2020年8月12日水曜日

【読書感想文】ゴミ本・オブ・ザ・イヤー! / 水間 政憲『ひと目でわかる「戦前日本」の真実』

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ひと目でわかる「戦前日本」の真実

1936-1945

水間 政憲

内容(e-honより)
「戦前暗黒史観」を覆すビジュアル解説本。なぜ日本の戦後教育ではこれらの真実を封印してきたのか?

早くも決定! 今年の ゴミ本・オブ・ザ・イヤー!
いや、ここ十年でもっともレベルの高いゴミ・オブ・ゴミ本だった。

ぼくは一年に百冊ぐらいの本を読むが、そのうち一冊ぐらいは「ああ、読むんじゃなかった……」と読みながら後悔する。

この本も序盤は「これはお金をドブに捨てたな……」とおもっていたのだが、あまりにクズ本すぎて途中から逆におもしろくなってきた。

「また出た! ゴミ主張!」

「すげえ! これが歴史修正主義者の考えか!」

と合いの手を入れながら読んだらそこそこ楽しめた。
(というかそうでもしないと読んでられない)

ってことでゴミとおもいながら読んだらそこそこ楽しめるんじゃないでしょうかね。
なんだかんだでゴミ屋敷って(遠目で見てる分には)おもしろいもんね。



「戦前の日本はまちがっていた」と言われるけど悪いことばかりでもなかったんだぜ、という趣旨の本かとおもって読みはじめた。

岩瀬 彰 『「月給100円サラリーマン」の時代』みたいな本かな、あれは名著だったからなあ、あんな感じで戦前の市井の人の生活を写真で伝える本だろうな。

とおもいながら読んだのだが……。


ぜんぜんちがった……!

「丹念に資料を集めて、そこから見えてくるものを浮かびあがらせる」本じゃなくて、

「著者のイデオロギーがまずあって、それに合致する資料だけを集めた」本だった。


前書きで「日本罪悪史観」という言葉が出てきた時点でイヤな予感がしたんだよな。
やべえやつしか使わない言葉だもんな……。

著者の言いたいことはこんな感じ。

日本は正しくて、中国や朝鮮やアメリカが悪くて、ほんとは戦争したくなかったのに引きずりこまれて、そんな中でも日本人は美しい心を持っていて、そんな日本が統治していたときは中国人も朝鮮人もいきいきとしていて、けど戦後は中国人も朝鮮人もこずるくなって、ついでに戦後の教育がまちがっていたせいで日本人も本来持っていた美しい心を失ってきている……。

はじめっから結論が決まってるんだよね。

フィリップ・E・テトロック&ダン・ガードナー『超予測力』によると、物事を正しく予測できないのはこういうタイプの人だそうだ(統計によって得られたものだ)。

 複雑な問題をお気に入りの因果関係の雛型に押し込もうとし、それにそぐわないものは関係のない雑音として切り捨てた。煮え切らない回答を毛嫌いし、その分析結果は旗幟鮮明(すぎるほど)で、「そのうえ」「しかも」といった言葉を連発して、自らの主張が正しく他の主張が誤っている理由を並べ立てた。その結果、彼らは極端に自信にあふれ、さまざまな事象について「起こり得ない」「確実」などと言い切る傾向が高かった。自らの結論を固く信じ、予測が明らかに誤っていることがわかっても、なかなか考えを変えようとしなかった。「まあ、もう少し待てよ」というのがそんなときの決まり文句だった。

この著者はまさにこのタイプ。

つまり、何からも学べないタイプ。

引用するのもアホらしいんだけど、たとえばこんなの。

 それまで平穏無事だった日本が、中国の「罠」に嵌められ、中国国内の内戦に引きずり込まれたのは、まさに一九三七年七月だったのです。
 同七月七日、盧溝橋で日本軍に銃弾が撃ち込まれ、中国側と武力衝突しましたが、現地では、直後の同十一日に和平協定が結ばれていました。
 それにもかかわらず、「廊坊事件」(同二十五日)、「広安門事件」(同二十六日)と挑発は継続していました。この状況は、現在、尖閣で挑発行為を繰り返している中国とまったく同じです。
 そのような状況下で、北京近郊の通州において、子供を含む在留邦人二二三名が惨殺されたのです。国民が激昂したのは当然でした。それでも日本政府は隠忍自重していたのです。
 日本との戦争を望んでいたのが中国側だったことは、同九日、蒋介石が各省の幹部を前に「(日本と)戦うつもりである」と、宣言していたことで明らかになっています。
 日本が中国の懲罰に本格的に立ち上がったのは、第一次上海事変(一九三二年)のときに取り決めた「上海停戦協定」に違反し、同八月十三日に中国側が一方的に上海で戦闘を開始したことに対して、戦時国際法に則って応戦したのが実態だったのです。
 これらの事実は、GHQ占領下以降、現在でも教科書などでは封印されています。
 わが国で、事実でないことを教科書に記載し、教室で教えている状況は、まさに「反日教育」を実施していることになります。

こんなの挙げていったらキリがないからこれぐらいにしとくけど。

はあ……。

こういうこと言えば言うほど、あんたの大好きな日本人がバカだとおもわれるんだけどな……。
わかんねえのかな……。

きわめつきがこれ。

 戦後、原子力の研究に関して、日本は理論物理学だけが進歩していたかのように認識されてきましたが、実際には実証研究の分野においても最先端に達していたのです。
 当然、原子爆弾を理論的に製造できる知識は持ちあわせていたのです。
 GHQ占領下に日本の原子力研究の調査を担当したアメリカの科学者が、日本の研究者に、研究レベルの高さに驚いて「なぜ日本は原子爆弾を製造しなかったのか」と、疑問を呈していました。
 日本人の遵法精神は、武士道精神に裏打ちされており、原子爆弾の使用は即、戦時国際法違反になることで、原子爆弾を製造する能力があっても実用化する方向の議論は行われませんでした。

す、すげえ……。

これがトンデモ本ってやつか……!
うわさには聞いてたけど見たのははじめてだぜ……!

日本は原子爆弾を作れたけどあえて作らなかった。勝つことよりも武士道精神を優先させたから。

ですって!!

これ、まじめに言ってんの?
笑わせようとしてるんじゃなくて?

他にも、
「共産党政権下ではこんな純真な顔はできない」とか
「写真の猫が、ノンビリ時間が流れていた時代を象徴している」とか
「桜が咲いている写真もあり、のんびりとした時間が流れているのが写真から伝わってきます」などの
頭の悪い 独創的なフレーズがいっぱい。

のんびりしてなくても桜は咲くし、猫なんかどんな時代でも同じ顔しとるわ!


PHP研究所ってこんな本出しちゃう出版社だったっけ……。
創設者の松下幸之助氏が草葉の陰で泣いてるぞ。




著者は、平和そうな写真、楽しそうな表情をしている写真ばかりを載せて

「ほら、戦前の日本はいい国だったんですよ」と言っている。

「つらく悲惨なことばかりではなかった」という主張はわかるけど(じっさいそうだったんだろうけど)、それが言いたいがために逆の方向に大きくふれすぎている。


今でもそうだけど、戦前・戦中の写真が日常をそのまま写したもののわけがない。

カメラもフィルムも今よりずっと高価だった時代。そんな時代に、貧しい生活風景なんか撮るわけがない。庶民の苦しい生活なんか撮らない。
いいものだけ、伝えたいものだけを撮る。

撮られた写真は嘘ではないかもしれないが、現実の1%を切り取って100倍に拡大したものだ。
現実をそのまま反映しているはずがない。


たとえばさ。Facebookに載ってる家族写真って、みんな楽しそうに写っている写真ばかりじゃない。

それを見て「まあいいとこしか写真に撮らないし、いい写真しかアップしないからねー。現実は楽しいことばっかりじゃないけど」とおもうだろうか。

それとも「2020年の日本人は例外なく家族仲良く暮らしているんだ! DVも虐待もないんだ! だってFacebookには幸せそうな写真しかないもん!」とおもうだろうか。

この本の著者は後者らしい。




あと随所に「現代日本の若者に対する苦言」が入るんだけどね。

「戦前の若者は骨があった。今は教育が誤っているから甘っちょろい考えの日本人ばかりだ。厳しい教育を受けさせねばならん」

みたいな感じで。

この手の人ってどうして「若者を叩きなおそう」しか言わないんだろう。
どうして自らを厳しい環境に置こうとしないんだろう。

若者は苦労しろ、おれたち老人は高みの見物だぜ。

これが「立派な日本人」の言うことかねえ。
ああ、ご立派だこと。


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