乾くるみ 『セブン』
「7」という数字にちなんだ7つの物語からなる短篇集。
兵士たちが「7人が8個の数字の中から1つずつ数を選ぶ。他人と重ならなければセーフ、重なれば殺される」というゲームをさせられる『ユニーク・ゲーム』
「命の危険に際したときに7分ずつ7回の時間移動ができる能力を持った男」がその能力を使って身を守ろうとする『TLP49』
七組の双子が集まった場所で起きた殺人事件の真相を解明する『殺人テレパス七対子』
など、乾くるみらしいトリッキーな設定の物語が並んでいる。
乾くるみ作品って『リピート』『スリープ』もそうだけが、小説というよりパズルみたい。
登場人物が無機質な感じで、絶対に有名な文学賞は獲れないだろうなっていうタイプ。審査員から「頭でっかちで人間が描けていない」とか酷評されるタイプ。
でも、叙情的な描写が少ないからこそ、設定の巧みさがより光るのかも。
この短篇集は、まさにそんな乾くるみの真骨頂。
(玉石混淆なところも乾くるみらしい。だじゃれが肝の『小諸ー新鶴343キロの殺意』なんか、なんじゃこれって感じだった)
とりわけ完成度が高いのが、冒頭に収められた『ラッキーセブン』。
女子高生たちが命を賭けたトランプゲームをするという話なんだけど、まず設定への入口がめちゃくちゃばかばかしくて、実にいい。
『カイジ』とか『インシテミル』のデス・ゲームものの作品ってめずらしくないけど、一応もっともらしい理由付けをするじゃない。
大金持ちの趣味の悪い娯楽のため、とか。
でもどんな理由をつけても現実味がなくて嘘くさくなってしまう。
だったらいっそのこと、リアリティゼロのでたらめな導入にしてしまったほうがいいのでは?
『ラッキーセブン』でデス・ゲームが始まるのは、「ある女子高生が寿命の半分と引き換えに願いが何でも叶う能力を身につけたけど、唐揚げや中間テストのために寿命の大半を使ってしまってやけくそになったから」というむちゃくちゃな理由から。
もうこれぐらいありえない設定のほうが、ゲームの内容に存分に入りこめるよね。まずこの導入で成功していると思う。うけつけない人も多いだろうけど。
で、設定の粗さとは対照的にゲーム自体のルールはよくできている。
・7人に、A234567のトランプのカードが1枚ずつ配られる。自分以外にはカードの数字はわからない。
・Aがいちばん強くて7がいちばん弱い。ただし7はAに勝てる。
・1対1で勝負をする。まず相手のカードが何かを言い当てれば勝利。引き分けの場合は、カードの強さで勝敗が決する。
シンプルなルールなんだけど、これがすごく奥深い。
勝負を重ねるごとに刻々と局面が変わっていき、次々に新しい戦略が求められる。統計的思考と論理的洞察力と相手の腹の探りあいが勝負を決める、なんとも魅力的なゲームだ。
ただ、このおもしろいゲームにも欠点があって、それは「ぜったいに決勝戦がいちばんつまらなくなる」ってこと。
うーん......。これさえなければ不世出のサスペンス・ゲームになっていたのにな......。
きっと作者もこの弱点に気づいたから、いち短篇作品にしたんだろう。惜しいっ!
ゲームとしては穴があるけど、小説としてはほんとにおもしろい。粗いけど。
この短篇だけでも多くの人に読んでほしい(小説っていうかパズルだけどね)。
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