2019年3月8日金曜日

【読書感想文】まるで判例を読んでいるよう / 薬丸 岳『Aではない君と』

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Aではない君と

薬丸 岳

内容(e-honより)
あの晩、あの電話に出ていたら。同級生の殺人容疑で十四歳の息子・翼が逮捕された。親や弁護士の問いに口を閉ざす翼は事件の直前、父親に電話をかけていた。真相は語られないまま、親子は少年審判の日を迎えるが。少年犯罪に向き合ってきた著者の一つの到達点にして真摯な眼差しが胸を打つ吉川文学新人賞受賞作。

乱歩賞作家の作品なので、ずっとミステリかと思って読んでいた。
あれ、ぜんぜん意外性のない結末だな、とおもったらどこにもミステリとは書いてなかった。ぼくが勝手に勘違いしていただけだった。
「乱歩賞作家の書いたものだからミステリだ」と無条件に信じてしまう、思いこみとはおそろしい。

思いこみといえば、少年犯罪といえば「手の付けられない不良少年」か「快楽殺人者的な精神のねじまがった少年」がやるもの、という思いこみがある。
たぶんぼくだけではないだろう。「少年院に行っていた」と聞くと、ほとんどの人は相手と距離をおくと思う。

『Aではない君と』では、主人公である会社員男性の息子が殺人犯として逮捕される。
デビュー作『天使のナイフ』では被害者の遺族の苦悩を描いていた薬丸岳氏だが、本書は加害者の家族がストーリーの中心。
ある日殺人犯の家族になったら……。

ぼくも人の親として、考えずにはいられない。自分の子が誰かを殺してしまったら。殺されてしまったら。
あれこれ考えたけど、答えは……わからん!

そんなものなってみないとわからんと言うしかない。たぶん「そんなこと考えたくない」という気持ちが強すぎて、想像力がうまくはたらかないのだろう。
殺人なんて遠い世界の出来事と思っていないと、とても子育てなんてできやしない。「ひょっとしたらうちの子が人殺しになるかも」なんて考えてたら、誰も子ども生まないよ。

『Aではない君と』は綿密な取材に基いて丁寧に書かれた小説だけど、どれだけ現実に即した描写があっても別世界のファンタジーとしか思えない。題材が重たすぎて。子どもがいるからこそ、余計に。



『Aではない君と』に現実感がないのは、登場人物がまっすぐすぎるからでもある。
同級生を殺した中学生の翼は反抗期のかけらも見られないし(人は殺すけど親の前ではすごくいい子)、主人公(父親)はとにかく責任感が強くて、真摯に自分のかつての行動を反省している。
人間、そんなにまっすぐに自分の過去を反省できるもんかね?
他人のせいにしたり、世の中のせいにしたり、運が悪かっただけだと嘆いたり、おかれた状況から逃げたしたいと思ったりするもんじゃないだろうか?
この主人公にはぜんぜんそういう思考が見られない。ただひたすらに「自分がもっと息子と向き合えばよかった」と反省している。

人間ってもっと身勝手なもんだと思うよ。そうじゃなかったら、「息子が人を殺した」という現実の前では心がつぶれてしまうんじゃないかな。
そりゃあ自制心が強くて他人のせいにせず頑強なメンタルの持ち主だってどこかにはいるかもしれんが、そんな人が離婚して子どもを捨てるかね?

少年犯罪の司法制度のことなんかは事細かに描写しているのに、人物描写が単調なせいで小説としてはずいぶん平板な印象。
まるで判例を読んでいるようで、重厚なテーマの割には感情を揺さぶってくれる小説ではなかったな。

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