青梅雨
永井 龍男
日常のスケッチのような短篇集。
いわゆる名文なんだろうけど、個人的にはこういう「何も起こらない小説」は楽しめないんだよなあ。志賀直哉なんかもそうだったけど。
ただ、葬儀にまぎれこんだ狂人(自分ではまともで「他の人」が狂っているとおもっている)の心境をスケッチした『私の眼』、
そして同じ場面を「他の人」の視点で描いた『快晴』はぞくぞくしておもしろかった。
この男、見ず知らずの人の葬式に参列して、香典袋に靴べらを入れて渡す。あからさまな「おかしい」ではなく、当人にとってはまっとうな理由がありそうな狂気なのがいい。
読んでいて、狂気と正常のボーダーラインがゆらいでくる。
一家心中当夜の家族の落ち着いたたたずまいを描いた 『青梅雨』もよかった。
心中を前にしている家族の立ち居振る舞いは、むしろ晴れやかで楽しそうですらある。
心中って経験したことないけど(たいていの人はないだろう)、案外こんなもんかもしれないなあ。
ひとりで自殺するよりも、気楽で悲愴感はないのかもしれない。
先生に怒られてひとりだけ教室に居残りさせられるのはつらいけど、ふたりで居残りさせられるときはちょっと楽しいもんね。妙な親近感がわいて。そんな感じなんじゃないかな。
末井昭という人が「おかあさんがダイナマイト心中した」ことを書いてるけど、申し訳ないけど、もう笑っちゃうもんね。ダイナマイト心中ってちょっと楽しそうな感じするもん。
太宰治なんかあれもう心中をどっか楽しんでるようなとこあるしね。
過激派が自爆テロなんてのも、あれはやっぱり誰かと一緒に死ぬからこそできるんだろうね。
みんな心の奥底に「ひとりで死にたくない」って思いがあって、それが心中や自爆テロがなくならない理由なのかもしれない。
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