食べものから学ぶ現代社会
私たちを動かす資本主義のカラクリ
平賀 緑
食べものを入口に、現代社会、主に資本主義について語る本。
今まで経済の本はあれこれ読んだけど、どうも腑に落ちないところがあった。
需要曲線とかを見ながら「こうやって価格が決定するんです」と言われると、
「うーん、確かに理論的な説明だけど、まちがってないんだろうけど、でも核心はついていないような気がする」という気になった。
だってほとんどの場合、ものの価格って売り手の都合で決まってるじゃん。たとえばいっときコメの価格がすごく上がったけど、それってほんとに受給の綱引きによるもの? 日本人がコメを食べる量は数ヶ月でそんなに変わるわけない。ってことは供給が減ったということになるわけだけど、ほんとにそこまで減ったの? そんなに記録的不作なら、もっと早い段階で「コメが大不作!」とニュースになったはず。 でも収穫量減少は話題にならなくて、あるときから急に価格高騰が話題になった。
ほんとに需要と供給で価格が決まってるの?
『食べものから学ぶ現代社会』では、経済学の教科書とはちがう、より現実的な経済の動きが説明されている。
小麦の取引のうち9割が「小麦をほしい人」ではなく「小麦の価格差を利用して儲けたい人」によっておこなわれているというのだ。
はーん。まあ江戸時代からコメ相場とかアズキ相場とかはあったので、マネーゲームとして食糧を売買する人は昔からいた(取引量が増えると流動性が増して価格の安定につながるというメリットもあるそうだ)。
でも昔は、基本は農家と問屋の売買で、そこにちょっと仕手筋が乗っかるぐらいだったのだが、今では逆に「生産者と流通業者はごく一部で、そこに大量の仕手筋が乗っかる」という構造になってしまった。
そりゃコメ価格も暴騰するはずだ。生産量が5%減っただけでも「今年はコメが少ないから値上がりするはず!」と大勢の投機筋が群がってくるわけだから、あっという間に価格は倍になってしまう。先物取引であれば実際にコメを貯蔵する必要もないからどれだけでも買えるしね。
まだ株とか金とかであれば価格が何倍になろうと庶民の生活には直接かかわらないからいいんだけど、金持ちのマネーゲームのせいで食料品の価格が乱高下するのは困る。
食料とか土地とかの取引はちゃんと法律で規制してほしいな。投機目的の取引には高い税金をかけるとかさ。
食料が「金融商品」になってしまった結果、食料の流通や価格は大企業が決定するようになってしまった。いちばん報われるべき生産者にはほとんどお金が入ってこない。
200円のバナナが売れても、バナナ農園で働く労働者に入ってくるのはたったの3円(1.5%)!
そりゃあ輸送したり仕入れて卸したり店頭で売ったりするのも大事だけど、さすがに生産者に1.5%しか入らないのはおかしい。かといって消費者としては価格は安いにこしたことがないので「じゃああなたが300円で買ってください」って言われても困るんだけど……。
経済学の教科書だと「売り手と買い手の綱引きによって価格が決定する」とあるけど、実際のところ貿易の大部分を握っているのは売り手でも買い手でもなく中間業者なわけだ。しかもその中間業者も税金対策で入っていたり。
こんな状態で「自由な競争に基づく適正価格」なんてつくはずがない!
ただ問題なのは「大企業が悪いせいだ!」と単純化できる話でもないってことだ。
よく派遣の話になると思考停止して「派遣会社がピンハネするのが悪い!」と叫んで終わり、って人がいるけど、世の中はそんなに単純なものではない。たったひとつの原因と明確な悪人がいてそいつを退治すればすべてが丸く収まるのはおとぎ話だけだ。
バナナ農園で働く労働者も、農場主も、流通を握っている大企業も、小売のスーパーも、バナナを買う消費者も、みんな悪くない。誰もが社会のルールにのっとって行動して「損をしないように」ふるまっている。その結果「バナナを作っている人に売上の1.5%しか入らない」というずいぶんおかしなことになってしまう。
これがぼくらの生きる資本主義社会のシステムなのだ。システムがまちがっているのか? それとも「バナナを作っている人に売上の1.5%しか入らない」と考えるぼくらのほうがまちがっているのか?
結局この本を読んでも「私たちを動かす資本主義のカラクリ」はよくわからなかった。でもそれでいいとおもう。資本主義のカラクリだなんて複雑でむずかしいものを、本一冊読んだぐらいでわかったら嘘だろう。たぶん誰にもわからない。
わからないことをちゃんとわからないままに提示できるのは、誠実でいい書き手だ。バカは単純明快な答えを求めるけど、わからないものをわからないもの受け止められるのが知性だ。
とりあえずわかるのは「市場のメカニズム」なんてのは現実とはほど遠い論理だってこと。わかりやすい説明に飛びつかないようにしなくちゃね。
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