2022年10月14日金曜日

【読書感想文】爪切男『クラスメイトの女子、全員好きでした』 / さすがにこれはエッセイじゃないだろう

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クラスメイトの女子、全員好きでした

爪切男

内容(Amazonより)
小学校から高校までいつもクラスメイトの女子に恋をしていた。
主演・賀来賢人、ヒロイン山本舞香でドラマ化もされたデビュー作「死にたい夜にかぎって」の前日譚ともいえる、全20篇のセンチメンタル・スクールエッセイ。きっと誰もが“心の卒業アルバム”を開きたくなる、せつなくておもしろくてやさしくて泣ける作品。


 爪切男さん(こういう名前)が学生時代に好きだった女の子たちとの思い出を書いたエッセイ集。

 エッセイというか、かなり創作が混ざっている感じがあるけど……。




 好きだった女の子といっても、登場するのはクラスのアイドル的な美少女ばかりではなく、なにかしら問題を抱えた女の子ばかりだ。

 よく吐く女子、男子の金玉を攻撃する女子、水飲み場の蛇口に直接口をつけて飲む女子、ひげの濃い女子、家が貧しくて泥棒をする女子、まったくしゃべらない女子……。

 人気者ではなく、他の子から避けられたり嫌われたりしてる子に爪切男は愛を込めた目を向ける。歪んだ性癖だ。

 いや、違う。白状しよう。実は、私は嬉しかった。勉強もスポーツもできて、おまけに美しい林さんが、下品な水の飲み方をするのが本当に嬉しかった。ひねくれ者なだけかもしれないが、私は人のダメなところ、欠落した部分が可愛くてたまらないのだ。林さんの恥ずかしいクセをずっと見ていたかったが、このまま岩崎君に彼女が汚され続けるのは、もう我慢ならない。


 しかしこの気持ちはちょっとわかる。ぼくも小学生時代はいちばんかわいい子が好きだったけど、中学生からはクラスの人気者じゃなくてちょっと陰のある子を好きになった。あんまり男子としゃべらない女の子と言葉を交わした後に、ささいなしぐさが気になって、「この子の魅力に気付いているのは自分だけかもしれん」とおもうとどんどん気になってしまう。

 ただのあこがれから、「自分のものにしたい」欲が強くなってくるからかな。中学生ぐらいになってから異性の好みは多様化していくよね。

 爪切男さんは小学生で「目立たない子の、自分だけが気付いている魅力を発見する」歓びを覚えているのだから相当マセているなあ。




 書かれているエピソードはどれもおもしろいんだけど、エッセイとして発表されている以上、あまりにおもしろいと眉に唾をつけてしまう。

 そんなにたくさん、クラスの女子とのおもしろいエピソードがあるわけないだろ、という気になってしまう。

 窃盗癖のある〝ナッちゃん〟とのエピソード。

「ヒロ君、ごめん。私、泥棒してるんだ」
「……そうか。いいよ。何を盗ったんだよ。金か? 本か?」
「言うのが恥ずかしいんだけど……」
「怒らないから言って」
「うん、私……」
「……」
「友達のシルバニアファミリーを……遊びに行くたびにひとりずつ盗んでるの」
「え? シル?」
「友達は動物が住む大きな家まで持っててさ、羨ましくて……。みんな私に自慢ばっかりしてくるから、家族をひとり誘拐してやったの」
「えーと、誘拐」
「ちょっとしたら返そうって思ってたんだよ。本当に! でもいざ返そうと思ったら情がわいてさ。この子は私の子供だって」
「……」
 二〇一七年十一月。東京で暮らす私のもとに、地元から結婚式の招待状が届いた。差出人はナッちゃんだった。四十の大台に乗る前に、ようやく独り身を卒業するらしい。出欠を確認するハガキを取り出し、欠席に大きく丸を付けた私は、余白の部分にメッセージを書く。
 ナッちゃん。結婚おめでとうございます。あの盗んだシルバニアファミリーなんですけど、結局もとの人に返さなかったでしょ。俺は何でも知ってます。
 ナッちゃん。シルバニアファミリーに負けない幸せな家族を作ってくださいね。

 おもしろいんだけどさ。でもこれはもう小説でしょ。




 作り話感が強すぎる本題の「クラスメイトの女子との思い出」よりも、個人的には家族のエピソードのほうがおもしろかったな。

 実は私も、小学校低学年の頃は幽霊をこの目で見ることができた。近所の墓地や裏庭に生い茂る竹林の中で、人型にぼんやりと光る物体やボロボロになった兵隊さんの姿をよく目撃したものだ。
 初めて幽霊を見たとき、恐怖で腰を抜かしそうになりながらも、なんとか家までたどり着いた私は、事の顛末を親父に報告した。すると「よし、今から幽霊退治に行くぞ!」と親父は私の手を引いて現場へと向かった。幽霊のいる場所に戻るのは怖かったが、親父が私の話を信じてくれたことが嬉しかったのをよく覚えている。
 兵隊さんの幽霊は先程と同じ場所からこちらをじっと凝視していた。私はその姿をハッキリと捉えることができるのだが、親父には何も見えていないようだった。
「父ちゃんを、幽霊の場所まで案内しろ」と言われた私は、スイカ割りを誘導するのと同じやり方で「父ちゃん、もっと右! あ、行き過ぎた! 左、あと少し左!」と必死でナビゲーションする。
 やがて親父と幽霊の顔が真正面から向き合うフェイス・トゥ・フェイスの状態になった。
「父ちゃん! 目の前にいる!」と私が叫ぶと同時に「オラァァ!」と獣のような咆哮を上げ、親父は兵隊の幽霊に頭突きをぶちかました。「かました」というよりも「すり抜けた」というのが正しい表現だ。次の瞬間、幽霊の姿はそこからたちまち消え去ってしまった。「父ちゃんすごいや! 幽霊を倒した!」と、私は心の底から親父を尊敬した。

 ま、こっちも創作っぽさはすごいんだけど。でも、変に「あまずっぱい恋の思い出」にしている女の子との思い出よりも、こっちのほうがばかばかしくて笑えた。


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