2022年10月11日火曜日

キングオブコント2022の感想

このエントリーをはてなブックマークに追加

 キングオブコント2022の感想。


 漫才に比べてコントは表現の幅が広くていろんなことができるし方向性も多様なので、点数をつけて並べることにあんまりなじまないとおもうんだよね。そもそもの話になってしまうけど。なので、点数や順位はあんまり意味がないというか、単なる審査員の好みでしかないとおもうのでそのへんにはふれない。


 いやあ、すごくおもしろかった。いい大会でした。2021年に審査員一新してからよくなったね。

 スタジオの客はアレだったけどね。去年も書いたけど。なんだねあの客は。客というか客に指示を出している人の問題なのかもしれないけど。出てきただけで笑う。フリの段階で笑う。くすぐり程度のボケで手を叩いて笑う。コントを観る客じゃなく、単なる盛り上げ役のエキストラ。そりゃあ番組なんだから多少おおげさに笑うほうがいいけど、ちょっと限度を超えていた。

 あと、去年もそうだったんだけど、出番順がよくできすぎじゃない? わかりやすく笑える初出場組からはじまって、徐々にリベンジ組や下馬評の高い本命が増えてくる。ほんとに抽選? 作為入ってない?




 以下、ネタの感想。


クロコップ

 あっちむいてホイデュエル。

 おもしろかったなあ。キングオブコントは15回すべて観てきたけど、トップバッターの中ではいちばん笑えた。

 ほんと、トップバッターとして最高の出来だったとおもう。ポップで、バカバカしくて、誰にでもわかる。遊戯王がわかればなおおもしろいんだろうけど、わからなくてもおもしろい。

 やってることはかなりベタなんだけど、あの衣装と曲のパワーで、わかっていても笑っちゃう。

 そしてすばらしかったのが縄ばしごだけでヘリコプターを表現したところ。あの小道具のチープさと、表現している絵のダイナミックさとのコントラストがまたいい。あの絵の構図って、誰も実際に見たことないのに誰もが知っているシーンだもんね。くだらなすぎて最高。

 まちがいなく今大会の殊勲賞。優勝者が歴代最高得点を記録したのはクロコップのおかげだ。


ネルソンズ

 映画『卒業』風に花嫁を奪いに来る元カレ。

 題材といい、展開といい、あまり新しいものがなかったな。三人の世界で完結せずに(見えない)出席者も巻きこんでいるあたりはよかったね。まあおもしろかったんだけどね。「二次会だぞ」の種明かしもすばらしかったし。

 ただ、このトリオのキーマンである和田まんじゅうがまるで傍観者のようなポジションになってしまったのは残念。もっと彼をおもしろく追い込むネタもあるだけに。個人的には、以前の決勝でやった野球部のネタのほうが好きだった。

 新婦が、成功者である元カレよりも新郎を選ぶ理由が「足が速いから」ってのがなあ。リアリティはないし、かといってボケとしては弱いし。

 展開的には、新郎が見捨てられないのが令和の笑いっぽいなと感じた。平成はまだ「ブ男はひどい目にあってもいい」とされていた(少なくともコントの世界では)時代だからね。

 あの新郎、新婦の友人百人が百人とも「ご主人、優しそうな人だね」と言うタイプだよね。


かが屋

 ドMの男と、それを落としたい先輩女性社員。

 なーんか、キングオブコントに照準を合わせたようなネタだなー。かが屋の持ち味はそこじゃないのに、とおもってしまう。

(彼らにしては)派手めな設定、性急かつ意外性のない展開、そして芝居ではなく説明台詞で状況や内面を口に出してしまう雑さ。あの電話はほんとに楽をしちゃってたなー。

 きちんと脚本と芝居で見せる実力を持ったコンビだけに、あの拙速な展開は残念だったな。せめて「ふたりがお互いの思惑に気づく」のをラストに持ってきていたらもうちょっと印象も違ったんじゃないかとおもうが。

 かが屋らしくても勝てないし、らしくないことをしても勝てない。このコンビにとっては、べつにキングオブコント優勝だけが生きる道じゃないとおもうぜ。


いぬ

 インストラクターと主婦の夢。

 ばかばかしい展開は嫌いじゃないけど、それは緻密な設定や細かいリアリティがあってこそ生きるもので、「夢」や「キス」といった安易な手段を使っちゃったらなあ。

 ところであの濃厚接触シーンは、2020年や2021年だったらテレビでさせてもらえなかったかもね。いや今年でもアウトかもしれんが。


ロングコートダディ

 料理頂上対決。

 コック帽が看板にあたって落ちる、というシンプルなくりかえしでありながら、細かい会話のやり取りや役柄にマッチしたふたりのキャラクターで飽きさせない。いやほんと、あのシェフを違和感なく演じられる人はそうはいないよ。あの風貌だからできるネタ。「ぜんぜん」の使い方もすばらしい。ばかみたいな感想だけど、センスがいいなあ。

 個人的にはすごく好きなコントだったけど、点数が伸びないのもわかる。腹抱えて笑うようなコントじゃないもんな。でも彼らの持ち味は十分に発揮できたとおもう。ロングコートダディも、かが屋と同じく「チャンピオンを目指さなくてもいいコンビ」だとおもう。まあこれは外野の勝手な意見で、当人たちは目指したいんだろうけど。

 ところでこのワンシチュエーションをひたすら突き詰めるコントは、ロッチが『試着室』のネタでかなり頂点に近いところを極めてしまったので、あれを大きく跳び越えるのはなかなかむずかしそうな気もする。

 ネタ以外のところでは兎さんの「金髪だから印象に残るんですよ」は今大会いちばんおもしろいコメントだった。松本人志審査委員長の実績や名声を一切破壊するようなひっでえ悪口だ。


や団

 死んだふりドッキリ。

 怖すぎた。個人的には嫌いじゃないけど。コントだとわかっていても「人が死体を遺棄しようとするシーン」は楽しく見ていられない。もはやサスペンスホラー。ツッコミ役が明るくポップであればまだよかったのかもしれないけど、彼の顔も怖いしな。顔の怖い人と、行動が怖い人と、何考えてるかわからなくて怖い人。三人とも怖かった。

 なんといっても秀逸なのは鼻歌まじりに加えタバコで死体処理をするシーン。貴志祐介『悪の教典』でサイコパスの主人公が三文オペラのモリタートを歌いながら生徒たちを次々に殺していくシーンをおもいだした。


コットン

 浮気証拠バスター。

 細部まで丁寧につくりあげられた構成、それを支える確かな演技力。見事なコントだ。が、見事すぎる点が一位になれなかった原因なのかなという気もする。設定が完璧すぎて遊びがないというか。隙がなさすぎて「ほんとにこんな仕事あるのでは」という気がしてきた。

 良くも悪くも頭いい人が考えたネタ、って感じがしたな。ぼくはラーメンズのコントが好きで、ラーメンズはもちろん、小林賢太郎単独作品やKKP(小林賢太郎プロデュースの劇団)の作品もよく観ていた。で、いろいろ観た結果、やっぱりいちばんおもしろいのはラーメンズだった。それは片桐仁がいるから。彼がいることで、コントに「バカ」が加わる。片桐仁の頭が悪いという意味ではなく、予測不能性というか、あぶなっかしさがプラスされるということだ。

 コットンのコントには、小林賢太郎単独作品のような「おもしろいしよくできているんだけど、でもなんか退屈」を感じた。よくできているからこそハラハラドキドキ感がない。

 ということで個人的にはなんかたりないなという印象だったんだけど、でも思い返してみるとやっぱり隅々までよくできていた。彼女からの電話とか、彼女が急に来るとか飽きさせない展開も用意していたし。なによりすごいのは、変な人が出てこないということだよね。ちゃんとした人がちゃんとした仕事をちゃんとこなしている。なのにおかしい。すごい脚本だ。


ビスケットブラザーズ

 野犬に襲われる

 で、そんなコットンに足りなかった「バカ」をふんだんにまぶしたのがビスケットブラザーズ。

 気持ち悪いのにかわいげのあるふたりが飛んだり跳ねたりしているだけで妙に愛おしい。不気味さや気持ち悪さを描いたコントはわりとよくあるが(今大会でいうとや団や最高の人間とか。過去にもかもめんたるやアキナもサスペンス感の高いコントをやっている)、ビスケットブラザーズが他と違うのは圧倒的な善性を持っているところだろう。気持ち悪いけど、悪意や攻撃性はまるで感じない。そしてそこがまた気持ち悪い。

 そう、純粋無垢な善ってなんか気持ち悪いんだよね。我々は生まれながらにして悪も持ってるから。圧倒的な善に対しては、無意識のうちに「そんなわけないだろ」と警戒してしまう。ビスケットブラザーズは一貫して善なるものの気持ち悪さを表現している。

 衣装で安易な笑いをとりにいっているかとおもいきや、展開やセリフなど入念に設定が作りこまれている。ぱっと見の印象ののせいで「見た目や動きで笑いをとろうとするコント」と判断してしまうのはもったいない。あのコントを「安易な笑い」と言う人こそ、上辺だけしか見ていない。ビスケットブラザーズの良さはそこじゃない。あの見た目がなくても十分おもしろい。

 好きだった台詞は「それどういう意味」。あのタイミングであの台詞。最後まで予定調和を許さない。最高。

 ベタな笑いからシュールな笑いまで幅広く詰めこまれていて、パワーだけでなくテクニックも備えている。全盛期の朝青龍を髣髴とさせた。


ニッポンの社長

 人類補完計画。

 一昨年の『ケンタウロス』、昨年の『バッティングセンター』ではたっぷり時間をかけた丁寧にネタふりをしてからナンセンスな笑いで吹き飛ばすという贅沢なコントを見せてくれたニッポンの社長だが、今大会はうってかわって短いフリとベタな笑いのくりかえし。

 あれ。どうしちゃったの。まるでショートコント。特に見どころを感じなかったな。


最高の人間

 テーマパーク。

 ピン芸人同士のユニットだが、それぞれの良さが出たネタ。とはいえ元々持ち味が似ているので、おいでやすこがのような「タイプの異なるこの二人が組んだらこんなにおもしろくなるのか!」というような驚きはなかったけど。

 間が詰まりすぎていたように感じた。特に前半。あそこはもっともっと時間をかけてたっぷり怖がらせてほしかったな。その部分の不気味さが大きいほど、中盤での「みんな逃げて」が生きただろうに。

 そしてせっかくの緊迫感のある展開だったのに、終盤の回想シーンのせいで緊張の糸が切れてしまった。あのサスペンス感を保ったまま最後までいってたら……、いやそれでも勝てなかったかな。怖すぎたもん。

「観客を新規スタッフに見立ててしゃべる」構図なのもよくなかったのかもね。当事者感が出すぎてしまって。あれがトリオで、や団のようにツッコミ役がいればだいぶ緩和されてたんだろうけど。




以下、最終決戦の感想。


や団

 気象予報士の雨宿り。

「気象予報士が予報をはずして雨宿り」ってせいぜい四コマ漫画の題材程度の発想だけど、そこからあれだけストーリーのあるコントに仕立てあげるのが見事。

 個人的には一本目の死んだふりドッキリよりもこっちのほうが好き。大男がびしょ濡れになってやけくそになっているだけでおかしいし、狂気は感じつつも「気象予報士への逆恨み」という行動原理がわかるからそこまで怖くない。だから笑える。気象予報士を恨むのはお門違いだけど。

 マスコットキャラクターの中の人だということが明らかになるタイミングもうまい。さすが15年決勝に進めなかっただけあって、いいネタをストックしてるなあ。


コットン

 お見合い。

 これまたぶっとんだ人が登場するわけでもなく、特別なことが起こるわけでもないのに、リアリティをギリギリ保ったままちゃんと笑えるコントに仕立てている。見事。

 上品な女性がタバコを吸いはじめてガラの悪い本性を表す……じゃないところがいいね。徹頭徹尾上品さを保っている。タバコを吸っている以外はまとも。いやべつにタバコを吸う人がまともじゃないわけじゃないけど。

 前半と後半でまるで別人になってしまうような(芝居として破綻している)コントも多いけど、コットンはキャラクターの一貫性を保っているのがうまい。笑わせるためなら何をやってもいいってもんじゃないからね。

 ただ、キャラクターが首尾一貫していただけに「お見合いでもじもじしていた二人が数分間でプロポーズして承諾する」という展開の性急さが目についてしまった。とってつけハートフル。〝エンゲージリング〟をやりたかったんだろうけど、あそこで「気持ちはありがたいですけどまだお互いのことを知らなさすぎるので……」ぐらいにしていたら、もっと上質な仕上がりになったのになあ。少なくともあの時点で、女性側が相手に惹かれる要素はほとんどないとおもうけどなあ。


ビスケットブラザーズ

 男ともだちを紹介。

「どんなに変でも女性ものの服を着て髪の長いカツラをかぶっていたら女性とみなす」というコントのお約束を逆手に取ったようなネタ。女装が似合わない体形だったことがまた良かった。『寄生獣』の絵がうまくなくて登場人物全員の表情がぎこちなかったせいで結果的に誰が寄生獣かわからないというおもわぬ副産物があったことを思いだす。

 女とおもっていた友だちが実は男、男と分かった後でも女に戻ったり男になったりする、二重人格かとおもいきや周到な計画だった、過去にこの作戦が成功したことがある……と次から次に驚きがしかけられていて退屈させない。

 メインの展開以外にも「プロ野球チップスの味」「君が完成させてみる?」といった細かいワードも光っていて、一分の隙もなく笑わせてやろうというパワーを感じた。

 個人的には一本目の野犬退治よりこっちの方が好き。クレイジーなんだけど、当人の中にはしっかりした論理があるのがいい。

 実はよく練られたネタなのに、まるでそれを感じさせないのがいい。




 ってことで、今回もいい大会でした。

 個人的にはクロコップとロングコートダディがもっと上位であってほしかったけど、それは好みの問題なので。

 大会主催者に文句をひとつだけ言うとすれば、準決勝の配信は決勝の後にもやってほしいということ。準決勝配信観ようかどうかかなり迷ったんだけど、観ちゃうと決勝を楽しめなくなるので諦めた。決勝の後だったら心おきなく楽しめるから、決勝後に配信してよ。


【関連記事】

キングオブコント2021の感想

キングオブコント2020の感想



このエントリーをはてなブックマークに追加

2 件のコメント:

  1. いつもブログを楽しく拝見しております。
    最高の人間についてですが、準決勝で披露したバージョンでは回想シーンがなく、「みんな逃げて」以降の展開が決勝で披露した物と全くの別物でした。(脳の下りは準決勝にもありました)
    決勝用に暗転を取り入れた展開にしたのだとは思うのですが、正直変えなくても良かった気がします。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます!
      へえ、準決勝では回想なかったんですね。知りませんでした。
      決勝で改変して、そこが「暗転が」の低評価につながったのであれば、当人たちは「やっちゃった……」って感じだったでしょうね。
      改変なしバージョン見たかったなあ。

      削除