もつれっぱなし
井上 夢人
そういや井上夢人氏の小説を読むのはこれがはじめて。でも学生時代、岡嶋二人(井上夢人が組んでいたコンビ)のミステリはよく読んでいた。
岡嶋二人作品って常に一定の水準を保っているんだけど、すごく印象に残る作品もないんだよなあ。常に七十五点ぐらいのミステリだったなあ。個人的には。
で、『もつれっぱなし』なんだけど、やはり印象に残らない作品集だった。
六篇とも男女の会話だけで構成され、いわゆる地の分は一切ない。会話だけなのでさくさく読める。「説明くさいセリフ」のような不自然さはなく、じつにうまい。
ほんとうはすごくむずかいしことをやっているのに、苦労の跡も見せずにさらりと男女の関係性や状況を説明してみせている。
ただ、ストーリー展開がすごく単調だった。
『もつれっぱなし』というタイトルだから、どんな意外な展開になるのかと思いきや、「こうなるのかな」と予想したとおりに話は進んでいく。
本筋と関係のない会話がときおり差しこまれるから「これがなにかの伏線なのかな?」と思いながら最後まで読むが、何の伏線でもない。
んー……。これ、なにが『もつれっぱなし』なんだろう?
「二人の主張がはじめはかみあわないが、だんだん理解してもらえるようになる」という話ばかりで、ちっとももつれてない。
ラーメンズに『不透明な会話』というコントがある。
コントではあるが動きはほとんどなく、ほぼ会話のみで成り立っている。
うまくいいくるめて間違ったことを相手に納得させたり、へりくつを並べたり、意図がまったく伝わらなかったり、いつのまにか立場が入れ替わっていたり、これぞ「もつれっぱなし」という感じがする。
(ぜひ一度観ていただいたい)
それに比べると井上夢人『もつれっぱなし』は、ずいぶん単調な話だった。タイトルのせいでこちらが過剰に期待してしまったのかもしれないけど。
とはいえ、最後の『嘘の証明』は終盤で意外な事実が明らかになる構成で、ぼくはまんまと騙された。
会話のみで描写がないからこそ成立するトリックだしね。
これだけは満足できるクオリティだった。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿