我が家の問題
奥田 英朗
「夫が仕事ができないことに気づいてしまう」「両親が離婚するかもしれない」「お盆に実家に帰るのが大変」など、他人から見たらどうでもいいが当人にとっては一大事である〝我が家の問題〟をユーモラスに描いた短篇集。
離婚とかリストラとかいまさらめずらしい話でもないけれど、それが自分の家族に降りかかることを考えたら頭がいっぱいになるぐらいの深刻な話だよね。
ぼくも中学生のときに両親の仲が険悪になり、毎晩遅くまで口論をしていた。そのときはぼくもつらかった。原因はわからない。というかひとつじゃなかったとおもう。なぜならありとあらゆることで両親は対立していたから。
さらにある日、両親から「大事な話がある」とぼくと姉が居間に呼びだされたときは、「ああこれは離婚のお知らせだ。うちの家族はもうおしまいだ。どっちについていくかを決めなくちゃいけないんだ」と絶望的な気持ちになった。
だが結局両親の話というのは「今まで毎晩喧嘩をしておまえたちにも心配をかけてすまなかった。話し合いは決着がついたから今後はもう仲良くやっていく」という〝仲直り宣言〟で、ぼくはその言葉をまったく信じていなかったのだがほんとにその日から両親は仲良くなり、我が家は一家離散の危機を免れた。それ以降、ぼくが知るかぎり大きな喧嘩は一度もしていない。
ふつう、「仲良くします」と宣言したからって仲良くなれないものだが、うちの両親はそれをやってのけた。我が親ながら大したものだとおもう。きっとお互いいろんなことを我慢することにしたのだろう。
それを機に、ぼくは「家族って継続していくことがあたりまえじゃないんだ」と知った。
子どもの頃は「父親は仕事をして、母親は家事をして、姉とぼくは衣食住を保証されるもの」と疑いもしていなかったけれど、家族なんてたやすく壊れることもあるし、壊さないためには不断の努力が必要なのだと気づいた。
結婚して子どもが生まれて、ぼくも「家庭を壊さないように不断の努力をする」立場になった。
特に子どもが生まれてからは、〝自分の時間〟なんてものはほとんどなくなった。家のスケジュールはすべて子ども中心に動く。休みの日も子どもと遊んだり子どもを病院に連れていったり買物に行ったり寝かしつけたり掃除をしたりで、ひとりでどこかに出かけることなどほとんどない。まあぼくは子どもと遊ぶのが好きだし読書以外の趣味もないのでそこまで苦ではないのだが。
しかし文句は言えない。妻はもっと自分の時間を犠牲にして仕事や家事や育児をしているのだから。
子育てってほんとに「割に合わない」仕事だよなあ。莫大な時間と金がかかるわりに、望む通りの結果は得られない。〝生物としての本能〟だからやっているだけで、損得で考えれば完全に損だ。
だから、子どもを産むかどうか迷っている人に「産んだほうがいいよ!」とは言えない。良くないこともいっぱいあるから。
ただ、個人的な気持ちを言えば「自分の時間を捨てて脇役として生きるのもそれなりに楽しいぜ」とはおもう。
『我が家の問題』収録作品では『甘い生活?』がいちばんおもしろかった(というより他の作品はほとんど心を動かされなかった)。
この妻をどう感じるかは、人によってぜんぜんちがうだろうな。
「よくできた妻じゃん」とおもう人もいるだろうが、「これはキツい」と感じる人のほうが多いんじゃなかろうか。特に男は。ぼくだったらこんなの耐えられない。
一生懸命働き続けている人が家の中にいたら、こっちもだらだらできないじゃん。
十二時過ぎに帰ったら、さっさと寝てくれている人のほうがいい。そしたら何も気兼ねせずにせいいっぱいだらだらできる。
いっしょに暮らすのなら、四六時中きっちりしている人より適度に手を抜いてストレスフリーで生きてくれる人のほうがいいなあ。もちろん限度はあるけど。
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