2022年6月10日金曜日

【読書感想文】エマニュエル=サエズ ガブリエル=ズックマン『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』 / なぜ民主主義は金持ちだけを優遇するのか

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つくられた格差

不公平税制が生んだ所得の不平等

エマニュエル・サエズ(著) ガブリエル・ズックマン(著)
山田 美明(訳)

内容(e-honより)
富裕層はますます富み、中間層や貧困層はより貧しくなる真の理由とは?ピケティの共同研究者による衝撃の研究結果。史上最高レベルの不平等はどのように生まれたのか?最高税率が高ければ格差は縮小し、経済も成長する。富裕層の租税回避を防ぐ方法。

 近年の税制がいかに富裕層を優遇しており、その結果格差がどれだけ拡大しているか、そしてどう是正すべきかを書いた本。

 扱っているのは基本的にアメリカの話だが、日本も似た状況になっているのでことごとくうなずかされる。




 アメリカでは、上位1パーセントの所得が国民所得の20%以上を占めている。貧富の差は拡大するばかり。

 本来なら富の再分配をするのが税の役目なのに、高額所得者の所得税は下がる一方。おまけに租税回避が横行しており、税による再分配はちっとも機能していない。

現在ではほとんどの社会階層が、所得の二五~三〇パーセントを税金として国庫に納めている。ただし超富裕層だけは例外的に、二〇パーセントほどしか納めていない。アメリカの税制はほぼ均等税と言えるが、最富裕層だけ逆進的なのである。アメリカはヨーロッパ諸国ほど多額の税金を徴収していないかもしれないが少なくとも累進的ではあるという主張があるが、これは間違っている。

 なんと、高額所得者の税率が高くないどころか、逆に低くなっているのだ。金持ちほど税率が低い。

 どう考えたっておかしい。貧乏人から年収の三十パーセントを持っていくのと、億万長者から収入の三十パーセントを持っていくのでは、前者の痛みのほうがはるかに大きい。なのに同じ割合にするどころか、逆に貧しい人からのとる率を高くするのは理不尽だ。


 この本には、アメリカにおける税引前所得の年間成長率の表がある。

 1946年~1980年の間。どの階層も年平均2.0%ぐらいの率で成長していた。

 ところが1980年~2018年の間では様相は一変する。成長率が年平均1.4%に下がり、さらに9割の国民の成長率は1.4%を下回った。平均を上回っているのは富裕層だけで、特に上位1パーセントの富裕層は大きく成長した。さらに上位0.1%の富裕層の年平均成長率は320%、上位0.01%は430%、そして最上位0.001%(2300人)は600%となった。

 富める者はますます富み、その一方で労働者階級の所得はほとんど増えていない。つまり「金持ちが潤えば、自然に富がこぼれ落ちて経済全体が成長する」という『トリクルダウン理論』は真っ赤な嘘だったのだ。




 上位1%の金持ちはますます潤い、残りの99%との差は開く一方。日本もアメリカほどではないにせよ、同じような状況だ。どうしてこんなことが起こるのだろう。

 いや、ニホンザルの社会ならわかる。力の強いものがすべてをぶんどる社会であれば、そういうことも起こるだろう。

 だがアメリカも日本も民主主義国家だ。金持ちも貧乏人も同じ一票を持っている。それなのになぜ、「1%の金持ちに優しい法律を作ってあげる政治家」を選んでしまうのだろう。

 じつにふしぎだ。民主主義が機能していれば、格差はゼロにはならないにせよ、少なくとも半数以上は得をするような制度を選ぶんじゃないだろうか。


 だが、アメリカや日本だけでなく、世界中で「高所得者に対する税金はどんどん下がっていく」傾向が見られる。

 その原因は、高所得者による〝租税逃れ〟にある。

 一九八六年税制改革法は、累進課税が廃れていく過程を如実に示している。累進課税は、有権者の意思により否定され、民主的な手続きを経て廃れていくわけではない。累進課税が大幅に後退する事例をいくつも検討してみると、そこに一つのパターンがあることがわかる。まずは租税回避が爆発的に増え、次いで政府が富裕層への課税は無理だとあきらめ、その税率を引き下げるのである。この負のスパイラルを理解することが、税制の歴史を理解し、将来的に公平な税制を構築していくための鍵となる。


 所得の大半が個人所得の対象になっていない、様々な租税回避策によって法人税の支払いを免れている(法人税の低い国外にペーパーカンパニーを設立して株式や債券をそこに移す)、所得税の税率が低い(資本所得に対する税率は低い)などにより、高所得者ほど租税を回避しようとしている。GAFAのような国際的大企業が(その利益に比べれば)まったくと言っていいほど税金を納めていないことは有名な話だ。

 そもそも、労働に対する税よりもキャピタルゲイン(投資による利益)にかかる税のほうが安いってのが意味わからん。誰がどう考えたって、労働によって得た金よりも不労所得のほうに高い税率かけるべきだろう。


 『つくられた格差』では、高所得者や大企業が税金から逃れるためにあの手この手を使っている手口が紹介されている。もちろん租税回避策にも金はかかる。だから貧しい者には同じ手が使えない。でも金持ちや大企業からしたら、多くの弁護士や税理士を雇っても十分おつりがくる。結果的に金持ちほど納める税率が低くなるという〝税の逆進性〟が起こる。




 本書では、対抗措置の案も提言されている。詳しくはこの本を読んでほしいけど、各国政府が本気を出せば租税回避の大部分は防ぐことができる。

 筆者は〝国民所得税〟なるシンプルな税制を提案する。

 〝国民所得税〟はあらゆる所得にかかる税だ。労働所得と企業所得と利子所得すべて。もちろんキャピタルゲインにも。当然ながら累進税(高所得者ほど税率が高くなる)である。

 国民所得税を導入すると、こんな世界が可能になる。アメリカでその税収を使えば、国民全員に医療や育児を提供できる。公立大学への助成金の増加などにより、高等教育を受ける機会も均等化できる。アメリカでは現在、高等教育を受ける機会に大きな格差がある。(中略)アメリカ以外の国でも、国民所得税を導入すれば、給与税や付加価値税を減らし、税制の逆進性を和らげることができる。
 たとえば、アメリカで税率六パーセントの国民所得税を導入し、さらに富裕層への課税を強化すれば、国民所得のおよそ一〇パーセント分に相当する税収が得られる。そのうちの六パーセント分を医療に、一パーセント分を育児に、〇・五パーセント分を高等教育にまわせば、二一世紀にふさわしい社会制度を確立できる。残りの税収は、現在労働者階級を苦しめている売上税(およびトランブ関税)の廃止に使えばいい。

 ちょっと絵に描いた餅のような気もするしここまでうまくはいかないとおもうが、それでも今よりずっと格差は縮むことだろう。

 ぜひとも租税回避している金持ちからきっちり金をとってほしい。税金が増えれば教育や医療や福祉が充実するんだもの、ぼくのとられる税が増えたって文句言わないぜ。

 まあ経団連みたいなところに手なずけられている政治家はやろうともおもわないだろうけど。




 租税逃れをしている金持ちや企業からしっかり金をとることは「胸がすっとする」以外にもメリットがある(もちろんすっとするのが最大のメリットだが)。

 資産家や大企業の経営者は「成功者から高い税をとれば成功への意欲が失われる」なんてことを言うが、それを裏付けるデータはまったくない(もちろん共産主義国のように100%とられるならば意欲はなくなるだろうが)。トリクルダウンも嘘だった。

 このように、無数の評論家が大衆に信じ込ませようとしている内容とは裏腹に、法人税の負担が労働者に転嫁されることは経済学的に「証明」されていない。もし本当に、法人税の負担が労働者にのしかかるのなら、世界中の労働組合が法人税の削減を政府に懇願していることだろう。実際のところ、高い法人税のために一般労働者が苦しんでいるという見解を誰よりも積極的に支持しているのは、裕福な株主たちなのだ。たとえば、二〇一八年のアメリカ中間選挙の際には、コーク兄弟(それぞれ五〇〇億ドルもの資産を所有している)の支援するロビー団体が二〇〇〇万ドルもの資金を費やし、トランプ大統領の法人税引き下げにより賃金が上がると有権者に訴える運動を展開している。同様に、労働税の負担が資本に転嫁されることも、経済学的に証明されていない。長期的に見れば、資本税の負担は資本所有者が、労働税の負担は労働者が背負うことになる。貧困層に課される税により富裕層が苦しむことはないように、富裕層に課される税により貧困層が苦しむこともない。

 話はむしろ逆で、富の集中はイノベーションを妨げる。

 富は力になる。極端な富の集中は極端な力の集中を生む。政府の政策に影響を与える力、競争を阻害する力、イデオロギーを形成する力、それらが一つになって、自分に有利になるよう所得の分配を操作する力になる。その力は、市場でも政府でもメディアでも発揮される。これこそが、一部の人間が英大な富を所有するとほかの人の手に渡る富が減る中心的な理由である。現在の超富裕層の所得は、社会のほかの階層を犠牲にして成り立っている。ジョン・アスターやアンドリュー・カーネギー、ジョン・ロックフェラーなど、金びか時代の実業家が「悪徳資本家」と呼ばれているのは、そのためだ。
 現在、アップルや、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス、ウォルマートを経営するウォルトン一族は何をしているだろう? 自分たちの財産や地位を守ることばかりしている。たとえば、新規参入企業を、脅威的な存在になる前に買収している。競合企業や規制当局、内国歳入庁と争っている。新聞社を買収している。英大な富を蓄積した人々がいつでもどこでもしていることだ。アップルやアマゾン、ウォルマートの創業者はみな、多大なイノベーションを成し遂げ、新たな製品やサービスを生み出してきた。なかには、いまだイノベーションを追求している創業者もいる。だがその後継者たちは、会社の現在の地位を守ることに汲々とするばかりであり、今後そこから偉大なイノベーションが生まれるとは思えない。

 富が集中すれば、その金で新たなイノベーションに挑戦するよりも、競合のイノベーションを妨害しようとする。当然のことだ。

 家康が天下統一を成し遂げて鎖国政策を敷いた江戸時代。徳川家からどんなイノベーションが生まれただろうか? 諸国大名が力を持つのを妨げる政策ばかりとっていたではないか。




 ぼくが金持ちじゃないからってのもあるけど、富める者がますます富める社会はよろしくない。どんな分野でも同じ、山の成長に欠かせないのは広い裾野だ。野球のうまい小学生九人を集めて、その子らだけに最高の環境を与えて練習させれば最高のチームができるかというと、そんなことはない。

歴史の教訓に従えば、万人の成功に投資する国が豊かになるという事実は今後も変わらないだろう。

 スティーブ・ジョブズはビジネスの世界に革新をもたらしたが、もしも彼が今の時代に会社をつくったとしたら、GAFAのような(アップルはないからGFAか)巨大企業につぶされずにアップル社は大成功していただろうか。どう考えたって無理だろう。


 金持ちから税金をたっぷりふんだくるのは大企業の飼い犬でない政治家にぜひがんばってもらうとして、国民の意識も変わるべきだとぼくはおもう。

 脱税は当然だし、ペーパーカンパニーを作ったりタックスヘイブンを利用しての租税回避はもっと厳しく糾弾すべきだとおもうんだよね。

 テレビでもネットニュースでも不倫した有名人を叩いたりしてるけど、家族以外は何の被害も受けていない不倫と異なり、税金逃れは全国民が被害者なわけだ。

 違法でなくても道義的に許されることではない。税金を減らすためにペーパーカンパニーを作るやつは、救急車を一年間に百回呼ぶやつと同じぐらい市民の敵だ。

 税金ドロボーってのは公務員や政治家のことじゃなくて、租税回避をするやつやそれを手伝う税理士や会計士のことだ。租税回避をするやつは義務から逃れているわけだから、それに応じて権利も減らしてあげないといけない。病院も警察も消防も後回しの対応でいい。どんどんぶんなぐっていこう。

 まずはふるさと納税の返礼品制度をつくったやつを樹から逆さ吊りにするところからだな!


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