花の鎖
湊かなえ
うーん……。
たしかに湊かなえさんは小説家としてのテクニックはすごいんだけど、技巧に走りすぎてたなあ。うまいけど、おもしろいかというと……。
三人の女性の日々が交代で描かれる。一見無関係に見える三人。で、それぞれに「謎の男」「親しくなる男性」「父母の謎めいた過去」「鼻持ちならないいとこ」などが出てくるので、かなりややこしい。ここについていくだけでたいへん。
で、肝心の仕掛けなんだけど、この手口もううんざりなんだよね。
ミステリにおいて複数の語り手が出てくるときって、十中八九あのパターンじゃん。ああどうせ今回もあれなんだろうなーっておもいながら読んでいたら、案の定そのパターン。はいはい、出た出た、書店員のやっすい「あなたはもう一度はじめから読み返したくなる!」POPをつけられるどんでん返しパターンね。それもう食傷してるんですけど。
『花の鎖』なんかもう「読者をだましてやろう」が最優先になってるような気がする。「おもしろい小説にしよう」よりも。
「実は××でしたー!」ってやるより、ふつうに順を追って説明していった方がおもしろかったんじゃないかな。せっかくのおもしろいストーリーなんだから、安易な「驚きのラスト」トリックに逃げずにふつうに書いたほうがわかりやすくてよかったのに。
策に溺れたって感じがするなあ。
あと「こんなやついねーよ」とおもったのも減点ポイント。
いや、いいんだよ。フィクションだからどんなやつが出てきたって。
超天才が出てきたって、超ラッキーなやつが出てきたって、超能力者が出てきたって、宇宙人が出てきたっていい。小説ってそういうもんだから。
ぼくが許せないのは、「自分にとって不利になることをべらべらとしゃべるやつ」だ。
未来が舞台であろうと、宇宙が舞台であろうと、他人の気持ちのわからないサイコパスだろうと、そんなやつはいちゃいけない。自分にとって不利なことは隠さなきゃいけない。話すのであれば、それを上回るだけのメリットがなければならない。
『花の鎖』の登場人物は、まあしゃべる。ほぼ初対面の相手に「過去に恥をかいた思い出」とか「身内の秘密」とかをしゃべる。
質問をされて、「答えたくありません。小学校の遠足で同じ質問に答えて、大恥をかいたことがあるので」なんて答える。いやそれもっとつっこんで聞いてほしい人の答え方やないかーい! ほんとに答えたくない人がそんなこと言うかい。
フィクションにはどんなキャラクターがいたっていいけど、「己の不利になることべらべらしゃべる人物」だけは許せない。
話を進めるためだけに登場人物に論理性ゼロの行動をとらせるのはやめてほしいなあ。
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この作者さん、一般受けするけど書評家から評判悪いですよね。僕はキャラクターが単純なのと、やや寒い名言があったので読むのやめました。
返信削除『告白』は、出た当時たしかにおもしろかったですけどね。何冊か読んだけど、いまだデビュー作を超えるものには出会わないなあ……。
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