砕け散るところを見せてあげる
竹宮 ゆゆこ
タイトルに惹かれて購入。なんだかアニメのノベライズみたいな文章だなとおもって読んでいたのだが、調べたらやっぱりライトノベル出身の作家だった。あー。今は新潮社もライトノベルのレーベルを持っているのかー。
ライトノベルはほとんど読んだことがない。井上真偽の『探偵が早すぎる』を読んだときは「これがライトノベルなのだろうか?」とおもったけど。
ということで新鮮な気持ちで読んだ。
最初は「なるほど、これがライトノベルか」ぐらいのやや冷やかし気分で読んでいた。
うん、さすがライトというだけあって小説入門にはいいね。会話主体の展開、口語表現、登場人物たちがおもっていることをほとんど口に出す(あるいは地の文で明記する)ところ。
とにかくわかりやすい。〝行間を読む〟がほとんど要求されない。かなりローコンテクストな小説だ。
難解なだけで何が言いたいのかさっぱりわからない独りよがりな小説よりずっと読みやすい。作者のサービス精神を感じる。
個人的にはわかりやすすぎてちょっと退屈だったけど、これはこれでいいとおもう。
はるか昔にこんな雰囲気の小説を読んだ気がする……と考えて、おもいだした。新井素子『グリーン・レクイエム』だ。1980年発表。ぼくが読んだのは2000年頃だった。高校の図書館で読み、装丁の美しさもあいまって手元に置いときたいとおもい、わざわざ書店で取り寄せて購入したほど好きだった本だ。
『グリーン・レクイエム』は異星人との恋を描いたSF小説だったが、あれも今の定義でいえばライトノベルになるのかもしれない(当時はそんな言葉はなかった)。
『砕け散るところを見せてあげる』も、ぼくが中高生だったならばすごく好きな小説になっていたかもしれない(ギャグは好きになれなかったが)。
……というのが読んでいる最中の感想だった。だが。
おお。こ、これは。素直に認めたくないけど、なかなかおもしろいじゃないか。途中からはどんどんおもしろくなった。
【以下ネタバレ】
ストーリー展開自体は、そこまで目新しいものはない。
高校生の主人公がいじめに逢っている後輩の女の子を助ける、なんやかんやあってふたりの距離が縮まる、気持ち悪いとおもっていた女の子があか抜けて素敵に見えてくる、実は女の子は父親から虐待を受けていた、女の子を救い出すために主人公は行動を起こす……。
よくある話、かどうかは知らないが、物語の世界ではいじめも虐待もよく見るテーマだ。現実ではどちらもなかなか快刀乱麻ようには解決しないけど、そこはフィクションなのでシンプルに解決する。かんたんではないけど、シンプルに。
2000年代前半に浅野いにお氏がこういう漫画を描いていた。さわやかな絵柄なのに、いじめや虐待といったヘビーな出来事をまるでなんでもないかのように描く手法。当時は斬新だったが、後続作品がどんどん現れたことで今ではめずらしくもなんともない。
『砕け散るところを見せてあげる』はそれの小説版、といった感じ。やっぱり漫画っぽさはぬぐえない。
【以下もっとネタバレ】
そんな感じで読んでいたら、あと数十ページを残して問題解決してしまった。あれ。まだけっこうページ残ってるけどどうするの?
とおもっていたら、そこからは一気に時代を飛び越え、概念的な話が続く。なんだこれ。そして、叙述トリックが明らかになる。
あー。なるほど、冒頭の「俺」は、中盤の「俺」の息子かー。死んだはずの父親が現れたところで変だとおもっていたんだよな。よく読めば、作中に出てくる小道具にもいろいろヒントがある。誰も携帯電話持ってないのは数十年前だからか。
やー。よく考えてるな。ミステリとおもって読んでたら警戒してたけど、ライトな青春ストーリーだとおもって読んでたから油断してた。まんまと騙された。
素直に認めるのはなんか悔しいけど、けっこうおもしろかったぜ。
ところでこの本を、小学六年生(読書好き)の姪に「おっちゃんが読んだ本だけどよかったら」とプレゼントしたところ、一日で読んだらしく電話がかかってきて「おもしろかった!」というお声を頂戴した(やはりラストの展開はよくわからなかったらしいが)。
うん、やっぱりティーン向けの本だったね。おっさんが読んでぶつぶつ言ってすみませんでした。
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