2020年12月22日火曜日

M-1グランプリ2020の感想

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 M-1グランプリ2020の感想


大会の運営について

 今年はコロナ禍の開催ということでいろんなものをそぎ落とした大会だった。結果的に、余計なものがなくなってすごく良かった。
 ほんと、M-1大好き芸能人に集まっていただきましたとか、アスリートによる抽選とか、誰がうれしいんだって感じだもんね。
 そういう無駄な要素がなくなって、その分審査員コメントとかが長くなって見ごたえがあった。コロナが収束してもこのままでやってほしい。

 あと、「一本目の上位組から、最終決戦の出番順を決める」→「一本目一位が三番手、二位が二番手、三位が一番手」になったのもよかった。
 あれ毎年無駄な時間だったもんね。みんな後から選ぶから。
 ぼくの記憶にあるかぎりでは、そうじゃない順番を選んだのは麒麟ぐらい。

 無駄な時間だった上に、最終決戦進出組にとっても「漫才と漫才の間にバラエティ的な立ち居振る舞いを求められる」ことでけっこう負担になってたんじゃないかな。あれがないほうがネタに集中できるよね。


1.インディアンス(敗者復活)

「昔ヤンキーだった」

 速いテンポで完成度の高い漫才をやっているからこそ、ところどころの穴が目立つ。構成の雑さが。
 去年は「おっさんみたいな彼女がほしい」というわけのわからん設定を客に納得させる前に話が進んでたが、今年は「ツッコミ側がわざと言い間違いをしてボケをアシストする」が打算的すぎて笑えなかった。
 わかるんだけど。フリの時間を短縮して笑いを詰め込むために、「ツッコミのフレーズそれ自体が次のボケにフリになっている」テクニックだということは。
 でもなあ。インディアンスの笑いって「どこまでが素のキャラクターなのかわからない笑い」だとおもうんだよね。練習の跡が見えてはいけない漫才。
「言い間違えた」ことにするんだったら、その後にハモリボケみたいな「がんばって練習しました」ボケを入れてはいけない。「罵声を美声と間違える」はボケ側がやらなきゃいけないとおもうよ。
 個人的にはこういう台本の粗さがあると笑えない。

 ただ去年よりは格段におもしろかったし、トップバッターとしてはこれ以上ないぐらいの盛り上げ方をしたので、そのへんはもっと評価されてもよかったのにな。毎年トップバッターで出てほしい。


2.東京ホテイソン

「謎解き」

 東京ホテイソンのスタイルを知っていたらおもしろいんだけど、これって初見の人はどう見たんだろう。
 一つめの笑いが起こるまですごく時間がかかるから序盤に自己紹介的な軽いボケがあってもよかったんじゃないかなとおもう。ツカミって大事だなあと改めて感じた。ツカミがあればもっとウケたんじゃないかな。
 劇場でおじいちゃんおばあちゃんの前でネタやってる吉本芸人だったら、「自分たちのことを知らない人でもまず笑えるツカミ」を入れるんじゃないかとおもう。

 あと、フレーズはおもしろいんだけど、自然な流れで出たフレーズではなく突然湧いて出てきたものだからなあ。話の流れで「アンミカドラゴン新大久保に出現」ってなったらめちゃくちゃおもしろいんだけど、脈略なく出てきたら「なんでもありじゃん」って気になってしまう。

 ちなみに数えてみたらボケ数が6個だった。もしかしたらM-1史上最少かもしれない。


3.ニューヨーク

「トークに軽犯罪が出てくる」

 時代にマッチしたネタ。「無料でマンガ全部読めるサイト」とか絶妙にいいとこを突いてくるなあ。でも審査員は全員わかったんだろうか。

 あぶなっかしい題材を笑いに変える技術はさすが。この題材を他のコンビがやってたらドン引きされてしまいそう。
 「現実にいる」レベルの悪いことを、後半「犬のうんこを食べた」とか「献血」とかで壊してくるところはよくできている。ただ、軽犯罪の対比として出てきた「選挙に行く」はべつに善行じゃないからなあ。選挙に行くのは自分のためだし。

「マッチングアプリで知り合った人妻とゲーセンでメダルゲーム」はすごくよかった。よく考えたらぜんぜん責められるようなことじゃないんだけどね。マッチングアプリで知り合った人妻とゲーセンでメダルゲームをしたって何の罪にもならないんだけど。でもなぜだろう、そこはかとなく漂うあやうさ。絶妙。


4.見取り図

「敏腕マネージャー」

 前にこのネタを観たときもおもったけど、見取り図はこういうコント漫才のほうがあってるとおもうんだよな。
 見取り図はツッコミの出で立ちや声量が強すぎて、ボケを上回ってしまうことがある。「そこまで厳しくツッコまなくても」と。
 その点、このネタはボケがとんでもなくヤバいやつなので、ツッコミが強くても違和感がない。立場的にも「大御所タレントとマネージャー」だったら強く言っていい関係だし。

 このコンビにマッチしたすごくいいネタだとおもう。二人の見た目も大御所芸人とマネージャーみたいだし。


5.おいでやすこが

「カラオケで盛り上がらない」

 ネタの強度がすごいね。元々こがけんがピンでやってるネタだから、ボケ単体でも笑える。そこにあの笑えるツッコミが乗っかるんだからそりゃあおもしろいに決まってる。ネタを前に観たことあるのに、それでもはじめて観たときと同じところで笑わされた。

 両者の持ち味がちょうどいい配分で発揮された、ピン芸人同士のコンビのネタとして完璧な出来栄え。
 またボケの「違和感があってすごく気持ち悪いんだけどでも即座におかしいと切り捨てるほどでもない」ぐらいの曲の作り方が絶妙。だからこそ、あの力強いツッコミでどかんと吹き飛ばしてくれるとすごく気持ちいい。ツッコミが飛ぶたびに爽快感があってもっともっと観たくなる。

 しかしあの絶叫ネタは漫才を正業にしていないコンビならではだよなあ。一日に何度も舞台に立つ正業漫才師だったら無理じゃなかろうか。


6.マヂカルラブリー

「高級フレンチ」

 準決勝のネタ(電車)を観たとき、いちばんどう評価されるかわからないと感じたのがマヂカルラブリーだった。文句なしにおもしろいんだけど、でも漫才としての掛け合いはぜんぜんないので、審査員からの評価は厳しいものになるかもしれないと感じていた。

 で、決勝。
 まずつかみが最高。せりあがってきた瞬間に大きな笑いが起こった。過去最速のつかみ。さらに「どうしても笑わせたい人がいる男です」で完全に場の空気を制した。
 あれだけつかんだからその後丁寧にフリをきかせても客はちゃんと聞いてくれる。いい構成。

 ネタも良かった。何がいいって、ナイフとフォークを斜めに置いて「終わりー」があること。あれがあるのとないのじゃ安心感がぜんぜん違う。ここまでが一連のボケです、というのがはっきりわかる。ショートコントのブリッジのような。
 むちゃくちゃをやっているようで、ああいうわかりやすいボケをちょこちょこ挟む構成がほんとに丁寧。バランスがすごくいい。
 ただ後半のデモンのくだりは……。


7.オズワルド

「畠中を改名」

 ネタの構成も完璧に近いし熱量もすごいし、これが最終決戦に行けないの? という気がした。シュールなボケを丁寧にツッコみながら、ツッコミでも笑いを取る。
 しっとりとしたしゃべりだしから、後半はどんどん盛り上がる。「ザコ寿司」「ボケ乳首」「激キモ通訳」など独特のフレーズもウケ、ラストの「てめえずっと口開いてんな」も完璧。悪いところがひとつもなかった。

 このネタで5位に沈んだのは、もう順番のせいとしか考えられない。おいでやすこがとマヂカルラブリーが根こそぎ笑いをとっていったので笑い疲れが起こったんじゃないだろうか。審査員も、ちょっとここらで点数下げとこうみたいな気持ちになったのではと邪推する。


8.アキナ

「地元の友だちが楽屋に来る」

 四十歳前後がやるネタじゃないよね。もっといえば四十前後のコンビが五十歳前後の審査員の前でやるネタじゃない。
 ローカルアイドル漫才師の成れの果て、って感じのネタだった。女子高生からキャーキャー言われてる二十代の漫才師がやるネタだよね。なんかかわいらしさを出そうとしてて。
 アキナが好きな人はおもしろいんだろうけど。「ふだんそれ俺が担当してんねん」って動き、何それ? アキナファンじゃないから知らんけど。せめて登場後にやっといてよ。

 準決勝を観たときもアキナはなんで決勝進出できたんだろうとふしぎだったけど、決勝でもやっぱり見てられなかったな……。


9.錦鯉

「パチンコ台になりたい」

 後半出番で錦鯉が出てきたら優勝もあるとおもってたんだけど、意外とウケなかったな……。まあでも錦鯉が最終決戦に進んでたら、おいでやすこが、マヂカルラブリー、錦鯉と掛け合いをしないコンビばかりになってたので大会的にはよかったとおもう。

 序盤にもっとバカさを伝えていればな。さっきも書いたけど、ほんとにつかみって大事だね。「この人はバカにしていい」ということが周知されればもっと素直に笑えたのに。
 つかみの「一文無し、参上」は失敗だったのかもね。冷静に考えれば49歳で貯金ゼロ、って笑える話じゃないもんね。
 はじめにもっとばかばかしい自己紹介してたら違う結果になったんじゃないかな。


10.ウエストランド

「マッチングアプリ」

 おもしろいんだけど、まあこういう結果になるよね。どう考えても万人受けするネタじゃないもん。これは決勝に上げた審査員が悪い。
 恨みつらみを並べるには、風貌がそこまでひどくないんだよね。多少かわいげがあるし。どうしようもない見た目とか、生い立ちが悲惨とか、「これなら世を儚むのもしょうがない」と思わせるほどのバックグラウンドがあれば素直に受け止められるんだけど。

 かつて有吉弘行氏が悪口芸で一世を風靡したとき「没落期間が長かったしみんなそれを知ってたから俺は悪口を言っても許される」みたいなことを言っていた。
 マツコ・デラックス氏も歯に衣着せぬ物言いをするけど、あの巨大な女装家なら世の中に対して不満を言いたくなる気持ちもわかるよな、と納得できる。
 ウエストランドはそこまでじゃないんだよね。もうちょっとがんばれよ、とおもってしまう。

 あと言ってる内容がわりと納得できる話だったので、ただのボヤキ漫才に終始してしまった。「芸人はみんな復讐のためにやっている」ってのもけっこう当たってるっぽいし。中盤まではそれでいいんだけど、後半は「もはや誰も共感できない突き抜けた偏見」にまでいってほしかったな。
 10組中9位だったけど、キャラクター的には最下位だったほうが得したとおもう。ここは上沼恵美子さんが怒ってあげたほうがよかったんじゃないかな。


 最終決戦進出は3位の見取り図、2位マヂカルラブリー、1位おいでやすこが。
 まあ順当。ぼくが選ぶなら見取り図の代わりにオズワルドを入れたい。


見取り図

「地元」

 持ち味なんだけど荒々しいなあ。大柄な男が荒っぽい言葉で怒ってたら怖い。
 キャラクターに入っているコント漫才のほうがいいなあ。

 しかし地元の話題で喧嘩になるかね。兵庫出身で大阪人を多く見てきたぼくにはわかるが、大阪人は東京と京都以外は下に見てるので、和気郡なんか喧嘩相手にならない。


マヂカルラブリー

「吊り革につかまりたくない」

 ネタの選択がすばらしい。こっちを先に持ってきてたら優勝できなかったんじゃないかな。このネタは掛け合いがまったくないので、1本目だったら辛い点を付けた審査員もいたとおもう。でも最終決戦は審査員全員から評価される必要がないので、これだけぶっとんだネタでも優勝できる可能性がある。
 もうすでにマヂカルラブリーを知っているから、むちゃくちゃをやっても受け入れられる土壌があるしね。意外と策士だね。


おいでやすこが

「ハッピーバースデー」

 1本目に比べるとツッコミが弱い。ほんとに1本目で体力を使いすぎてちょっと疲れてるやん。
 こっちはボケ主体で引っ張っていくネタだけど、おいでやす小田がキレてるところを見たいからなあ。もっともっと怒らせるネタをやってほしい。
 1本目は「何度言われても知らない曲ばかり歌う」「約束が違う」「誰の曲か答えない」「話を聞かない」という強くツッコむべき理由があるけど、こっちのネタは曲が独特なだけで祝っていること自体は間違ってないしね。長い曲を歌うこともそれ自体がおかしいわけじゃないし。


 優勝はマヂカルラブリー。おめでとう。納得の優勝。
「あれは漫才か、コントじゃないか」みたいな議論もあるみたいだが、ぼくはマヂカルラブリーのネタは完全に漫才だとおもう。あれがコントだったら異常なのは野田クリスタルじゃなくて電車なのでおもしろくないし。
 漫才の定義は「立って話すか」「掛け合いがあるか」とかではなく、「言葉に人のおもしろさが出ているか」どうかだとぼくはおもう。そしてマヂカルラブリーのネタにはそれが存分に発揮されていた。




 今年もおもしろい大会だった。アキナ以外はおもしろかった。

 ところでマヂカルラブリーの1本目は何年か前の敗者復活戦でやっていたネタ。こんな感じで、昔のおもしろいネタをどんどんやったらいい。
 一方、キングオブコントは「準決勝でやった2本のネタを決勝でしなければならない」というルールだ。あれはよくない。毎年観ている審査員やわざわざ準決勝会場に足を運ぶ熱心のファンにウケるネタと、テレビでウケるネタは違うのだから。

 



 思いかえせば十年ほど前(今調べたら2008年だった)。M-1グランプリの敗者復活戦で観たマヂカルラブリーに衝撃を受けた。当時まったくの無名に近い状態で準決勝まで進出したマヂカルラブリー。「のだでーす、のだでーす、のーだーでーす!」の自己紹介で一気に引きこまれた。「いじめられっこ」のネタもおもしろかった(ちなみにやっていることは今とあまり変わってない)。
 これは近い将来決勝に行くだろうとおもっていたがずっと遠かった。ようやく出場した2017年も最下位。
 M-1には恵まれないコンビなのかとおもっていたが、一気に優勝。しかし今回も出番順や会場の空気によっては最下位になってもふしぎじゃなかったネタだった。最下位も優勝もあるコンビってすごく魅力的だね。


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