2018年3月19日月曜日

ペーソスライブ@西成区・萩之茶屋

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ペーソスのライブに行った。

ペーソスとは、「なめだるま親方」の名で風俗ライターをやっていた島本慶氏が五十歳をすぎてから歌手になりたいと思ってはじめたバンド……ということで説明しても何が何やらよくわかんないですね。ぼくもよくわかんないです。

島本慶氏の本を読んだことはあったけど(感想はこちら。ひどい出来だった。良くも悪くも)、ペーソスの曲を聴いたことはなかった。

そんなぼくがなぜライブに行くことになったかというと、旧友Kに誘われたからだ。
Kは音楽を聴きすぎておかしくなった男で、高校時代はちょっとマイナーなロックバンド(テレビには出ないけどラジオには出る、ぐらいの)の曲をよく聴いていたんだけど、なんでも突き詰めないと気が済まない性分のせいで洋楽やら民族音楽やらに手を出し、毎週レンタルCD屋に行って上限いっぱいまでレンタルするということをくりかえした結果どんどんマニアックな道に進んでいった。
数年前に会ったときに「今どんな音楽聴いてんの?」と聴くと「今は山口百恵と浪曲にはまってる」という答えが返ってきた。ロックを極めた結果浪曲に行くという迷走をしている男だ。ちなみに今はちんどん屋に夢中らしい。

そんなKから下の画像が送られてきた。


「これ行こうぜ!」という誘い。

行動的ではないが新しいものは好きだから、こういう誘いはありがたい。見分を広めるチャンスだ。
ろくに読まずに「いいよ」と返事をすると「いろんな人に断られたから一緒に行くやつが見つかってよかった」と嫌な予感をさせるメッセージが届いた。

よくよくポスターを見ると開催地が萩之茶屋。おおっと。そりゃ断る人も多かろう。
ご存じない方も多いだろうが、萩之茶屋というのは大阪でも最もディープな場所だ。つまり国内トップクラスに味わい深い場所といっていい。
これ以上はどう説明しても差別になってしまいそうなので Wikipediaの萩之茶屋 の説明をそのまま引用する。
釜ヶ崎・あいりん地区と呼ばれる日本最大の日雇い労働者の街(ドヤ街)の中心である。2005年の国勢調査によると世帯数13473、人口14485人(男13473人、女1012人)であり、単身男性が非常に多い。11時と17時に行なわれる萩之茶屋中公園(通称:四角公園)の炊き出しや、あいりん総合センターで17時30分に配られるシェルターの利用券を求めて毎日長い列ができている。
人口の九割以上が男。そんな街に夜中に行って大丈夫だろうか。
不安はあったが、まあ殺されることはないだろう。念のため、ふだん使っているクレジットカードの入った財布は家に置いて、べつの財布に一万円だけ入れて家を出た。


夕方、JR新今宮駅に到着。
新今宮駅はJRと南海電車と阪堺電車が乗り入れているのでかなり乗降客が多いが、たぶんそのほとんどが乗り継ぎのみに使っていて、駅舎の外に出る人はそう多くない。


駅の真ん前には「あいりん労働公共職業安定所」の姿が。
朝にはここに多数の日雇い労働者が集まるという。ハローワークの総本山のような建物だ。
ちょうどパトカーがさしかかったのがまた味わい深い。

我々が駅を降りたのは夕方だったので、ハローワークの周辺には段ボールを敷いて寝床を準備する労働者たちの姿が多く見られた。彼らの夜は早い。
ハローワークの近くで寝起きすれば通勤時間を極力まで短縮できる。できるビジネスマンのライフハック。


道の真ん中にバナナが落ちていた。漫画と『マリオカート』以外ではじめて見た。
踏んでみたいという誘惑に駆られたがいいおっさんなので自制した。


やきとり屋。看板がぼろぼろだが、ちゃんと営業している。


居酒屋の前に洗濯機が。
これでカクテルでも作るのだろうか。


ライブ会場である釜晴れという居酒屋に入店。通常なら15人も入ればいっぱいになるぐらいの店。
今日はライブに備えて机を片づけてあるので、30名近くの客がいた。

おっさんバンドの開催に合わせて、メニューはおっさん仕様。いわし煮付け、ホルモン煮込み、タコとわけぎの酢みそ、新玉ねぎサラダ、ブロッコリーおひたしなど渋いメニューが並ぶ。どれも一品三百円ぐらいとものすごく安い。
ビールと日本酒を飲み、二人で料理を八品ぐらい注文したが一人二千円もいかなかった。 怖いぐらい安い。
料理はどれもうまく、箸が進む。
酒はまずかった。いちばん安いタイプの日本酒で、口に入れたとたん化学の味がする。しかし二口目から気にならなくなった。この街、この店にはこの酒がよく合う。

19時からライブがスタート。
よく読まずに行ったのだが、2部構成で前半はすどうみやこというシンガーソングライターのライブ。
プロフィールには性別不詳とあるが、なるほど、たしかにどっちかわからない。たぶん女装した男なんだろうけど、まあどっちでもいいやという気になる。
情けなくも気の強い大阪の女っぽい曲が中心。情感たっぷりに歌っていたかと思うと突然反戦ソングを唄いだしたりして、このなんでもあり感が楽しい。


そしていよいよペーソスのライブがスタート。


トーク、トランペット、ギター、歌。どれもペーソス(哀愁)がある。そしてどの曲にもおっさんならではのユーモアが。

ああ、笑った。くだらないんだけど、酒を飲んでるときにはこういうのがちょうどいい。
若い人が言ってもおもしろくないんだろうけど、おっさんやじいさんたちの口からばかばかしい発言が出ると笑わずにはいられない。


「睡眠導入剤♪」のコーラスが印象に残る『無職の女』



狂ったようにハーモニカをかき鳴らす『ワーキングプア』

途中に落語のような語りがさしこまれる『チャチャチャ居候』

認知症を患った配偶者の老老介護の悲哀を描いた『忘れないで』

など、ペーソスならではの唯一無二の曲を次々に披露。

そして終盤は体調不良に悩まされる高齢者の悲哀を唄った『疲れる数え歌』『老人のための労働歌』『霧雨の北沢緑道』で締め。



「尿酸値が高いから♪ 中性脂肪が多いから♪ 前立腺が腫れてます♪」という歌を、店内の客全員で大合唱。
こんなばかばかしいことをしたのはいつ以来だろ。あー楽しかった。

ペーソスのCDも売っていたが、CDは買わなかった。西成の居酒屋で安い日本酒を飲みながらみんなで歌うのが楽しいのであって、家でひとりで聴いてもたぶんおもしろくないだろうなと思ったので。

やっぱり見た目とセットでおもしろいからなあ。ある意味ビジュアル系。


店を出ると10時前。
土曜の夜なのにしんと静まりかえっている。日雇い労働者の町だから、みんな早く寝てしまうのだろう。
高級住宅街と日雇い労働者の町は、どちらも閑静なのだ。


ビジネスホテルの看板。いやこれビジネスホテルなのか? 一泊九百円。
「防災設備完備」って書いてあるけど、それってホテルとして当然のことじゃないの?


アパートの看板。いやこれアパートなのか?
ふつうアパートってこんな看板出さんでしょ。しかもアパートなのに「最上階豪華展望風呂」……?
「福祉申請手続き」とあるので、生活保護受給者をあてこんだアパートなのか? ふーむ、よくわからない。

萩之茶屋にはこういう謎のアパートと激安ホテルだらけで、ふつうのマンションや一戸建てはほとんどない。


酒の自販機が集まっていた。
見たことあります? ワンカップだけの自動販売機。
紙幣が使えない、ごっつい鎖付きの鍵がついているなど実に味わい深い自販機だ。



他にも郷愁を誘う自販機が並んでいる。しかし安すぎないか? 酒なのに100円って。酒税入ってる? ここは治外法権なのか?


「24h」とあるのに閉まってる。
そもそも電動工具の買取が24時間やってる必要あるのか?
夜中の三時に「この電動ドライバー買い取ってくれよ! 今すぐまとまった金が必要なんだ!」って人がいるのか?

うーん、この街ならいるかもしれないな……。


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