平面いぬ。
乙一
『石ノ目』『はじめ』『BLUE』『平面いぬ。』のファンタジー四篇を収録。
どれも奇妙な味わいの話だ。
『石ノ目』は、目を見ると石化してしまう女にまつわる話。メデューサみたいなやつね。遭難してある家に迷いこんだ主人公たち。そこには精巧な石人形たちと、決して顔を見せようとしない女がいた。主人公は、石人形の中からかつて行方不明になった母親をさがすが……。
終始不気味な雰囲気が漂う話だが終盤はおもわぬ展開を見せる。話の持っていきかたに無駄がなくて、小説巧者という感じだ。
『はじめ』の主人公は男子小学生。先生に怒られないための言い訳として〝はじめ〟という架空の女の子を考えだしたところ、主人公とその友だちにだけははじめの声が聞こえるようになる。
幻なのに主人公たちを助けたり成長したりする〝はじめ〟。幻の友だちとの友情、そして別れを丁寧に描いていて、幻なのにほろ苦い青春小説になっているのが妙な感覚だ。「幻の友だち」だけでなく「謎の地下通路」というもう一エッセンス加わっているのがいい。
ところで、「~だったんだ」をくりかえす変わった文体なのでこれがなにかを表しているのかとおもったら、特に意味がなかった。
『BLUE』はぬいぐるみたちの心中や行動を描いた短篇。『トイ・ストーリー』のようだが、もっとビターな味わい。出てくるぬいぐるみも人間もあまり性格のいい連中じゃない。
ダークな世界を描いていて個人的にはいちばん好きだったが、着地はちょっと安易なお涙ちょうだいだった。
『平面いぬ。』は、腕に入れた刺青の犬が意識を持って行動するようになった少女の話。身体の一部が自我を持つというアイデアは昔からよくあって、落語『こぶ弁慶』、『ブラック・ジャック』の『人面瘡』、星新一『かわいいポーリー』など、そこまで目新しいテーマではない。ただしそこに「家族が次々に余命宣告される」という要素を加えることで緊張感のある展開になっている。ちょっとしたオチもあり、これまたうまい小説。無駄だらけのようで無駄がない。
どれも派手さはないけれど、しみじみと味わいのある小説で、しかも構成がうまい。これを二十歳ぐらいで書いているってのがすごいなあ。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿