2021年10月20日水曜日

【読書感想文】永 六輔『普通人名語録』

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普通人名語録

永 六輔

内容(e-honより)
再び日本全国の普通人が創った名言・箴言・格言・警句を、味わってください。なんと深く世相をえぐり、庶民の微妙な気持ちをとらえていることでしょう。この素晴らしい表現力に、だれもが驚きます。そして共感がひろがります。さあ、1億2千万人のペーソスあふれる大傑作を、声をだして読んでください。


『無名人名語録』に続く「市井の人々がふと漏らした発言」を集めた本。刊行は今から三十年前の一九九一年。

 なんてことない言葉なんだけど、うならされたり笑わされたり。

 たとえばこんなの。

「デマを流すコツは、みんなが信じたがるデマを流すこと」
「年をとってみるとわかることがあるね。
 戦争をやろうとするのは、決して若い連中じゃないんだよな。
 自分は戦地に行かないという連中が、はじめたがるんだ。
 自分が死なないとわかりゃ、
 戦争って面白いものなァ。
 で、若い連中が死ぬ……。
 年とった連中の若者に対するヤキモチだな」




「パーティとか、寄り合いで、帰りそびれて最後までつき合っちゃってさ。
 そのために、オーバーに言えば、
 人生が狂っちゃったりするんだよな。
 帰るタイミング、
 別れるタイミング。
 うまい奴がいるからねェ」

 何歳になっても「帰るタイミング」ってむずかしいよね。

 まあぼくは数年前から「どう見られてもいいや」とおもえるようになったのでスッと帰れるようになったけど、それまでは帰りそびれて後悔したものだ。そんなにおもしろいわけじゃないんだけどな、とおもいながら周囲に流されて二次会三次会に行き、やっぱりおもしろくなくて「早く帰りたいな」とおもいながら時間が過ぎるのを待つ。

 でも子どもが生まれたことで、帰る口実を作りやすくなった。

「子どもが待ってるので」「妻に怒られるので」と言えば、そこまで引き止められない。

 これは今の時代だからで、昭和の時代だったら「男が家庭なんか気にするな」なんて言われていたかもしれない。

 いい時代になったなあ。




「地下鉄に乗ってさ。
 いきなり喧嘩、なぐり合い。
 思わず、ポカンと見ちゃったよ。
 事情はわからねェんだもン。
 割って入れるもんじゃねェ。
 様子を知ろうとすりゃ、
 時間はかかるよ。
 そのうち、次の駅で、連中は、
 ホームに出ちゃう。
 それを車内で傍観していたって、
 そんなこと言われたって困っちゃう。
 正義感とか、公徳心てェものは、
 いつも持ってて、
 すぐに出せるってものじゃねェもの」

 ぼくもこの前、似た経験をした。

 街中で口論や喧嘩を目にすることがたまにあるんだけど、ほとんどの場合一部始終はわからない。

 注意 → 反論 → 再反論 → 再々反論 → 激昂してでかい声を出す

 のあたりで周囲の人は「なんか揉めてるな」と気づくから、いきさつがさっぱりわからない。

 止めたほうがいいのか、止めないほうがいいのかもわからない。たとえば痴漢を現行犯で捕まえたのだったら止めないほうがいいし、刃物を持って暴れてる人がいるんなら止めに入るより逃げたほうがいい。

 都会の無関心とか現代人は冷たくなったなんて言われるけど、たいていの場合は事情がわからなくてどうしようもないんだよね。




「ニュースショーの司会をしていると、
 自分の考えと、局としての考え、
 さらに視聴者が満足する考えと三つの発想の、
 どれを選ぶかということで疲れ果ててしまう。
 だからまず、自分の考えがない人がいい。それから局としての考えにも及ばない人がいい。
 正義も、真実も、無視して、
 視聴者が考えそうなことを言う人。
 そんな人こそ、すぐれた司会者」

 なるほどなあ。そうかもしれない。

 長続きするニュース番組の司会者って、自分の意見を出さない(もしくは何も考えてない)ように見えることが多い。

 政治家の不正や有名人の不倫にすぐ怒ってすぐ忘れるような人ばかりだ。

 みんなが右に行けば右に走り、世間が左に向かえば自分も左に移動する。思想も信条も洞察もない。わたぼこりのように風に流されて漂うだけ。

 それがうまくいく秘訣なんだろうね。




 中でもいちばんおもしろいのは、公共の電波や紙面に乗せることは決してできない、偏見まみれの本音の言葉。

「お客様、ここは東京のライブスポットです。
 田舎から来た人は下手なリズムで手を叩かないで下さい。
 それからブスの人、気取らないでェ!」
「オレがひとり暮らしの老人だからって、
 若い女のボランティアが来るんだよ。
 来てもいいけど、ケツを触ったら
 怒ってもう、来てくれないの。
 そういうケチなのも、ボランティアっていうのかい? 孤独なスケベだっているんだよ。
 触るだけなんだからさァ」

 いいなあ。

 こんなこと、Twitterでもなかなか言えないもんなあ。匿名掲示板に書いたことが原因で逮捕されることもある世の中だもんな。

 貴重な歴史的史料だ。


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