2017年11月13日月曜日

冤罪は必ず起こる/曽根 圭介『図地反転』【読者感想】

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『図地反転』

曽根 圭介

内容(e-honより)
総力を挙げた地取り捜査で集められた膨大な情報。そのなかから、浮かび上がった一人の男。目撃証言、前歴、異様な言動。すべての要素が、あいつをクロだと示している。捜査員たちは「最後の決め手」を欲していた―。図地反転図形―図と地(背景)の間を知覚はさまよう。「ふたつの図」を同時に見ることはできない。ひとたび反転してしまったら、もう「元の図」を見ることはできない。
『鼻』『藁にもすがる獣たち』『熱帯夜』に次いで、曽根圭介作品を読むのは4作目。
今まで読んだ中でいちばんシリアスな話だった。
他の作品はグロテスクな描写の中にもどこか乾いたユーモアがあったのだが、『図地反転』は冤罪という重いテーマを扱っていることもあってか終始落ち着いた筆致だった。
個人的には曽根圭介のブラックユーモアが好きなのでちょっと寂しいね。

静岡県で起こった女児殺人事件を軸に、かつて妹を殺された刑事、実の娘からいわれのない罪を着せられている老人、無実の罪で服役していたと主張する元受刑者とそれぞれ立場の異なる三人の行動が語られる。
複雑にからんだプロットは曽根圭介らしいのだが、いくつかある謎は最終的に半分くらいしか解決しない。
放りだすような終わり方なのでスッキリ解決するミステリを読みたい人にはおすすめできないけど、個人的にはこういうしこりの残るエンディングは嫌いじゃない。冤罪事件という一筋縄ではいかないテーマを扱っている以上、安易なハッピーエンドにするよりも余韻を残して読者にパスして終わるほうが誠実だと思う。

とはいえ満足のいくミステリだったかというと、いやそれは……。
たぶんタイトルが良くなかったんだろうな。
タイトルの『図地反転』は、見方によってまったく異なるものが見える図形のことなんだけど(有名なのは表紙にも書かれているルヴィンの壺)、『図地反転』にそこまでの意外性のある展開はない。
あっと驚くどんでん返しを期待して読んでしまうタイトルだけに「えっ、ぜんぜん意外じゃないじゃない……」と肩透かしを食らってしまった。

たぶん同じように感じた読者が多かったのだろう、文庫版では『本ボシ』に改題されている。そのタイトルもいまいちしっくりこないけど『図地反転』よりはまだましかなあ……。



ぼくが "冤罪" について思うのは、いいかげんに冤罪は起こりうるという前提のシステムをつくろうよ、ってこと。
これまでにも多くの冤罪事件が起こっているし、まちがいなく今後も起こる。殺人事件の冤罪なんかだと大きく報道されるけど、軽微な犯罪だったらもっとたくさん起こっているんだろう。
とはいえあんまり冤罪を気にしすぎるあまり未解決事件が増えるのもそれはそれで良くない。このへんの綱引きは難しいところだ。

もちろん冤罪が起こらないに越したことがないけど、「冤罪をなくせ」ってのは意味がない話で、なくせるものならとっくにやっている。
ミスをなくすシステムは作れないのだから、ミスを減らすシステム、ミスが起こったときにリカバリーできるシステムを作らなきゃいけない。

だったら「一定数、冤罪は起こりうる」という前提で、冤罪被害をできるだけ小さくすればいい。
具体的には刑が確定するまで報道は差し控えるとか、実名報道はやめるとか。冤罪で受けるダメージって、拘束されるという時間的被害も大きいけど、著しく名誉が傷つけられてその後の人生に悪影響が出るってことも大きい。新聞でもテレビでも、無実の罪で捕まったときは実名で大きく報道されるのに、無罪だとわかった瞬間に匿名になるからね。逆だろ。

今の世の中って警察に対しても犯罪者に対しても、「一度ミスを犯した人に対して異常に厳しい社会」だよねえ。いや昔はもっとそうだったのかもしれないけど。
もうちょっと寛容であってほしいと、しょっちゅう人生の過ちを犯している人間としては切に願うばかり。

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