つくられた格差
不公平税制が生んだ所得の不平等
エマニュエル・サエズ(著) ガブリエル・ズックマン(著)
山田 美明(訳)
近年の税制がいかに富裕層を優遇しており、その結果格差がどれだけ拡大しているか、そしてどう是正すべきかを書いた本。
扱っているのは基本的にアメリカの話だが、日本も似た状況になっているのでことごとくうなずかされる。
アメリカでは、上位1パーセントの所得が国民所得の20%以上を占めている。貧富の差は拡大するばかり。
本来なら富の再分配をするのが税の役目なのに、高額所得者の所得税は下がる一方。おまけに租税回避が横行しており、税による再分配はちっとも機能していない。
なんと、高額所得者の税率が高くないどころか、逆に低くなっているのだ。金持ちほど税率が低い。
どう考えたっておかしい。貧乏人から年収の三十パーセントを持っていくのと、億万長者から収入の三十パーセントを持っていくのでは、前者の痛みのほうがはるかに大きい。なのに同じ割合にするどころか、逆に貧しい人からのとる率を高くするのは理不尽だ。
この本には、アメリカにおける税引前所得の年間成長率の表がある。
1946年~1980年の間。どの階層も年平均2.0%ぐらいの率で成長していた。
ところが1980年~2018年の間では様相は一変する。成長率が年平均1.4%に下がり、さらに9割の国民の成長率は1.4%を下回った。平均を上回っているのは富裕層だけで、特に上位1パーセントの富裕層は大きく成長した。さらに上位0.1%の富裕層の年平均成長率は320%、上位0.01%は430%、そして最上位0.001%(2300人)は600%となった。
富める者はますます富み、その一方で労働者階級の所得はほとんど増えていない。つまり「金持ちが潤えば、自然に富がこぼれ落ちて経済全体が成長する」という『トリクルダウン理論』は真っ赤な嘘だったのだ。
上位1%の金持ちはますます潤い、残りの99%との差は開く一方。日本もアメリカほどではないにせよ、同じような状況だ。どうしてこんなことが起こるのだろう。
いや、ニホンザルの社会ならわかる。力の強いものがすべてをぶんどる社会であれば、そういうことも起こるだろう。
だがアメリカも日本も民主主義国家だ。金持ちも貧乏人も同じ一票を持っている。それなのになぜ、「1%の金持ちに優しい法律を作ってあげる政治家」を選んでしまうのだろう。
じつにふしぎだ。民主主義が機能していれば、格差はゼロにはならないにせよ、少なくとも半数以上は得をするような制度を選ぶんじゃないだろうか。
だが、アメリカや日本だけでなく、世界中で「高所得者に対する税金はどんどん下がっていく」傾向が見られる。
その原因は、高所得者による〝租税逃れ〟にある。
所得の大半が個人所得の対象になっていない、様々な租税回避策によって法人税の支払いを免れている(法人税の低い国外にペーパーカンパニーを設立して株式や債券をそこに移す)、所得税の税率が低い(資本所得に対する税率は低い)などにより、高所得者ほど租税を回避しようとしている。GAFAのような国際的大企業が(その利益に比べれば)まったくと言っていいほど税金を納めていないことは有名な話だ。
そもそも、労働に対する税よりもキャピタルゲイン(投資による利益)にかかる税のほうが安いってのが意味わからん。誰がどう考えたって、労働によって得た金よりも不労所得のほうに高い税率かけるべきだろう。
『つくられた格差』では、高所得者や大企業が税金から逃れるためにあの手この手を使っている手口が紹介されている。もちろん租税回避策にも金はかかる。だから貧しい者には同じ手が使えない。でも金持ちや大企業からしたら、多くの弁護士や税理士を雇っても十分おつりがくる。結果的に金持ちほど納める税率が低くなるという〝税の逆進性〟が起こる。
本書では、対抗措置の案も提言されている。詳しくはこの本を読んでほしいけど、各国政府が本気を出せば租税回避の大部分は防ぐことができる。
筆者は〝国民所得税〟なるシンプルな税制を提案する。
〝国民所得税〟はあらゆる所得にかかる税だ。労働所得と企業所得と利子所得すべて。もちろんキャピタルゲインにも。当然ながら累進税(高所得者ほど税率が高くなる)である。
ちょっと絵に描いた餅のような気もするしここまでうまくはいかないとおもうが、それでも今よりずっと格差は縮むことだろう。
ぜひとも租税回避している金持ちからきっちり金をとってほしい。税金が増えれば教育や医療や福祉が充実するんだもの、ぼくのとられる税が増えたって文句言わないぜ。
まあ経団連みたいなところに手なずけられている政治家はやろうともおもわないだろうけど。
租税逃れをしている金持ちや企業からしっかり金をとることは「胸がすっとする」以外にもメリットがある(もちろんすっとするのが最大のメリットだが)。
資産家や大企業の経営者は「成功者から高い税をとれば成功への意欲が失われる」なんてことを言うが、それを裏付けるデータはまったくない(もちろん共産主義国のように100%とられるならば意欲はなくなるだろうが)。トリクルダウンも嘘だった。
話はむしろ逆で、富の集中はイノベーションを妨げる。
富が集中すれば、その金で新たなイノベーションに挑戦するよりも、競合のイノベーションを妨害しようとする。当然のことだ。
家康が天下統一を成し遂げて鎖国政策を敷いた江戸時代。徳川家からどんなイノベーションが生まれただろうか? 諸国大名が力を持つのを妨げる政策ばかりとっていたではないか。
ぼくが金持ちじゃないからってのもあるけど、富める者がますます富める社会はよろしくない。どんな分野でも同じ、山の成長に欠かせないのは広い裾野だ。野球のうまい小学生九人を集めて、その子らだけに最高の環境を与えて練習させれば最高のチームができるかというと、そんなことはない。
スティーブ・ジョブズはビジネスの世界に革新をもたらしたが、もしも彼が今の時代に会社をつくったとしたら、GAFAのような(アップルはないからGFAか)巨大企業につぶされずにアップル社は大成功していただろうか。どう考えたって無理だろう。
金持ちから税金をたっぷりふんだくるのは大企業の飼い犬でない政治家にぜひがんばってもらうとして、国民の意識も変わるべきだとぼくはおもう。
脱税は当然だし、ペーパーカンパニーを作ったりタックスヘイブンを利用しての租税回避はもっと厳しく糾弾すべきだとおもうんだよね。
テレビでもネットニュースでも不倫した有名人を叩いたりしてるけど、家族以外は何の被害も受けていない不倫と異なり、税金逃れは全国民が被害者なわけだ。
違法でなくても道義的に許されることではない。税金を減らすためにペーパーカンパニーを作るやつは、救急車を一年間に百回呼ぶやつと同じぐらい市民の敵だ。
税金ドロボーってのは公務員や政治家のことじゃなくて、租税回避をするやつやそれを手伝う税理士や会計士のことだ。租税回避をするやつは義務から逃れているわけだから、それに応じて権利も減らしてあげないといけない。病院も警察も消防も後回しの対応でいい。どんどんぶんなぐっていこう。
まずはふるさと納税の返礼品制度をつくったやつを樹から逆さ吊りにするところからだな!
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