プロパガンダゲーム
根本 聡一郎
最大手広告代理店の新卒採用試験・最終選考。
学生八人が「政府チーム」「レジスタンスチーム」に別れ、プロパガンダゲームをすることに。政府チームの目的は、世論を動かして隣国との戦争を開始させること。対するレジスタンスチームの狙いは、反対多数になるよう世論を誘導すること。
はたして勝つのはどちらのチームか。そして妙に政治的なこのゲームの目的とは……。
おもしろかった。
この本を手に取ったとき、
「ああ、また設定はおもしろそうだけど期待外れにおわるタイプの物語だろうな」
とおもった。
設定がとびきり奇抜でおもしろそうな本って、たいてい読んで肩透かしを食らう。
『バトル・ロワイヤル』『CUBE』『SAW』以降多発した、異常なシチュエーションサスペンスだろうな。こういうのたいてい、序盤がいちばんおもしろくて右肩下がりになるんだよな。異常なシチュエーションを納得させられるだけの説明をつけられなくて。どの作品とはいわないけど。『インシテミル』とかさ。『LIAR GAME』も個々のゲームはおもしろかったけど黒幕の説明とかめちゃくちゃしょぼかったもんな。どの作品とはいわないけど。
こういうのを書こうとおもったら、乾くるみ 『セブン』みたいにリアリティを捨ててしまうしかないよね。半端にリアリティを出そうとしたら確実に失敗する。
……とあまり期待せずにだまされたとおもって『プロパガンダゲーム』はゲームそのものだけじゃなく、そのゲームが考案された真相のほうもちゃんと練られていて説得力があった。
ゲームそのものも読みごたえがあったし、ゲームの真相を暴いてそれに立ち向かう段階でもう一度楽しめた。
また、登場人物がゲームを進めるための駒になっていないのもいい。
この手の物語って、ひとりかふたりの主要登場人物をのぞけばバカばっかりになりがちなんだけど、『プロパガンダゲーム』に参加する八人は考え方やバックボーンはちがえどみんなそれぞれ賢い。とびきりのバカとか、他人の話をまったく聞かない自称天才とか、サイコパスとか、ストーリーを作者の都合よく進めるためだけに作られた単純なキャラクターがいない。
まあ「社会に対して強い関心・持論を持っている」という系統ばかりなので似通っているにはいるが、大手広告代理店の入社試験を受ける学生なんてだいたいそんなもんだから不自然ではない。
まず「就活の選考の一環としてのゲーム」という設定がよくできている。
なぜなら、実際にこういう変な選考をする会社はけっこうあるから。ユニークな選考方法をとりいれている会社、というのはニュースでよく耳にする。
だから学生にこういうゲームをさせることは不自然でないし、学生側にも真剣にゲームに参加する理由がある。じつによくできた設定だ。
「極限状態に追い詰められた人間の姿を見るためにどっかの金持ちが酔狂ではじめたゲーム」という安い設定だと興醒めだからね。
たかだか就活にしては金と手間をかけすぎじゃねえか、という疑問も湧くが、ちゃんとその疑問に対する答えも作中で提示されている。
うーん、つくづくよくできているなあ。むずかしいことをやっているのに、ほとんどボロが出ない。
ぼくが気になったのは
「チームメンバーの中にスパイがいることがはじめに告知されているのに、みんなスパイに対して無警戒すぎ」
ってことぐらい。
この手の「オリジナルゲームで知恵を使って戦う物語」としては相当よくできている小説だ。
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