2020年6月17日水曜日

【読書感想文】書店時代のイヤな思い出 / 大崎 梢『配達あかずきん』

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配達あかずきん

成風堂書店事件メモ

大崎 梢

内容(e-honより)
「いいよんさんわん」―近所に住む老人から託されたという謎の探求書リスト。コミック『あさきゆめみし』を購入後失踪した母を捜しに来た女性。配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真…。駅ビルの六階にある書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵が、さまざまな謎に取り組んでいく。本邦初の本格書店ミステリ、シリーズ第一弾。

いわゆる「日常の謎」系ミステリ。
書店で働く主人公と、切れ者のアルバイトが身の周りで起こった謎を解く。

文庫のレーベル、漫画の内容、雑誌の配達、おすすめ本、ディスプレイなど、書店に関係のある小道具が謎や謎解きに使われている。

少し前に『ビブリア古書堂の事件手帖』というライトミステリシリーズが人気になっていたが、それの新刊書店版みたいな感じかな。
『ビブリア』読んでないからテキトーだけど。



ミステリとしての出来は可もなく不可もなくという感じだけど、小説としての基礎がな……。

とにかく登場人物がみんなうるさい。

考えていることをぜんぶ口に出す。
ほぼ初対面の人間になんでもかんでも話す。
身内の死、教え子の恋愛といったデリケートな話題でもべらべらしゃべる。
書店の店員相手に。

うるせえよ。
ちょっとはひかえろよ。
たしなみとかデリカシーとかゼロかよ。

言いにくいことまで「それはまだ言えません」とかはっきり言っちゃう。
話をそらす、とか、口を濁す、とかそういうのがぜんぜんない。
あまりにおしゃべりをセーブできないので登場人物全員バカに見えてくる。

これは小説というより漫画のノベライズだな……。
漫画だったら説明文だらけにならないように登場人物にあれこれ説明させなきゃいけないけど、小説でそれをやるなよ……。

ライトノベルってこんな感じなのかな。
ふだん小説を読まない人にはこっちのほうが読みやすいのかもしれないけど、ぼくは読んでいて耳をふさぎたくなったな。



「書店のお仕事」情報がちょこちょこ入る。
かつて書店でバイトおよび社員として働いていたぼくとしては、いろんな苦い思い出とともによみがえってくる。
 毎朝毎朝、その日の入荷リストと配達分をつき合わせ、一軒ごとに調えていくのも気を遣う作業だが、それらを受け取り、駅周辺の各店舗に届けるのはバイトやパートの役目であり、これはこれで大変なのだ。
 原則として雨の日も風の日も、猛暑の日も酷寒の日も欠かすことはできない。今のところ成風堂では、配達業務は早番の人たちが曜日ごとに受け持っている。
 博美の電話がきっかけとなり、レジまわりでは配達先の話に花が咲いた。エレベーターのないビルの三階にある美容院や、タバコの煙がたちこめる喫茶店、次から次に注文する本を替える銀行、一軒だけぽつんと離れた床屋、集金の日はなかなか出てこないオーナー、居合わせた従業員が気安く本を頼むブティック。
あったなあ、配達。
ゴミクズみたいな仕事。
大っ嫌いだった。

客から配達を頼まれていてもぼくは断っていたんだけど、前任者が引き受けた配達リストがあって、しかたなく喫茶店とか美容室とかに配達してた。

ほんとくだらない仕事なんだよね。
店ごとに何種類かの雑誌を届けるんだけど、雑誌の発売日はばらばらなので月に何度も配達しなければならない。
数百円の雑誌なんて書店の利益は百円か二百円ぐらいだ。
それを数十分かけて配達するのだ。
配達料なんてとらない。雑誌の定価をもらうだけ。

発売日に配達分を取り分ける手間、配達中の人件費、ガソリン代、事故リスクなどを考えたら、よほど大口の客以外はどう考えても赤字だ。

まともな会社なら、数百円の利益のために数十分かけてたら
「おまえアホか。生産性というものを考えろ!」
と怒られるだろう。

ところが書店員は生産性の低いことばかりやっている(売上にまったく貢献しないポップを書くとか)から、コスト意識が麻痺してきて、嬉々として配達に行ってしまうのだ。
はあ、ほんとくだらない。

いや、わかるよ。
「そうやって地域に密着したお客様との信頼を築くことが長期的な利益に……」
みたいな御託は。
まあなんぼかはあるんでしょう。ボランティア配達によって得られるものも。
けど失うものはもっと多いとおもうな。

あー。
書いてたらいろいろ嫌なこと思いだしたなー。

ぼくが配達に行ってた個人でやってる美容室は、定休日以外にもおばちゃんの気分次第で休むから配達に行ったら閉まってることがあったなー。
配達に行ってた喫茶店の店員は、代金請求するたびにめちゃくちゃ嫌そうな顔をしてたなー。
タダで持ってきてやってんのになんで迷惑がられなあかんねん!

ほんと、配達って書店のダメさを象徴するような業務だったなー。



あと配達とは関係ないけど、あれも嫌いだったなー。
分冊百科。
ディアゴスティーニとか「週刊○○をつくる。創刊号は380円!」みたいなやつ。

あれ、はじめの何号かはふつうに書店に並ぶけど、途中からは定期購読分しか入荷しなくなるんだよね。
だから定期購読を頼まれるんだけど、あれの定期購読する人って八割方、途中で飽きて取りに来なくなる。
で、書店のレジ内にどんどん溜まってくる。
またあれがかさばるから苦労して置き場をつくらなくちゃいけないんだ。

定期的に電話して「もう10週分溜まってるんです取りに来てください」とか言わなくちゃいけない。
そしたら客は「わかりました。今週中には行きます」とか言うんだけど、まあ来ないよね。
あれ創刊号以外はけっこう高いから10週溜まったら1万円超えるんだよね。金銭的負担も大きいからますます客は足が遠のく。
書店にはどんどんバックナンバーが溜まってゆく。
レジの中だけで収まりきらなくなって、ストッカー(書架の下の引き出し)とか休憩室とかのスペースがどんどん浸食されてゆく。

定期購読がいやになったんなら、やめるって一本連絡してくれればいいのに。
でもそれをしないんだよね、分冊百科を定期購読する客は。
そもそも、計画性のある人はあんなものに手を出さないからね(偏見)。
「創刊号は380円!」に釣られてお得とおもっちゃうような人だからね。朝三暮四の猿レベルなんだよ(偏見)。

前の職場にいっつも金がないって言ってる人がいて、クレジットカードの返済に追われてる人だったんだけど、「何に金つかってるんですか?」って訊いたら「えっとまずディアゴスティーニの……」って返答で「ああやっぱり」って納得した。

分冊百科にはまる人はクレジットカードでリボ払いとかしちゃう人だ。



ディスプレイコンテストの話。
 ディスプレイコンテストは各出版社がよく使う手で、春の新入学フェアや夏のコミック祭り、秋のファッション特集、といった定番はもとより、新刊雑誌を盛り上げるために、発売前から豪華景品で参加を呼びかける大騒ぎもある。
「いいなあ、エルメスのバッグに、お食事券ですか」
「でもほら、ここまでやらないと取れないのよ。むりむり」
 今回、ブランドバッグで釣るコンテストは、アニメにもなった人気漫画の販促フェアだ。
 昨年、似たような企画が催され、そのときの様子が参考までにと掲載されていた。
 カラー写真で紹介された入賞作は、天井から飛行船の模型がぶら下がり、入道雲がむくむく立ちのぼり、登場人物たちの切り抜きが飾り立てられ、左右では迫力満点のドラゴンが火を噴いていた。
「これってみんな手作りなんでしょうか」
「そのはずだよ。模造紙や段ボールをうまく使って、凝りまくったものを作っているんだよ。すごいね」
あー、あったなー。
無駄の極み、ディスプレイコンテスト。

「この商品を売りたいのでめいっぱい飾りつけしてください!」
って出版社が書店に言ってくる。
それって本来なら出版社の仕事なんだけど、「上手に飾りつけした書店には一万円あげますよ」みたいなエサで釣って書店にやらせる。

で、いくつかの書店はアホみたいに気合入れてディスプレイつくんの。
入賞せずに賞品もらえなかったらもちろんムダだし、入賞したってぜったい賞品よりもディスプレイにかかった材料や人件費のほうが高いからムダ。
だいたいディスプレイがんばったところで売上なんてほぼ変わらないし。買う人は買うし。
むしろディスプレイするために他の商品の売場を削るからトータルの売上は落ちそうだし。

書店のムダの象徴みたいなイベントだよね。
文化祭気分で仕事してんの。
そりゃ衰退するわ。

こんな非効率なことばっかりして経営が苦しくなったら
「書店がなくなったら地域の文化の担い手が……」
とか言ってんだぜ。
非生産的文化の担い手じゃねえか。そんなもんつぶれろつぶれろ!


……いかんいかん。つい書店のことになると非難がましくなってしまう。
「人は、自分が通ってきた道に厳しい」って言うからね。

書店に対して淡いあこがれを持っている人は楽しめるかもしれないね。
ぼくは書店時代のイヤな思い出をいろいろ思いだして不快な気持ちになった小説だった。

がんばれ書店員!(とってつけ)


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