ひと目でわかる「戦前日本」の真実
1936-1945
水間 政憲
早くも決定! 今年の ゴミ本・オブ・ザ・イヤー!
ぼくは一年に百冊ぐらいの本を読むが、そのうち一冊ぐらいは「ああ、読むんじゃなかった……」と読みながら後悔する。
この本も序盤は「これはお金をドブに捨てたな……」とおもっていたのだが、あまりにクズ本すぎて途中から逆におもしろくなってきた。
「また出た! ゴミ主張!」
「すげえ! これが歴史修正主義者の考えか!」
と合いの手を入れながら読んだらそこそこ楽しめた。
(というかそうでもしないと読んでられない)
ってことでゴミとおもいながら読んだらそこそこ楽しめるんじゃないでしょうかね。
なんだかんだでゴミ屋敷って(遠目で見てる分には)おもしろいもんね。
「戦前の日本はまちがっていた」と言われるけど悪いことばかりでもなかったんだぜ、という趣旨の本かとおもって読みはじめた。
岩瀬 彰 『「月給100円サラリーマン」の時代』みたいな本かな、あれは名著だったからなあ、あんな感じで戦前の市井の人の生活を写真で伝える本だろうな。
とおもいながら読んだのだが……。
ぜんぜんちがった……!
「丹念に資料を集めて、そこから見えてくるものを浮かびあがらせる」本じゃなくて、
「著者のイデオロギーがまずあって、それに合致する資料だけを集めた」本だった。
前書きで「日本罪悪史観」という言葉が出てきた時点でイヤな予感がしたんだよな。
やべえやつしか使わない言葉だもんな……。
著者の言いたいことはこんな感じ。
日本は正しくて、中国や朝鮮やアメリカが悪くて、ほんとは戦争したくなかったのに引きずりこまれて、そんな中でも日本人は美しい心を持っていて、そんな日本が統治していたときは中国人も朝鮮人もいきいきとしていて、けど戦後は中国人も朝鮮人もこずるくなって、ついでに戦後の教育がまちがっていたせいで日本人も本来持っていた美しい心を失ってきている……。
はじめっから結論が決まってるんだよね。
フィリップ・E・テトロック&ダン・ガードナー『超予測力』によると、物事を正しく予測できないのはこういうタイプの人だそうだ(統計によって得られたものだ)。
この著者はまさにこのタイプ。
つまり、何からも学べないタイプ。
引用するのもアホらしいんだけど、たとえばこんなの。
こんなの挙げていったらキリがないからこれぐらいにしとくけど。
はあ……。
こういうこと言えば言うほど、あんたの大好きな日本人がバカだとおもわれるんだけどな……。
わかんねえのかな……。
きわめつきがこれ。
す、すげえ……。
これがトンデモ本ってやつか……!
うわさには聞いてたけど見たのははじめてだぜ……!
日本は原子爆弾を作れたけどあえて作らなかった。勝つことよりも武士道精神を優先させたから。
ですって!!
これ、まじめに言ってんの?
笑わせようとしてるんじゃなくて?
他にも、
「共産党政権下ではこんな純真な顔はできない」とか
「写真の猫が、ノンビリ時間が流れていた時代を象徴している」とか
「桜が咲いている写真もあり、のんびりとした時間が流れているのが写真から伝わってきます」などの頭の悪い 独創的なフレーズがいっぱい。
のんびりしてなくても桜は咲くし、猫なんかどんな時代でも同じ顔しとるわ!
PHP研究所ってこんな本出しちゃう出版社だったっけ……。
創設者の松下幸之助氏が草葉の陰で泣いてるぞ。
著者は、平和そうな写真、楽しそうな表情をしている写真ばかりを載せて
「ほら、戦前の日本はいい国だったんですよ」と言っている。
「つらく悲惨なことばかりではなかった」という主張はわかるけど(じっさいそうだったんだろうけど)、それが言いたいがために逆の方向に大きくふれすぎている。
今でもそうだけど、戦前・戦中の写真が日常をそのまま写したもののわけがない。
カメラもフィルムも今よりずっと高価だった時代。そんな時代に、貧しい生活風景なんか撮るわけがない。庶民の苦しい生活なんか撮らない。
いいものだけ、伝えたいものだけを撮る。
撮られた写真は嘘ではないかもしれないが、現実の1%を切り取って100倍に拡大したものだ。
現実をそのまま反映しているはずがない。
たとえばさ。Facebookに載ってる家族写真って、みんな楽しそうに写っている写真ばかりじゃない。
それを見て「まあいいとこしか写真に撮らないし、いい写真しかアップしないからねー。現実は楽しいことばっかりじゃないけど」とおもうだろうか。
それとも「2020年の日本人は例外なく家族仲良く暮らしているんだ! DVも虐待もないんだ! だってFacebookには幸せそうな写真しかないもん!」とおもうだろうか。
この本の著者は後者らしい。
あと随所に「現代日本の若者に対する苦言」が入るんだけどね。
「戦前の若者は骨があった。今は教育が誤っているから甘っちょろい考えの日本人ばかりだ。厳しい教育を受けさせねばならん」
みたいな感じで。
この手の人ってどうして「若者を叩きなおそう」しか言わないんだろう。
どうして自らを厳しい環境に置こうとしないんだろう。
若者は苦労しろ、おれたち老人は高みの見物だぜ。
これが「立派な日本人」の言うことかねえ。
ああ、ご立派だこと。
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