2018年3月2日金曜日

お誕生日会という風習

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小学校低学年のとき、"お誕生日会"という風習があった。

ある日、同級生から招待状を渡される。「お誕生日会をやるから来てね」

赤紙と一緒で、招待状をもらったら欠席は許されない。手ぶらでの参加も許されない。

誕生日プレゼントを持って誕生日の子の家に行く。
その子のお母さんがケーキやお菓子やジュースを用意して待っている。参加者たちは主役であるその家の子にプレゼントを渡し、あとは飲み食いしてゲームで遊ぶ。帰り際には、来てくれたお礼ということでお土産を渡される。

今思うと、ずいぶん図々しい風習だ。
あたしの誕生日を祝うために集まりなさい、だなんて厚かましいにもほどがある。

常識的に考えれば、そんな暴挙が許されるのは王女様と西田ひかるだけだ。




たぶんあれは当人よりも母親が張りきってやっていたんだろうな。

「うちのかわいい〇〇ちゃんの誕生日なんだから盛大に祝わなくちゃ!」というある意味まっすぐな親心が、強制招集お誕生日会という暴挙につながっていたのだと思う。

「どれだけ豪華なケーキやおみやげを用意しているか」「どれだけいいプレゼントを持たせるか」という母親同士の見栄の張りあいもあったのだろう。

仲のいい数人を集めてわいわいやる、という程度ではなく、どのお誕生日会も十人以上集めて盛大にやっていた。クラスの男子全員が参加、ということもあった。

ある日、あまり親しくもない子のお誕生日会に呼ばれた。
お誕生日会に招待された、と母に言うと「じゃあ誕生日プレゼントを持っていかなきゃね。その子の好きそうなものを買ってあげなさい」と、五百円を渡された。

とりあえずおもちゃ屋に行ってはみたものの、親しくもない子に何をあげたらいいのかわからない。今なら無難にお菓子とかにするけれど、男子小学生にとっては「プレゼント=おもちゃ」である。
その子がガンダムのイラストの入った下敷きを持っていたことを思いだし、だったらガンダムだろうということでガンダムの安いプラモデルを買った。

誕生日会当日、プレゼントを渡すとなんとも微妙な顔をされ、子どもながらに「あっ、これははずしたな」ということがわかった。
じつはそんなにガンダムを好きではなかったのかもしれない。
ぼくはガンダムを観たことがなかったので、もしかしたらガンダムっぽい別のロボをプレゼントしてしまったのかもしれない。



またべつのある日、父親といっしょに犬の散歩をしていると、クラスメイトたちに出くわした。どうやら同じクラスの女の子の誕生日会をするところだったようだ。

クラスの女子ほぼ全員と、男子も何人かいた。一年生のときだったが、いわゆる「イケてる男子たち」も招待されていたらしい。

ぼくは招待されていないので気まずかった。軽くあいさつをして立ち去ろうとすると、あらゆることに楽天的な父親は
「なんだ、同じクラスの友だちか。だったらいっしょに遊んでこい」
とぼくの背中を押した。
「いややめとく」と言っても「恥ずかしがるなって。友だちなんだろ」と言い、あろうことか「ごめん、こいつもいっしょに入れてやってくれるかな」とクラスメイトたちに声をかけた。なんと無神経なんだろう。今でも恨んでいる。

イヤと言われることもなく(そりゃ言えないだろう)、急遽ぼくも誕生日会に参加することになった。

呼ばれてもいないお誕生日会への参加。地獄だった。

招かれざる客であるぼくは、もちろんひとりだけプレゼントを持ってきていない。誰も何も言わないが、その目が雄弁に語っている。コイツナンデイルノ。

ちがうんだ、ぼくだって来たくなかったんだ。


今思い返しても冷や汗が出る。

呼ばれなかったお誕生日会に参加することつらさたるや。
ぼくが魔女だったら、お誕生日を迎えた女の子に永遠の眠りにつく呪いをかけていただろうな。


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