欠かせなくなったことで、白豪主義は撤回されていくことになる。
今では積極的にアジアからの移民を受け入れる国となり、「多文化主義」を政策として掲げるほどだ。
この転身は見事。
しかも無制限に移民を受け入れるのではなく、自国にとってメリットのある人だけを受け入れるしたたかさも。
このへんのしたたかさは日本も見習わないといけないよなあ。
日本がやっているような「単純労働に従事する移民を受け入れる」ってのは短期的にはいいんだろうけど、長期的に見たら生産性を落として対立を深めるだけなんじゃないかとおもう。
もう遅いかもしれないけど。
オーストラリアの戦略でもうひとつ特筆すべきは「ミドルパワー戦略」。
オーストラリアは広大な国土を有しているが、大部分が砂漠なので人間が住める場所は限られている。現在の豊かさを維持したまま人口を増やすことができない。
さらに国土が広いということは国境線が長いということで、防衛・軍備に金がかかる。
地理的な要因で、オーストラリアはどうがんばってもアメリカや中国のような超大国にはなれない。
だがすべての国が超大国をめざす必要はない。
大会社よりも中規模の会社のほうが勝っているところもたくさんあるように、ミドルパワーならではのふるまい方がある。
なるほどなあ。
日本が今後世界の勢力を動かすような大国になることはもうないが、オーストラリアの立ち位置なら今からでも十分めざせる。
日本が今からめざすべきはオーストラリアなんじゃないだろうか。
アメリカや中国ばっかり見てないでさ。
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