『さあ、気ちがいになりなさい』
フレドリック・ブラウン (著), 星 新一 (訳)
ショートショートの神様・星新一が「大きな影響を受けた作家」と語るフレドリック・ブラウンのベスト短篇集。訳は星新一。
収録されている12作はいずれも1940年代。
アメリカは戦争中にSF小説を楽しんでいるんだから、そりゃあ戦争に負けるわなあ。余裕が違いすぎる。
どの作品も、ぜんぜんテイストが異なり、それぞれに奇想天外な設定が与えられている。
悪魔の復活をいたずら坊やが防ぐ『おそるべき坊や』
あらゆる電気や電波を奪う宇宙人が現れる『電獣ヴァヴェリ』
自身の無意識にはたらきかける新発明をめぐる顛末『ユーディの原理』
18万年生きている人物が語る、いくつもの人類の歴史『不死鳥への手紙』
どれも奇抜な設定だが、スムーズな話運びと期待を裏切らないスマートなオチで楽しませてくれる。
星新一ファンとして、特に印象に残ったのが以下の2篇。
『みどりの星へ』
緑のない星に不時着した男が、緑の地球に戻れる日だけを夢見ながら生きる。ついに男のもとに救助がやってくるが――。
という、なんとも星新一っぽいストーリー(というか星新一がこっちに影響を受けてるんだけど)。
切れ味のいいオチではないが、静かに狂気を感じさせる後味。
世界初の有人宇宙飛行より10年以上前にこういう小説が書かれてたのかと思うと、人間の想像力ってたいしたものだなと思うね。
『ノック』
ではじまる作品。
星新一ファンなら誰しも『ノックの音が』を連想するね。15篇すべて「ノックの音がした」で始まる意欲的なショートショート集だ(『人形』はめちゃくちゃ怖かったなあ)。
なるほど、『ノックの音が』はこの作品にインスピレーションを受けて書かれたのか……。
『ノック』は、この短い怪談にユニークな背景を与えて思わぬ解釈を与える、というもの。
宇宙人が出てくるし、展開はコミカルだし、初期の星新一作品のような味わいだった(何度も書くけど星新一がこっちに影響を受けてるんだけど)。
SFあり、サスペンスあり、コメディあり、ブラック・ユーモアありとバラエティに富んだ作品集で、まるではるか遠くの恒星のように70年たった今でも輝く作品だねえ。
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