2022年10月26日水曜日

【読書感想文】サエキ けんぞう『スパムメール大賞』 / どう見ても犬じゃないですよね?

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スパムメール大賞

サエキ けんぞう

内容(e-honより)
パソコンの受信メール箱を埋め尽くすスパムメール。だが、じっくり読むと奇想天外な面白さのメールが隠れているのだ。「訳アリ人妻のご奉仕」「禁煙中で口寂しいからフ×ラしたい」「あなたは30億円で落札されました」など抱腹絶倒のスパムメールの数々を紹介、激しい突っ込みコメントを入れながら、メール文化の根源に迫る。

 今から二十年近く前、スパムメールがよく届いた。

 LINEもSNSもなかった時代。遠くの人とメッセージを交わす方法はメールしかなかった。なので多くの人はプライベートで一日に何通ものメールをやりとりしていた。多い人だと、一日に何十通、もしかしたら百通以上送っていたかもしれない。

 そんな時代だったから、あの手この手で人を騙してやろうとする業者や個人も、メールを使っていた。それがスパムメールだ。メールフィルタ機能もしょぼかったので、スパムメールは頻繁に届いた。「スパムが多いのでメールアドレス変えました」なんて人も多かった。

 最初は「素敵な出会いが貴方を待っている★」みたいな単純な手口だったが、業者の手口も洗練(?)されてきて、次々に新しいスパムメールが開発されていった。

 そんなスパムメール全盛期の2004~2006年に、著者が積極的に怪しいサイトにメールを登録したり、届いたスパムメールに返信したりして、数々のスパムメールを集めたのが本書だ。



 試みはおもしろいし、掲載されているスパムメールもおもしろいものも多い(ただし企画の性質上、下ネタ多め)。

 ただ、それに対する著者のツッコミがつまらない。まあこれは単純に文体が古いってのもあるけど……。

 古びやすい文章とそうでない文章があって、著者の文章は典型的な前者。いかにも2000年代前半の文章って感じで、今読むとうすら寒い。まあこれは十数年たってから読んだぼくが悪いんだけど……。



 ぼくはマーケティングの仕事をしているのだが、スパムメールはなかなかマーケティングの勉強になる。スパムメール業者だってみんながバカじゃないから(バカも多いだろうけど)、あれこれ作戦を立てて、反響を見て、うまくいったものをさらに改良して送信しているのだろう。いってみれば数々のPDCAサイクルをくぐり抜けてきたものが、我々の手元に届くのだ。

 そこには「どうすれば人はひきつけられるのか?」というマーケティングの永遠のテーマに対する答えがある。

 なかでもすごいのは〝逆援助〟だ。

 そんなスパムメールは、いよいよ2005年、恋愛革命を起こすことになります。
 まず、男が女性を誘う時代に終止符を打ったのです。
 それまでの恋愛は、男が女をしとめるものでした。たとえソープランドのような場所であっても、男の側から女性を選ぶ。そんな恋のあり方は、狩で生きてきた石器時代から続いてきた営みだったかもしれません。
 しかし、スパムメールの中で、女性は堂々と男を「捕らえ」はじめました。最初は恥ずかしそうに、しかしじょじょに大胆に。
 ついには女性が男を「買う」ことも常識になってしまったのです。スパムメールが持つ最大のコンセプト「逆援助交際」は、堂々と2005年大々的なデビューをしました。

 出会い系スパムメールの最終目的は「男に金を使わせる」ことだ。そのためにはどうしたらいいか。

 ふつうに考えれば「うちのサイトに登録すれば素敵な女性と出会えますよ」とか「まずは1ヶ月無料でお試しください」とアピールするだろう。商品の魅力を伝える、試用期間を利用して加入させる。いずれも王道のマーケティング手法だ。王道であるがゆえに、誰でもおもいつく。

 そこへいくと「あなたにお金を払いたい女性がいます」というスパムメールはすごい。常人にはまずおもいつかない。

 エロいことをさせてくれる上にお金までくれるという。まさに逆転の発想だ。送られたほうからすると「両方叶うならこんなにすばらしいことはないし、どっちかだけでもラッキーだ。両方叶わなかったとしても、何も失うわけじゃないしな」とおもえる。還付金詐欺と並ぶ、なんともずるがしこい発明だ。

 まあクリックはさせても、そこからお金を払わせるまでにもっていくのがまたむずかしいんだろうけど……。


 他にも「パソコンメールの調子が悪くなって送信はできるが受信ができなくなったから、連絡手段を考えました。出会い系サイトの掲示板を使うことにしましょう」という手口や、まちがいメールをよそおって「本来なら有料の出会い系サイトを無料で使う裏技を発見した!」といってサイトに誘導する手法、「部署移動させられた腹いせに会社に損害を与えたいのでこのサイトでがっぽり得してください」という文面など、よく考えられているなあと感心するスパムメールも多い(だましたらダメよ)。

 そうかとおもうと、本気でだます気があるのかとおもうようなメールも。

Subject:ズバリ言うわよ!アンタ、地獄に落ちるわよ!

アンタ、夏の恋は最悪でしょう!ズバリ、このままじゃ、ろくな恋しないわね。出会えないサイトばっかり、登録してるのは、分かってるのよ!アンタのやってる事はね、サクラにお金払ってるのよ!アンタ、頭いいのにサクラも知らないの?中途半端なサイトに登録しても、返信が無いだけ!断言するわ、アンタはサクラに弄ばれる!まあ、紆余曲折はあるけど…このサイトだけ、見ておきなさい。セフレできるわよ!セフレができなきゃ、アンタが悪い!一長一短にはいかず、乱気流するわね。

 このメールを受け取った人が登録しようとおもうか?

 もうやけくそになっているとしかおもえない。スパムメール業者も組織化されて、モチベーションの低い従業員が適当に送るようになったのかもしれない。


 そんなばかばかしいメールの中でも、特に手が込んでいるのがこれ。 

 初めまして。見知らぬ人間からいきなりのメールの到来、すわ何事かといぶかしんでいるかと思われます。
 当方、米田寅美という婆で御座います。
 主人は既に他界しており、息子夫婦も四年前に事故にて失い、今は息子夫婦の残した孫娘と朗らかな日々を過ごしております。やつがれと同年代で嗜む者が多い盆栽にもゲートボールにも興味が無く、「趣味は専らインターネットでのエロ画像の収集であります。
 早速ですが今回メールさせて頂いた本題に入ります。
 折り入ってお願いがあるのですが、孫娘と交尾して頂けないでしょうか。孫娘は、身内であるやつがれの贔屓目抜きでも別嬪だと思っているのですが、如何せん奥手で内気な性格が禍して、二庶0回の誕生日を迎えた今でも処女なんです。処女膜、在中です。若かりし時分のやつがれは、孫娘と同じ年齢の頃には何署もの殿方と交尾を夜な夜な繰り返し、「淫獣」の通り名を轟かせ、快楽に満ち溢れた人生を謳歌していたものです。
 孫にも交尾の悦びを覚えさせたい、少なくともやつがれの血を引きし者として、根は淫乱であろう事は想像に難くないのですが、切っ掛けに恵まれてないのが不幸で。孫の許可も既に得た上で、こうして交尾していただける殿方を探しているんですが、お願いできないでしょうか?謝礼金も用意出来ますので。
 それでは、御返事お待ちしております。長文失礼致しました。

BGM:太陽とシスコムーン「ガタメキラ」
YONEDA the Tiger Beauty拝

  無駄におもしろい。設定もすごいし、それにあわせた(といっても大げさすぎるが)文体も作っている。「エロとネットが大好きな、行動力のありすぎる婆さん」の姿がありありと浮かんでくる。

 メールなのにBGMまで設定して、YONEDA the Tiger Beauty(寅美なのでTiger Beauty)という署名まで凝っている。

 もはやこれは文学と言っていい。



 最後に、ぼくがいちばん開封したくなったメール。

Subject:どう見ても犬じゃないですよね?

祖父の部屋にいるこの生き物って何だか分かりますか?
祖父はワンちゃんを拾ってきたんだよと言ってるのですが、どう見ても犬じゃないですよね? これ、日本にいて大丈夫な生き物でしょうか?
写真をアップしておきましたので、この生き物が何なのか教えていただけないでしょうか?
犬はこんなに簡単に後ろ足のみで立ち上がったりしませんよね?

 気になる~!


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