DIE WITH ZERO
人生が豊かになりすぎる究極のルール
ビル・パーキンス(著) 児島 修(訳)
『DIE WITH ZERO』のメッセージはいたってシンプル。
死ぬときに財産をほぼゼロにしよう。お金は生きているうち、元気なうちに使おう。
たしかにその通りだ。みんなわかっている。墓場にお金は持っていけない。
でも、生前にお金を使い切るのはむずかしい。なぜなら、自分がいつ死ぬかわからないから。
おもっていたより長く生きるかもしれない。自分が年老いたときにちゃんと年金がもらえるのかわからない。歳をとったら医療費が高くつくんじゃないの。急な出費とか、物価高とかあるし、老後にいくらか必要なのかわからない。
ぼくもそのタイプ。あんまり物欲がないしセコいし妻も浪費するタイプではないので、貯金額は増えていく。といって欲しいものはあまりない。いちばんお金を使っているのが生命保険。それも掛け捨てではないので貯蓄みたいなものだ。
昔から貯めこむタイプだった。おこづかいをもらっていたときから、ある程度の貯金がないと不安になる。子どものいる今ならともかく、「どうしようもなくなったら親に泣きつけばいい」状況だった若い頃なんか、あるだけ使ってしまってもよかったとおもう。でもできなかった。小さい頃から「後先気にせずどんどん使ってたらなくなって困るよ」と言われて育ったからだろう。
必要以上に貯めこんでしまうタイプはけっこう多いようだ。
「いつか必要になったときのために」と貯めこんで、その「いつか」が来ることなく死んでしまう人が。
理想は、40代、50代ぐらいで財産額がピークを迎え、そこから少しずつ使って減らしていき、死ぬときにゼロに近くなっていることだ。
でもほとんどの人がそうではない。歳をとってからも資産が増え続ける。といってそのお金を使ってやりたいことがそうあるわけではない。
「子や孫に遺産を残せるならそれでいいじゃないか」という人もあるだろうが、相続させるにしても早く財産を渡してあげるほうがいいと著者は書く。たしかにその通りだ。60歳になって親が死んで遺産をもらうよりも、30歳のときに生前贈与されるほうがいい。若いときのほうが使い道が多いのだから。
それに生きているうちにちょっとずつ渡すほうが、税金も少なくて済むし、無用な相続トラブルも避けられる。
そもそも、同じお金の価値が、年代によって異なると著者は語る。
たしかにそうだ。80歳になって使う100万円よりも20歳で使う100万円のほうがずっと楽しいに決まっている。
一般に、歳をとるほど同じ額のお金から得られる喜びは小さくなる。財産が増えることもあるし、感受性が鈍ることもある。
ぼくは小学生のとき、お年玉を銀行に預けていた。そのお金は結局大人になるまで引き出すことはなかった。何万円かにはなったはずだ。
すごくもったいないことだ。今なら一日か二日で稼げる額だ。数万円好きに使っていいよ、と言われたら、じゃあちょっといい食事をして、服でも買って、それで終わりだ。でも学生のときに自由に使える数万円があったらどれだけ楽しめただろう。
どうせ使うなら若いときのほうがいい。同じ二泊三日の旅行でも、得られるものがぜんぜんちがう。
お金はいつまでも貯めとける。それがお金のいいところでもあり悪いところでもある。
有給休暇は二年使わなかったら消滅するじゃない? お金も同じような仕組みならいいのにね。手にしてから二年使わなかったお金は消滅する。だったらいやおうなしに使うもの。まあでも不動産とか株とか金(きん)とかに流れるだけか。
お金は貯めとけるので、必要以上に稼いでしまう。食物だったら「これ以上収穫しても腐らせてしまうだけだからこのへんでやめとこう」となるけど、金を稼ぐのはやめどきがわからない。
ぼくの友人に自分で事業をしている男がいて、そいつはけっこう稼いでいるらしいのだが、家族で食事をしているときでも、友人たちと遊んでいるときでも、仕事の電話がかかってきたらすぐに出て対応している。
大金を稼ぐためにはそれぐらいしないといけないのかもしれないが、プライベートの時間を切り売りして稼ぐことにそんなに意味があるの? とぼくはおもってしまう。
じっさい、そいつと遊ぶことは減ったし。仕事のほうを優先する人は遊びに誘いにくいんだよね。
人間にはずっと未来のことを想像する力がある(だからこそ貨幣というものが価値を持つ)。
しかしそのせいで、未来を心配するあまり、現在の価値が低く扱われてしまう。
ぼくはこの本を読んで、考え方ががらっと変わった……とはならなかった。でも、ちょっとだけ変わった。もっと今を大事にしたほうがいいな、と。
とりあえず、どっちを買うか迷ったときに値段を理由に選ぶのはやめよう、とおもった。今までは「ほんとはこっちのほうがいいけどちょっと高いんだよな……」と躊躇していた場面で、ほんとにいいものを選ぶようにしようとおもう。
まずは清水の舞台から飛び降りた気持ちで1500円のランチや!
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