『熱帯夜』
曽根 圭介
『熱帯夜』『あげくの果て』『最後の言い訳』の3篇を収録。
それぞれテイストの異なる不気味さがあって、いろんな「嫌な感じ」を味わえた。
『熱帯夜』
ヤクザ、借金、ひき逃げ、シリアルキラーととにかくいろんな要素が盛りだくさん。
ばらばらな要素がラストで一直線につながるのは気持ちいいんだけど、短篇でこれをやるとご都合主義っぽさが鼻についてしまうな。
「うまい」が35%、「できすぎてる」が65%。
ちょっとうますぎるね。
とはいえ小説にリアリティはなくてもいいとぼくは思っているので、「偶然が重なりすぎだろ」と言いたくなる気持ちを捨てて読めば物語の展開の軽妙さが存分に味わえて楽しい短篇だった。
残酷な事件が描かれてるのに楽しいってのも妙だけど、乾いた文章のおかげでぜんぜん陰惨な感じがしないんだよね。
曽根圭介の文章って小説としてみると決してうまくないんだけど、それはわかりづらいということではなく、むしろ逆で余計な装飾を省いているからすごくわかりやすい。
文章のうまさって、内容とあってるかどうかだよね。ミステリには過度な美辞麗句は必要ないから、これぐらいがちょうどいい。ストーリーの進行を妨げないからね。
『あげくの果て』
これは長編にしてもよかったんじゃないかな。
若者と高齢者の対立が激化した世の中を描いたディストピア小説。
なにが絶望的かって、もうすぐ日本で実現してしまいそうなところだよね。
戦争に行くのが戦闘スーツを着た高齢者ってのはいいアイデアだね。
子孫を残せなくなった人が若い世代のために戦いにいくほうが生物学的には理にかなってるし、歳をとると戦争に行かないといけなくなるとみんな必死に戦争を避けようとするしね。
『最後の言い訳』
死者がよみがえって生者を食べたり食べなかったりする世界を舞台にした、ゾンビもののホラーコメディ。
グロテスクな描写が多いんだけど、ペーソスとユーモアにあふれた意外にも叙情的な作品だった。
こういうブラックユーモアが散りばめられていて、いかにも曽根圭介らしい。
オチもブラックで、藤子・F・不二雄の『ミノタウロスの皿』ってSF短篇を思いだした。
この人の小説ってとことんドライだよね。残酷なのに洒脱。陰惨なのに軽妙。ふしぎな味わいだ。
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