2021年11月9日火曜日

【読書感想文】日本推理作家協会『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』

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小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所

大沢 在昌  石田 衣良  今野 敏  柴田 よしき
  京極 夏彦  逢坂 剛  東野 圭吾

内容(e-honより)
ご存知、国民的マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。縁あって日本推理作家協会とのコラボ企画が実現しました。ベストセラー作家たちによるトリビュート短編小説が誕生。我らが両さんと、あの『新宿鮫』の鮫島や『池袋ウエストゲートパーク』のマコトとの豪華共演も楽しめる。ギャグあり、人情あり、ハードボイルド風の展開ありの宝石箱のようなアンソロジー。


『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と日本推理作家協会とのコラボアンソロジー。
『こち亀』のキャラクターを使った短篇を、人気作家たちが書いている。


『こち亀』はぼくが生まれる前からジャンプ掲載していた作品。小学校高学年ぐらいでハマり、いっときは単行本を六十冊ぐらい持っていた。手放してしまったけど。

 百巻ぐらいまでの話はだいたい読んだので、「どれ、ほんとに『こち亀』の世界を小説にできたんだろうな。変な出来だったら許さんぞ」という気持ちで読んだ。


 で、結論からいうといまひとつ。

 大沢在昌『幼な馴染み』と石田衣良『池袋⇔亀有エクスプレス』は、自分の作品のおなじみのシリーズに無理やり『こち亀』のキャラクターをゲスト出演させたという感じ。『こち亀』の世界ではないなあ。

 楽な道に逃げたな、という印象。
 こういうアンソロジーって逃げるとおもしろくない。結果的にイマイチになってもいいから、真正面からぶつかってほしい。


 柴田よしき『一杯の賭け蕎麦』と逢坂 剛『決闘 二対三!の巻』はギャグに挑戦している。その心意気は買うが、ギャグが上滑りしている感は否めない。漫画のギャグをそのまま小説にしたっておもしろくないよ。

 漫画なら許されても、小説にすると「それはありえんだろ」という気になってしまう。読者の求めるリアリティの基準が漫画と小説ではちがうんだよね。

 特に『決闘 二対三!の巻』は、「麗子が他の署員に金を賭けた拳銃摘発勝負を持ちかける」というめちゃくちゃな展開で(もちろん両さんが噛んでいるとはいえ)、原作へのリスペクトも何もあったものではない。原作読まずに書いたのか? タイトルだけはいちばん原作に寄せているけど。




 個人的にいちばんおもしろかったのは、今野 敏『キング・タイガー』。

 定年退職した元刑事が時間を持て余し、ひさしぶりにプラモデルをやろうと思い立つ。模型屋に行くとそこに「両さんの作品」が飾ってある。その完成度の高さに感心し、自分もそれに近づこうと努力するが、やればやるほど両さんとの差が目に付くようになり……というストーリー。

 地味な話だが、元刑事の心中が丁寧に描かれている。

 こち亀というと、両さんの超人的な能力や強引な性格、中川や麗子の金持ちエピソードなどにまず目がいくが、あの作品が40年も続いたのはそういった〝わかりやすいキャラクター性〟によるものではない。作者のホビーに対する深い造詣など、ありとあらゆるものに対する強い好奇心が作品に投影されているからだ。

『キング・タイガー』には、『こち亀』と同じプラモへの愛とこだわりが存分に発揮されている。

 組み立て説明書を開く。さすがにこれだけの部品数のプラモデルともなると、組み立て説明書もただのペラではない。四つ折りにされた大きなもので、しかもカラー刷りになっている。
 昔の安いプラモデルとは大違いだ。
 説明書を読むと、使わない部品がずいぶんあるようだ。他のモデルと共通の部品をひとまとめにしてランナーでつないだものや、好みで選んで取り付ける部品などがあるからだ。
 これは、指揮事案と同じだ。計画性が何より大切だ。私はそう感じた。大事件が勃発したときに、捜査本部、あるいは指揮本部ができる。管理官などの幹部は、情報を集約して即座に上げ、上からの命令を的確に現場に指示しなければならない。
 その情報量は膨大でしかもすべてが緊急を要するのだ。小さな間違いが重大な失敗に結びつく恐れがある。だから、指揮をする立場の人間は常に事態の把握につとめ、さらには的確な判断を下せるように計画性を持つ必要があるのだ。

 今野敏氏は、自身もプラモデル愛好家らしい。だから『キング・タイガー』には両さんはほとんど登場しないにもかかわらず、もっとも『こち亀』らしい作品に仕上がっている。

『こち亀』ノベライズの正解を見せてくれた気がする。『こち亀』を小説にするなら、ギャグ路線じゃなくてマニアックな知識を活かした方向性だよな。活字との相性もいいし。




 京極 夏彦『ぬらりひょんの褌』と東野 圭吾『目指せ乱歩賞!』も悪くはなかった。


 まあ『ぬらりひょんの褌』に関してはぜんぜんこち亀っぽくなくて京極夏彦テイストが強すぎるんだけどね。
 でも大原部長と寺井という地味目なキャラクターを軸に据えているのがいい。両さんや中川や麗子はキャラが強すぎて小説向きじゃないんだよね。


『目指せ乱歩賞!』のほうは、「乱歩賞の賞金額が大きいことを聞いた両さんが反則スレスレの方法で乱歩賞をめざす」という原作にもありそうな話。というかこんな話なかったっけ? 漫画の新人賞を目指す話ならあったような気がする。

『こち亀』と日本推理作家協会とのコラボという点を考えれば、これがいちばん趣旨に近いかもしれない。さすが小説巧者、うまくまとめたな。


 おもしろいかどうかでいうと微妙なところだけど、「与えられた制約の中でどう料理するか」というお題のおかげで作家の力量がはっきり見えるのがおもしろかった。

 たまにはこういうアンソロジーも悪くないね。


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