『潔白』
青木 俊
再審請求がされたのは死刑判決が出た事件、しかもよりによって刑は執行済み。はたして新たな証拠とは、そして裁判所は誤りを認めるのか……。
というショッキングなストーリーの小説。ショッキングだが決して荒唐無稽な物語ではない。
現実に検察や裁判制度は完璧なものではない。にもかかわらず死刑という「とりかえしのつかない」制度を導入している時点で、近い将来こういうことは起こる。
もしかしたらもう起こっているのかもしれない。これまでに死刑執行された中には、冤罪を主張していた人もいた。後から見れば不確かな証拠で有罪にされた人もいた。
彼らが無罪だった可能性は否定できない。
たいていの人は、「死刑判決なんてよほど確かな証拠がないかぎりは下されない」と思っている。ぼくもそう思っていた。極悪非道で反省しないやつは死刑にするしかないよね、と。
でも清水潔氏の『殺人犯はそこにいる』や瀬木比呂志氏・清水潔氏の『裁判所の正体』を読んで、明確な証拠がなくても起訴されることもあるし、怪しい証拠と強要された自白だけで死刑判決が下されることもありうるのだと知った。自分が冤罪に巻きこまれる可能性もないとはいえないのだと。
無実の罪を着せられて死刑にされるかもしれない、真実を述べているのに誰にも信用してもらえない、その恐怖と絶望を『潔白』は描いている。
今の制度のままだと、近い将来ここに描かれていることが現実に起こるだろう。そのとき死刑を言い渡されるのは無実のあなたかもしれない。
そして無実の人を死刑にしたと判明したとき、検察や裁判所が過ちを認めるかというと……。残念ながら意地でも認めようとしないだろう。
「99%こいつが犯人だから死刑!」という判決を下した裁判所は、「99%その判決は誤りだった」ということが明らかになったとしても頑として過去の誤審を認めようとしないにちがいない。
真実よりも人の命よりも組織を守ることを優先するだろう。
司法制度の穴を指摘したという点ではたいへん意義のある小説だが、残念ながら小説としてはあまりうまくない。
文章はヘンだし(「~です」と「~だ」が混在するのは校正が指摘しなかったのか?)、ストーリーは都合が良すぎる。みんな初対面の人間にデリケートな話をべらべらしゃべりすぎだ。真犯人が明らかになるあたりは安いドラマを観ているようだった。せっかくリアリティを持たせて作りあげてきた物語があれでいっぺんに嘘っぽくなってしまった。
中盤で判決の行方が二転三転するあたりは非常におもしろかったけどね。
題材がすごくよかったんだから、変にどんでん返しを入れてミステリとしての味付けをしなくても十分読みごたえのある話になったと思うんだけどなあ。
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