2020年12月24日木曜日

他人丼

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 こないだ遠方に住む友人に他人丼の話をしたら、通じなかった。
 どうも他人丼は全国共通の食べ物ではないようだ。

 関西だと、定食屋にはまずある。親子丼を出している店ならたいてい他人丼も置いている。親子丼より五十円か百円高い。

 他人丼を知らない人のために一応説明しておくと、牛肉を卵でとじてご飯の上に乗っけた料理だ。親子丼の鶏肉を牛肉に変えただけ。親子じゃないから他人丼。


 幼少期から耳にしているが、改めて考えるとずいぶん珍妙なネーミングだ。

 そもそも親子丼自体が猟奇的な名前だ。
「じゃあな。あの世で息子に会えるのを楽しみにしてろよ」と言いながら引き金に手をかける殺し屋の台詞みたいだ。
 だいたいその鶏と卵は親子じゃないし。食肉用の鶏の肉と、採卵用の鶏の卵だし。赤の他人だし。

 親子丼が妙なネーミングなのだから、それをベースにした他人丼はもっと変だ。
 まだ親子丼は(親子じゃないにしても)同種の肉と卵、という際立った特徴を名前にしているわけだが、他人丼は「際立った特徴を持っているわけじゃないから」というわけのわからんネーミングだ。
 「鶏肉とウズラの卵で他人丼」だったらまだわからんでもないが、牛は胎生だし。かすってすらいない。

「この恐竜は首が長いから〝首長竜〟と呼ぼう」 これはわかる。
「しかしこっちの恐竜は首が長くないから〝首長くない竜〟と呼ぼう」 これは納得できん。
 他人丼ってのはそういうことだ。〝非親子丼〟だ。
 だいたい、ほとんどの丼が他人だ。天丼だってエビとアナゴは他人だし、カツ丼も豚と卵は他人だ。
 他人であることは特徴じゃない。


 トゲナシトゲトゲという虫がいる。正式名称ではないらしいが。
 トゲトゲ(トゲハムシ)の仲間だけどトゲがないからトゲナシトゲトゲ。わけがわからん。

 ちなみに、トゲナシトゲトゲの仲間に例外的にトゲのあるものもいて、そいつはトゲアリトゲナシトゲトゲと呼ばれているそうだ。もっとわけがわからん。

 その例でいくと、遺伝子を組み換えて牛に卵を産ませることができたとき、その卵と別の牛で他人丼を作ったら「親子非親子丼(ただし親子じゃない)」になるね。


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