『行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』
春間 豪太郎
高野秀行さんが絶賛していたので読んだが、なるほど、高野氏の文章の系統を走りながらも、もっと勢いと行き当たりばったり感がある。一言でいうならば「若い」文章。
たったひとりでロバと仔猫と鶏と仔犬と鳩を連れてモロッコを旅する、というブレーメンの音楽隊みたいな冒険。だんだんパーティーの仲間が増えていくのは桃太郎にも似ている。鬼退治はしないけど。
めちゃくちゃめずらしい体験をしながらも、そこで語られている心の動きは「動物が病気で苦しんでいるのがかわいそう」といったごくごくなじみ深い感情で、非日常と日常のギャップがおもしろい。
海外を旅してまわっている人って行動力も語学力も判断力も高いスーパーマンみたいに感じてしまうのだけれど、春間豪太郎さんはごくふつうのにいちゃん、という印象。なんとなくやってみたらなんとかできました、みたいな感じ。
もちろんじっさいは細かく下調べしているし行動力も決断力も高い人なんだけど、文章からはそれを感じさせない。この気取らなさがすごくいい。
文章のテンポもすばらしい。余計な修辞や描写がなく、事実だけを突きつけるような文章。ぼくの好みだ。
この簡潔さの中にこそ想像力のはたらく余地がある。描写が少ないことでかえって情景がイメージできる。
これだけめずらしい体験をしていたら細大漏らさず長々と書きたくなりそうなものだが、大胆に省略をしているのでさくさく読める。これは文才か、編集者の腕か。
冒険に連れていくロバを探すシーン。五頭のロバの中からどれを買うか決めることになる。
他にも、サソリを見つけたら「サソリの毒がどんなものか知るために」わざと刺されたり、あえてリスクのある選択ばかりしている。
ロバを連れてひとりでひとけのない道を旅するわけだから、ロバの良し悪しが文字通り命運を握ることもあるだろう。そんな状況でも「ロバがかわいそう」というシンプルな理由で扱いにくいロバを選んでしまう。
ちょっとしたことかもしれないが、ごく自然にこの選択ができるからこそ、誰もがやらない冒険をやれたんだと思う。
「やろうと思えばやれるけど誰もやらないこと」をやる人とは、「かわいそうだから」という理由で暴れロバを選べる人だ。
世界を変えるのはこういう人なんだろうな。そして、わざとサソリに刺されることのできないぼくは冒険をすることはできないのだとつくづく思う。
すごくおもしろかったので他の本も読んでみたいと思ったけれど、現時点(2018年7月)ではこれ一冊しか上梓していない。早くべつの本書いてくれ!
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