2021年7月29日木曜日

【読書感想文】サレンダー橋本『全員くたばれ!大学生』

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全員くたばれ!大学生

サレンダー橋本

内容(e-honより)
包茎大学哲学科に入学した亀田哲太は、5月になっても友達ができず、休み時間は机の木目を見ながらパリピの声を盗み聞きする日々…。おしゃれカルチャーグループに近づこうとしたり、麻雀ができると嘘をつき、スタバでバイトしているフリをしたり、胸が苦しくなるほどイキってしまう。そんな彼に友達はできるのか―!?大学生活で最も大切な一年生を描いた意欲作。

 理想のキャンパスライフと現実とのギャップに苦しむ自意識過剰な大学生が主人公。

 クラスメイトをランク付けしたり、彼女がいるふりをしたり、ギターも弾けないのにからっぽのギターケースを持ち歩いたり。
 楽しそうにしている大学生を小ばかにしているが、ほんとは混ざりたい。混ざりたいけど高すぎる自意識が邪魔をして言えない。

 ギャグ漫画なのだが、読んでいて胸が痛くなる。自分にも思い当たるフシがありすぎるから。




 ぼくの大学時代の思い出も、どちらかというと暗い。

 三回生ぐらいになってようやくサークルに居場所ができたり、念願の彼女ができたり、アルバイトにも慣れたりしたが、特にはじめの二年はいろいろきつかった。
 彼女はいなかったし、もちろん童貞だったし、腹を割って話せる友人はいなかったし、サークルも嫌なところが目についたし、実家を出て姉とふたりで暮らしていたのだが喧嘩は絶えなかったし、自動車教習所は苦手だったし、バイトもあわずに数ヶ月でやめてしまったし、貴重な学生生活なんだから何かしなきゃという重圧と何もしたくないという思いに挟まれて鬱々としていた。長期休みのたびにずっと実家に帰って高校の友人とばかり遊んでいた。

 一方周囲に目をやると、大学生というのは必要以上に楽しそうに見える。やれバイトだ、やれコンパだ、やれバンド結成だ、やれ徹夜飲みだ、やれ旅行だ、やれ学園祭だ、やれ彼氏彼女だ。とかく大騒ぎしている。
 ぼくの通っていた大学にはチャラついた学生は少なかったが、それでも田舎から出てきてファッションのファの字も知らないぼくから見るとみんなこじゃれて見えた。

 入学して一週間ぐらいすると、あっという間にイケてる人たちはグループは結成している。連絡先を交換して、もうゴールデンウィークの予定を立てたりしている。
 ぼくも少ないとはいえ友だちができたが、何度か話しているうちに「こいつはちょっとちがうな」とおもうようになった。ぜんぜん悪い人ではないのだが、価値観とか笑いのポイントとかがまったくちがうのだ。たぶん向こうも同じように感じたのだろう、すぐに疎遠になった。

 遠目で見ていて「あいつおもしろいな」という人もいるのだが、彼らは人気者なので既に友だちに囲まれている。そしてそういう人にかぎって「妙にいきがってていけすかないやつ」「つまんないくせに声だけでかいやつ」に囲まれてるのだ。あの輪には入りたくない。

 小学生のときは、楽しそうなグループがあれば素直に「おれも入れて」「あそぼ」と言うことができた。でも大学生だとそれができない。断られたら恥ずかしい、断られなくても嫌な顔をされるかもしれない、嫌な顔をされなくても後で悪口を言われるかもしれない。




 この漫画の中で主人公は「モテようとしてるのにモテないやつ」になるぐらいだったら「モテようとしてなくてモテないやつ」になるほうがマシ、という理論を展開するのだが、その感覚はよくわかる。ぼくもまったく同じことを考えていた。
 いちばんかっこいいのは「モテようとせずにモテるやつ」だ。これが理想だが、自分がそのポジションに就けないことぐらいはさすがに二十年生きていればわかる。

 だから競争から降りたフリをして「おれモテようとかおもってないから」とあえて同じ服ばかり着たりしてしまう。
 テスト前に「おれぜんぜん勉強してねーわ」と言うやつといっしょで、その姿勢こそがいちばんダサいし、何もしないよりちょっとでもおしゃれになる努力をするほうがまだマシなのだが、肥大した自意識が邪魔をして「モテるための努力」をすることができない。
 そして茶髪にしたやつを見て「似合ってねえのに恥ずかしいやつ」と小ばかにする。
『全員くたばれ!大学生』の哲太はまさにぼくの姿だ。


「友だちを作りたいけど輪に入れない」も「彼女がほしいけどモテるための努力をするのが恥ずかしい」も根っこは同じで、「自分は変わりたくない。周囲に変わってほしい。ありのままの(=何もしない)自分を受け入れてほしい」ってことなんだよね。

 もし今大学生の自分に会ったら「そんな虫のいい話あるわけねーだろ。おまえが歩み寄るんだよ!」ってほっぺたをつねってやる(やっぱり自分はかわいいからぶん殴ることはできない)んだけどな。
「大丈夫だよ、おまえのことを気にしてるのなんておまえだけなんだから。だからどんどん恥をかけ!」って言ってやりたい。


 この漫画、大学卒業して十数年たった今だから「あー昔のぼくと同じで自意識過剰なイタいやつだなー」とおもえるけど、二十代の頃だったら胸が痛すぎて読んでいられなかったかもしれない。


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