モジャ公
藤子・F・不二雄
半端に終わった『21エモン』の続編的漫画。
というだけあって、主要登場人物は『21エモン』とほぼ同じ。
空夫はまだ21エモンとはずいぶん性格がちがうけど(21エモンは主人公にしてはおっとりしすぎてた)、モジャラ(≒モンガー)、ドンモ(≒ゴンスケ)との「一人と一頭と一体で宇宙冒険の旅に出る」というストーリーはほぼ同じ。
ただしどこか牧歌的だった『21エモン』と比べて、『モジャ公』はずいぶん殺伐としている。
まずモジャラがかわいくない。マスコットキャラクター風の見た目なのに、一人称は「おれ」で負けず嫌いで女好き。ぜんぜんかわいげがない。
ストーリーもシリアスなものが多い。
前半の、金をだましとられる、恐竜に追いかけられる、ロケットレースに参加する、といったところはまだ昔の少年漫画っぽいが、最強の超能力者に執拗に命を狙われたり、死者の星を訪れたりと中盤からはかなりどぎつい表現が目立つ。
特に『自殺集団』の回はかなりブラックだ。
とある事情により住民が全員不老不死となったフェニックス星を訪れた三人。すばらしい星だと喜ぶ三人だが、住人たちはみんな覇気がない。死なないことに疲れて気力を失っているのだった。
ここで予知能力のあるモジャラが不吉な予知夢を見る。なんと三人が自殺をするという予兆だった。だが空夫とドンモは信じようとしない。モンガーもこの星の住人に恋をして、この星に滞在することに。
三人は怪しい異星人オットーににそそのかされて、金を手に入れるために「自殺屋」をやることに。自殺を予告することで注目を集める商売だ。
予告自殺イベントが大反響。どんどんまつりあげられ、退くに退けない、逃げるに逃げられない状況に追い込まれる。脱走を試みても、自殺を撮影に来た映画監督によって阻止される。オットーに相談するも、大丈夫だから任せておけと言われるだけ。
いよいよ自殺イベントまであと少しと迫ったとき、オットーは三人を残して金を持ち逃げしてしまう。
そしてついに自殺イベント当日。観客は何万年ぶりの熱狂。全国民が三人の自殺を熱望している。この状況ではたして自殺を回避できるのか……。
というスリリングな展開。
もちろん自殺したらそこで話が終わってしまうので最終的には自殺を回避するわけだが、絶対に予知を外さないモジャラが三人の自殺を予兆しているので「あの予知はどう決着させるのだ?」という疑問が緊張感を強めている。
しかもモジャラの予知した自殺シーンというのが、割腹したり首を吊ったりで、かなり生々しい。腹から勢いよく血が噴きだしている絵、というのはかなり強烈だ。
藤子・F・不二雄氏は他にもブラックな作品を描いているが、ここまで直接的な描写はほかで見たことがない。
「誰も死なない世界」というのも、やがて到来する超高齢社会を暗示しているようでおもしろい。
人口が減らないので新たに子どもは生まれず、住民は全員高齢者。無気力で、目的もなくぼんやりと生きている。
日本の数十年後の姿かもしれない。
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