オリーブ
吉永 南央
あらゆる痕跡を残して失踪した妻、夫の入院中に夫の旧友と関係を持っているらしい妻、不倫相手の彫刻を自作のものとして発表する男、行方不明になった統合失調症の妹……。
どの短篇も「親しい人の秘密」がテーマとなっている。
最終的にぜんぶハートフルな結末に着地するのが、個人的には好きじゃなかったな。そういうのもあっていいけど、ぜんぶがそうだと「どうせ次も悲劇的な事実は出てこないんでしょ」という気になってしまう。
好きだったのは、ラストの短篇『欠けた月の夜に』。
優しい夫と賢明な息子、そして気の合う友人たちに恵まれ、幸せに暮らしていた主人公。
ところがある日、夫が突然死してしまう。毎日帰りが遅く、休日出勤もしていたので、過労死ではないかと疑うが、会社側の対応は冷たいもの。会社相手に訴訟の準備をしていたところ、「夫は毎日サボっていて会社で居場所がなかった」との告発状が届く。調べると、夫の意外な一面が出てきて……。
という話。
結婚して十年たってわかるのは、配偶者のことなんてちっともわからないということ。
特に子どもを育てていると関心は子どものことばかりで、配偶者のことなんて考えている余裕がなくなる。
「子どもがしんどそう」の前では、「妻の機嫌が悪そうだ」なんて一顧だにする余地ないよ、じっさい。もちろん向こうもそうだろう。
家にいる間に妻が何をしているのかなんてまったく把握していないし、妻が「今は子どもが小さいから我慢してるけど、あと十年したらこののん気に鼻をほじっている男とは離婚しよう」と考えていたとしても、ぼくにはわからない。
子どものとき、家族は一体だとおもっていた。父と母はお互いすべてをわかりあっているものだとおもっていた。
でも、夫婦なんてしょせんは他人なんだよなあ。どこまでいっても。
ただこれは必ずしも諦観ではなく「他人だからこそそれなりの距離感を保っていれば長期間つきあっていける」という認識をぼくはもっている。
夫婦が親子やきょうだいのような距離感になったら、数日で離婚だよ。
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