どうも男は歳をとると、ルーツをたどる旅をしたくなるらしい。
『ファミリーヒストリー』というNHKの番組があるが、あの番組のゲストも男性が多い。
男のほうが自身のルーツを気にするようだ。
もしかしたら、男は苗字が変わらないことが多いのでルーツを意識しやすいのかも。完全夫婦別姓になったら女もルーツも気にするようになるのかも。
図書館や大きい書店にはたいてい「郷土史」のコーナーがある。
そこそこのスペースをとっているからわりと売れるのだろう。
まことに勝手な憶測だが、おじいちゃんしか読んでいないイメージだ。
ショートショートの神様と言われる星新一氏も、父親の生涯を書いた『人民は弱し官吏は強し』『明治・父・アメリカ』や、祖父の伝記である『祖父・小金井良精の記』といった著作を残している。
漫画の神様・手塚治虫氏も『陽だまりの樹』で自身の曽祖父である手塚良仙について書いている(手塚治虫の曽祖父が江戸時代の人だと考えると、江戸時代ってけっこう近いなという気がする)。
その分野の頂点を極めると先祖について調べたくなるものなのかもしれない。
ぼくの祖父も晩年、若くして亡くなった父親(つまりぼくの曽祖父)のことを調べていた。
曽祖父は裁判官をしていて法律の本を出したりもしていたので、古本屋をめぐって父親の著書を探していた。
ぼくも祖父から「もし古本屋で〇〇(曾祖父の名前)の書いた本があったら教えて」と言われていた。
残念ながらほどなくして祖父はガンで亡くなってしまった。おそらく曽祖父の著書には出会うことはなかった。
こないだ国会図書館のWebサイトで著作権の切れた本が閲覧できると知ったので、曽祖父の名前で検索してみた。
あった。めずらしい名前なのでまちがいない。
鉄道法に関する著書を出していた。戦前の鉄道法に関する本。こんなもの誰も読まない。古本屋ですら店頭に並ぶことはないだろう。
たぶんぼくが読まなかったらもう誰も読まないだろうな……。永遠に忘れ去られてしまうんだろうな……。
会ったこともない人だけど、ぼくの曽祖父。この人がいなかったらぼくは生まれていなかった。
なんらかの形でこの人のことを残したほうがよいのでは。おじいちゃんの遺志をぼくが引き継ぐ使命があるのでは……という気になってきた。
はっ。いかんいかん。
これは中高年男性が罹患しやすい「自分のルーツをたどる旅に出てしまう病」の初期症状だ。
あやうく図書館の郷土史コーナーに通い詰めて先祖の伝記を執筆して自費出版してしまうところだった。
そうなったらもう手遅れだ。あぶないところだった。
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