2022年6月7日火曜日

【読書感想文】東野 圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』 / 人は自己を犠牲にしない

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パラレルワールド・ラブストーリー

東野 圭吾

内容(e-honより)
親友の恋人を手に入れるために、俺はいったい何をしたのだろうか。「本当の過去」を取り戻すため、「記憶」と「真実」のはざまを辿る敦賀崇史。錯綜する世界の向こうに潜む闇、一つの疑問が、さらなる謎を生む。精緻な伏線、意表をつく展開、ついに解き明かされる驚愕の真実とは!?傑作長編ミステリー。


【ネタバレあり】


 主人公・敦賀崇史のふたつの世界が交互に語られる。

 ひとつは、親友・智彦が麻由子という女性と付き合っており、崇史が麻由子にひそかな恋心を描いている世界。

 もうひとつは、崇史が麻由子と交際しており、智彦はアメリカにいる世界。この世界では智彦と麻由子が交際していたという事実はない。

 まるでパラレルワールドのように、似た世界でありながら細部が異なるふたつの世界。はたしてどちらが真実の世界なのか。そしてなぜ〝パラレルワールド〟は生まれたのかー。




 感想。

 せっかく「パラレルワールド」というタイトルをつけてミスリードを誘ってはいるが、あまり成功してはいない。

  • 主人公たちが記憶に関する研究をしている
  • 主人公の記憶と事実との間に食い違いがある
  • 過去と現在が交互に語られるが、食い違いが生じているのは現在のみ
  • 過去編と現在編で人称が変わる(過去編は『俺』で、現在編では『崇史』で語られる)

 ので、「何らかの理由で主人公の記憶が改変され、同一人格でなくなったのだな」と容易にわかる。パラレルワールド感が出ていない。

 で、読み進めていくとはたしてその予想は当たっている。パラレルワールドではなく、現在編は「記憶を改変された主人公が認識している世界」だ。


 で、なんやかんやあってあれやこれやの謎が解けて(内容ゼロのあらすじ)過去編と現在編がつながるわけだが、どうもしっくりこなかった。

 ストーリー組み立てのうまさとか、SFをとりいれつつもちゃんとミステリにしあげるところか、さすがの東野圭吾作品だとはおもう。

 ただなあ。

 話のキーになるのが「主人公の親友の自己犠牲」なんだよね。これが嘘くさくて、終盤で冷めてしまった。

 中盤までは理解不能な記述が続くので「いやでもこれを乗り越えた先におもしろいラストがあるはず!」と信じて我慢しながら読み進めていたのに、待っていたのが主人公の親友による「愛する人の幸せのためにぼくは身を引くよ」「ぼくを裏切ったあいつとずっと親友でいたいから、ぼくは生命の危険があるけど己の記憶を改竄するよ」という自己犠牲的な行動。

 いやあ、そりゃないぜ。人間、そんなに自分を犠牲にできないぜ。

 フィクション以外で聞いたことある? 愛する女性に幸せになってもらいたいから、自ら身を引いた人の話を。親友が大事だから、自らの命を投げだした人を。

 ねえよ。戦時下みたいな特殊な状況で「殺らないと殺られる!」みたいにおもいこまされたのならともかく、平常時に洗脳されたわけでもない人が自己犠牲精神を発揮するかというと……、ううむ、納得できない。


 主人公の行動はひたすらエゴイスティックで共感できただけに、親友のうすっぺらい行動にはがっかり。

 最後にもう一段階「これもまた主人公の願望によって改竄された記憶でした!」っていうオチがあるのかとおもったら、それもなく。都合のよい願望かとおもったら、都合のよい現実でした。


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