その本は
又吉直樹 ヨシタケシンスケ
母親から「あんたこれ好きでしょ」とプレゼントされた本。
ごめんなさい、ぜんぜん好きじゃないです。おかあさん、わかってないですね。何十年ぼくの親やってるんですか。
たしかにヨシタケシンスケさんの絵本はおもしろいし、又吉さんの本も何冊か読んだけど、この手の「売れてる人と売れてる人を組ませたら売れるっしょ」という安易なコラボは大嫌いだし、なによりぼくはポプラ社の文芸本は買わないことにしているんだ! 商売のやり方が嫌いなので。
まあ自分ではぜったい買わない本だけど、だからこそもらっておく。で、気が進まないながらも読んでみた。
あー。
やっぱり、ぼくの嫌いなタイプの本だー。
忙しい人が力を抜いて書いた、って感じが伝わってくる。
「その本は」で始まる物語をふたりが交互につづってゆく。又吉直樹氏が小説、ヨシタケシンスケ氏がイラストと短文で表現しているのだが、特に又吉パートはひどかった。申し訳ないけど、ことごとくつまらない。
まずこの手の企画に又吉さんの文章があっていない。文体も発想もショートショート向きじゃない。この手の企画をやらせるのはもっと軽妙な文章で切れ味鋭い短篇を書ける人だろう。全盛期の阿刀田高氏のような。
驚くような展開もなければ、気の利いたオチもない文章がだらだらと続く。読んでいられない。ことわっておくと又吉氏のせいではない。この企画をやらせた編集者が悪い。マラソン選手を100メートルリレーに抜擢するようなものだ。
少しも頭を使わずに金だけ使った企画、という感じ。いかにもポプラ社らしい。
最近の又吉さんは「芥川賞受賞芸人」という肩書のせいで身の丈以上のものを背負わされていて、見ていて気の毒になる。テレビでも、作家でも芸人でもない立場で呼ばれたりしてるしな。そんなに器用なタイプじゃないだろうに。
粗製乱造、という言葉がぴったりの作品だった。
一方のヨシタケシンスケさんパートは、まずまず楽しめた。特に『自分の個人情報がすべて書かれた本』は好きだった。
ショートショートとしても一定のクオリティを保っている上、絵自体に魅力があるのでそれぞれが作品として読みごたえがあった。
ところで『その本は』はすべてが同じ書き出しで始まる短篇集だが、五十年以上も前にこの形式に挑戦した作家をご存じだろうか。
そう、ショートショートの神様・星新一氏である。「ノックの音が」で始まる十五編の短篇を書き、しかも『その本は』と違っておもしろい。まあ神様と比べたらかわいそうだけど。
ということで、『その本は』を買う前にぜひ『ノックの音が』を読んでみてくださいね!
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