『魔女の子供はやってこない』
矢部 嵩
ライトノベルっぽい表紙でふだんならぜったいに買わない本なんだけど、角川ホラー文庫というレーベルとクレイジーなあらすじに惹かれて読んでみた。
文章めちゃくちゃだし内容はグロテスクだしストーリーは不愉快だし、なのにおもしろい。もう一度書く。まったくもってどうかしている。
主人公の女の子と魔女の友情を描いた短篇集。というとほんわかした話っぽいけど、人はばたばた死ぬし口汚い罵倒が並ぶし虫はぐちゃぐちゃつぶれる。表紙で買った人は後悔してるだろう。でもそのうち一割ぐらいは当たりを引いたと思ってくれるだろう。
この小説はどういうジャンルにあてはまるだろうかと考えてみたけどくくれない。ホラーとファンタジーとミステリと児童文学と青春文学をぐちゃぐちゃっと混ぜて、それぞれの気持ち悪いところだけを取りだしたような小説だ。いろんな種類の不快感が味わえる。嫌な気持ちになりたい人にとってはとってもお得だ。
序盤はグロテスクが強め、二篇目で急に児童ファンタジーみたいな展開になってやや退屈さを感じたのだが、四篇目の『魔法少女粉と煙』あたりからひきこまれた。
読んでいるだけでめちゃくちゃ痒くなる執拗な痒みの描写、安心させといてラストで急ハンドルを切る気味の悪いオチ。見事なホラーだった。
特に秀逸だったのは『魔法少女帰れない家』。
主人公が仲良くなったすてきな奥さん(奥という苗字の奥さん)。剣道が強い高校生の娘とかっこいい大学生の息子とペットと暮らす、絵を描くのが好きな奥さん。彼女が友だちの結婚式に行きたいというので魔法で一週間奥さんの代わりをすることになるが……という内容。
ほのぼのした導入から家庭の地獄のような裏側が露わになり、そして苦労を乗りこえた先にある後味最悪なラスト。
うへえ。嫌な小説だあ。この嫌さがたまらない。さりげない伏線の張り方も見事。
うへえ。嫌な小説だあ。この嫌さがたまらない。さりげない伏線の張り方も見事。
感情を激しく揺さぶってくれるいい短篇だった。万人におすすめしないけどね。
すっごくクセのある文章なんだけど、読んでいるうちにああこれは女子小学生の文章なんだと気づく。
こういう変な文章が続くのではじめは読みづらいが慣れてくるとこれすらも楽しくなってくる。
女子小学生の気持ちってこんなんかもしれない。女子小学生の語りを聴いているような気分になる。ぼくは女子小学生だったことはないので(そしてたぶんこれから先も女子小学生になることはないだろう)想像でしかないけど。
作品中の時間が経過して主人公が成長するにつれて文章がだんだんこぎれいになってくるのがちょっとさびしい。我が子の成長を感じてうれしいと同時に一抹の疎外感も感じるときの気持ちに似ている。
こういうヘンテコな文章が、慣れてくるにつれていい文章のように思えてくるからふしぎだ。日本語の体をなしていないのになんとなく意味がつかめて味わい深く思えてくる。
「変わった小説が読みたい」という人にはおすすめしたい一冊。そうじゃない人には勧めません。
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