2022年1月17日月曜日

【DVD感想】ロングコートダディ単独ライブ『じごくトニック』

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内容紹介(Amazonより)
『キングオブコント2020』決勝に進出した実力派コンビ・ロングコートダディの単独ライブをDVD化。7月に行われた東阪ツアーの大阪公演より、「厳格お父さん」「時をかける兵藤」ほか新作コント7本と東京公演限定コントほかを収録。

厳格お父さん

 犬を拾ったので飼いたいと言う息子に対して父親が放つ言葉が……。


 基本的にはひとつのボケ。それも大ボケではなく「ちょっとした違和感」程度。オープニングアクトにふさわしい上品なコント。


時をかける兵頭

 職場の先輩に後輩が誕生日プレゼントをあげる。お礼を言う先輩。なんのへんてつもないシーンだが、なぜか同じようなシーンが延々くりかえされる……。


 違和感だけが残る前半。後半の説明で前半の謎が解け、続きが気になる展開に。謎のちりばめかた、最小限の説明、そして何とも言えない絶妙なボケ。

 いやあ、これはロングコートダディらしさがあふれているなあ。ボケらしいボケがほとんどない。プレゼントの内容自体で笑いが起きるのだが、冷静に考えるとぜんぜんおかしなプレゼントじゃないんだよね。どっちもおかしな人じゃないしふざけてもいない。なのに絶妙におもしろい。

 この、説明のしようのない笑い。センスあふれるコントだ。


カットステーキランチ

 ファミレスで話すバイトの同僚。どうということのない職場のうわさ話なのだが、徐々に片方の価値観のずれが目立ってきて……。


 これまた大掛かりなボケはないものの、じわじわとおもしろい。「気にするところ、そこ!?」と言いたくなる。なのにコント中では誰も指摘しない。

 そして秀逸なのが、カットステーキランチの使い方。序盤のカットステーキランチがずっと気になってたんだけど、もっとも効果的なタイミングで登場。ほんとにファミレスでカットステーキランチが焼かれるぐらいの時間なのがたまらない。


ランプの精

 願いを三つ叶えてくれるランプの精を呼び出した男。彼の願いを聞いたランプの精はなんともいえない顔をして……。


 個人的にいちばん笑ったのがこのコント。男の倫理観や価値観が狂ってる。それも、わかりにくく狂ってる。わかるようでわからない。でもちょっとは理解できるのかなーとおもったら、やっぱり理解できない。

 コントや漫画で「三つの願い」って定番の設定だけど、キーとなるのはやっぱり「三つ」をどう使うか。三段落ちにするとか、一つめと二つめを三つめで使うとか、三つだからこその笑いを作らないといけない。
 その点、このコントでは「三つ」をうまく処理している。「三つめ」がアレだからこそ、男の狂気性がよりいっそう浮かび上がる。ディズニー版『アラジン』を観てからこのコントを観ることをお勧めします。


脱がせてもらっている時間は時間に含まれていないと思っていたでござる

 もうこれはタイトルがすべて。ほぼ出オチのコント。
 一分もないコントなので説明のしようがない。


魔物

 甲子園を目指すエースと、お互いに好意を持っているらしいマネージャー。地方予選決勝前日にいちゃついていたのが原因でエースが指を怪我してしまい……。


 十年ほどの時間の経過を見せてくれる、スケールが大きいようで小さいコント。「指の怪我をマネージャーに知られるとあいつが責任を感じてしまうから隠し通さないと」というエースの優しさが哀しい笑いを生む。


じごくトニック

 小説家が自殺をすると、そこに死神のような存在が現れる。死後の行き先は天国か、地獄か、はたまた転生か。転生先は選べないが、その三つのどれでも好きに選んでいいという。はたして男が選ぶのは……。


 三十分を超す大作コントだが、個人的にはあまり好きになれなかった。他のコントはどれも人生におけるある一瞬を切り取ったものだが、このコントだけは起承転結がしっかりしていてちゃんとした芝居である。それが逆に性に合わなかったというか、ロングコートダディにはもっと「人から見ればどうでもいいような一瞬」をすくいあげるコントを期待してしまう。

 個人的な好みの話になってしまうが、「単独ライブのラストに収められているちょっと人情的なコント」があまり好きではないのだ。ラーメンズのライブ『鯨』のラストである『器用で不器用な男と不器用で器用な男の話』はたしかに素晴らしかった。あの一作によって『鯨』というライブ自体がすごく引き締まった。ただそれは『器用で不器用な男と不器用で器用な男の話』が非常によくできたコントだったからである。

 特にオークラさん(バナナマンや東京03のライブにもかかわっている人)がその手のコントを好きらしく、彼が手がけたライブのラストはたいてい「しんみりコント」だ。もちろんその中にはたいへんすばらしい作品もあるが、中には「しんみりさせようとすればいいってもんじゃないよ」と言いたくなる作品もある。「ラストにしんみりするコントを入れておけば、観終わった後に『ああいいものを観た』という気になるだろう」という狙いが透けてしまうというか。ああいうのはたまにやるからいいのであって、毎回毎回松竹新喜劇みたいになられても「お笑い」を観にきている側としては醒めてしまう(松竹新喜劇観たことないけど)。

 そんなわけで、当然ながらラーメンズやバナナマンや東京03がコント界に与える影響はすさまじいものがあるから、昨今はなんだか「コントライブのラストは笑いあり涙ありの人情派コントにしなくちゃいけない」かのような風潮まで感じてしまう。考えすぎかもしれないが。

『じごくトニック』の話に戻るが、せっかくここまでナンセンスな笑いを披露してきたのに最後にストーリー性豊かなコントを見せられると「出来は悪くないんだけど今求めているのはそれじゃないんだよな……」という気になってしまう。




 なお、本編もさることながら幕間映像もおもしろかった。

 特に、堂前・ビスケットブラザーズきん・kento fukayaが18禁のゲーム『話れ』をやる映像は声に出して笑った。
「一生懸命話をしてくれていますが話が入ってきません。アイテムをゲットして話が入ってくるようにしよう!」というさっぱり意味のわからない説明でゲームがスタート。だが次の映像を観ると、一瞬にして説明の意味が理解できるようになる。

 すばらしくばかばかしい。18禁どころか、何歳でもアウトだろ、これは!


 他にも、YouTube動画の編集をする映像、『兎の好きな食べ物ランキング』、『阪本と中谷が近づいたらマユリカの漫才が聞こえてくる動画』などナンセンスな笑いに満ちた映像がたくさん。これに関しては、DVDでツッコミを入れながら観るほうがだんぜん楽しい。舞台で観たら「ツッコミたいけど声を出すわけにはいかない……」というもやもやが残りそうだ。




 全篇通してまずおもうのが、金と時間のかけ方が贅沢だということだ。

 たとえば『脱がせてもらっている時間は時間に含まれていないと思っていたでござる』なんて、そこそこ大掛かりなセットや衣装を用意しているが、コントの時間はおそらく1分にも満たない。セッティングや片付けのほうがはるかに長い。もちろんその時間は幕間映像でつないでいるけど。

 ふつう、これだけのセットを用意するのであれば、もっと展開を持たせて長いコントにしようとか、あるいは準備のコストに対して得られる笑いの量が見合わないからこのコントはボツにしようとか考えそうなものである。

 なのに、数十秒であっさり終わらせている。贅沢だ。

『厳格お父さん』も非常に短いし、『ランプの精』だってあんなにドライアイスをたく必然性はない。劇団四季ばりにふんだんにもくもくもくもくやっている。

 手間や金のかけかたと笑いの量が比例していなくて、そこがまた単独ライブらしくていい。いろんな芸人が出るライブでこんなことをやったらきっと怒られるだろう。

 この贅沢さ、現実的な枠組みにとらわれない、自由な発想ができるからこそなのだろう。「もったいない」ともおもうが、その贅沢さがなんとも上品。

 聞けば、ドリフのコントや、『ごっつええ感じ』のコントでも、たった数分のコントのためにものすごい金をかけて豪華なセットを組んだという。

 きっと、一流のクリエイターには、頭の中にビジョンがあるのだろう。そのビジョンに現実を近づけていく作業がコント作りなのだ。だから、観ている側にとっては「もったいない」とおもえるようなコストのかけかたになるんじゃないだろうか。想像上の絵を描くときに「ここにこんな建物があったら建築費が高くつくな」とはいちいち思わないのと同じで。


 ただ、気になったのが女装のクオリティ。『脱がせてもらっている時間~』と『魔物』で堂前さんが女装しているのだが、そのクオリティが低いのだ。まったくもって女性に見えない。ただカツラをかぶって女の服を着ただけ、という感じ。美人である必要はないけど、女性らしさがまったくない。

 いや、いいんだよ。コントだから女装のクオリティが低くても。バカリズムなんて女性を演じるときにカツラすらかぶらないし。
 ただ、ロングコートダディのは中途半端なんだよね。やらないんならやらないで「観客に想像させる」でいいし、やるならメイクとか小道具にもこだわって徹底的に女性らしさを出してほしい。半端な女装のせいでコントの世界に入りづらかったのが残念。ここはもっとコストをかけてもいいとこだとおもうぜ。


 どの作品もおもしろかった。でも、「お笑いDVDを観て大笑いしたい」という人には正直いってお勧めしない。爆笑するようなコントはほとんどないからだ。作品性は高いが、笑いを取りにいく姿勢はいたって控えめだからだ。

「じんわりおかしい」を味わいたい方にはおすすめ。



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3 件のコメント:

  1. ロングコートダディ大好きです。関西にいるので自然とファンになってしまいました。なんかお洒落さが鼻につかないし、着眼点もいいし、自分たちのネタ作りに設けてるハードルが高いような感じがします。他のグループとレベルが違う気がします。チェンジアップみたいな笑い。
    記事中に書かれたラストのしんみりコントは悪い意味での松本人志の影響かなと思います。「哀愁のある笑いが好き」とか「爆笑に特化した笑いだけが笑いじゃない」みたいなかつて本で自書でのべてました。そんな事ないと思うんですけどね。

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    1. コメントありがとうございます!
      そういや松本人志の『VISUALBUM』は、テレビでやっていたコントとは違い、微妙な違和感を形にしたようなコントが多かったですね。ロングコートダディのコントにも通ずるものがあるのかも。

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    2. まっちゃん→バナナマン経由ロングコートダディって感じなきがします。
      大阪でこういうタイプのコント師はめずらしいのでこれからも応援したいですね。

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