2022年1月21日金曜日

【読書感想文】今野 敏『ST 警視庁科学特捜班』

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ST 警視庁科学特捜班

今野 敏

内容(e-honより)
多様化する現代犯罪に対応するため新設された警視庁科学特捜班、略称ST。繰り返される猟奇事件、捜査陣は典型的な淫楽殺人と断定したが、STの青山は一人これに異を唱える。プロファイリングで浮かび上がった犯人像の矛盾、追い詰められた犯罪者の取った行動とは。痛快無比エンタテインメントの真骨頂。


(一部ネタバレあり)

 警視庁の科学特捜班(ST)の活躍を描いたハードボイルド小説。

 班長の警部を除けば、「一匹狼を気取る法医学者」「秩序恐怖症のプロファイリングの天才」「武道の達人でもある、人並外れた嗅覚の持ち主」「達観した僧侶」「紅一点でグラマー美女の超人的な聴覚の持ち主」と、漫画じみたキャラクターが並ぶ。小説というよりは、テレビドラマのキャラクターっぽい(実際ドラマ化されたようだ)。

 ただ、ギャグ漫画のようにコミカルなキャラクターばかり出てくる割には、起こる事件は妙に猟奇的で生々しい。殺された女性の身体の一部が持ち去られていたり。そのへんはちょっとちぐはぐな印象を受けた。


「そうじゃありません。殺人の動機の話をしているのです」
「動機などは刑事が考えることだ」
「え……?」
「キャップ。しっかりしてくれ。俺たちは何なんだ? 科捜研の職員だぞ。俺は、殺人そのものにしか興味はない。そして、この捜査本部の連中だって、俺たちに動機だの、殺人の背景だのの推理など期待していないはずだ。どういう犯人がどういう手段で殺人を行ったか。その正確な情報だけを期待しているはずだ。違うか?」
「そりゃそうですけど......。でも、STは、ただの科捜研の職員じゃなくて……。どう言うか、これまでの科捜研の範囲を超えた活動を期待されているわけで……」
「基本を忘れちゃ何にもならないよ」
「基本?」
「そう。俺たちがやるべきことは科学捜査だ。探偵の真似事じゃない」
 赤城の言うことはもっともだった。百合根は、急に気恥ずかしくなった。
「そうでしたね。どうやら僕は、功をあせるあまり本来の役割を忘れかけていたようです」


 はじめは「コミカルなドラマとシリアル・キラーとの対決とのどっちを書きたいんだろう」と戸惑ったが、「どっちも書きたいんだな」と気づいてからはおもしろく読めた。

 リアリティやヒューマニズムを捨て、ひたすらエンタテインメントに徹する姿勢は嫌いじゃない。

 警察小説ってテーマが重厚になって、やたらと登場人物(の口を借りた作者)が説教を垂れたがるけど、この作品にはぜんぜんそんなところがない。STのメンバーはほんとに犯人を見つけることにしか興味がなくて、犯行動機にも、世直しにも、市民の安全にも、まったく興味がない。これはすがすがしい。


 ……とはいえ、三人もの女性を殺した犯人の内面がまったく描かれていなくて、もやもやしたものが残った。金銭目的でもなく、恨みもない人を三人も殺すなんて……。

 マフィア同士に抗争を起こさせるのが目的だったらしいけど、それだったらもうちょっとうまいやりかたがあったとおもうけどな……。


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