2021年11月24日水曜日

ポートボールにおけるドリブル再発明の瞬間

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 ポートボールを知っているだろうか。

 Wikipedia『ポートボール』


 バスケットボールの子ども向け版というか。だいたいのルールはバスケットボールと同じだが、いちばんのちがいはゴールリングの代わりに人が立つこと。台の上にゴールマンが立って、その人にボールを渡せば得点が入る。

 みんな小学校でやったよね? とおもったが、今調べたら大阪発祥のスポーツなので全国区ではない可能性もある。兵庫県の小学校に通っていたぼくは何度かやったことあります。


 どんなへたくそでも適当にボールを蹴っていれば得点が入る可能性のあるサッカーとちがい、バスケットボールはある程度技術がないと点が入らない。小学校低学年だとそもそもゴールの高さまでボールが届かない、なんてこともある。

 その点ポートボールなら、ゴールは低い(台に乗ってもにせいぜい二メートルぐらい)し、シュートが正確でなくてもゴールマンが手を伸ばしてキャッチしてくれる。




 小学校低学年の子どもたちとよく公園で遊ぶ。

 子どもが未就学児のときはおにごっことかけいどろとか、とにかく走る遊びが主流だったのだが、ドッジボールなど多少複雑な遊びをやるようになってきた。

 ただ、ドッジボールって小学校低学年の遊びの定番でありながら、万人が遊ぶのにはあまり向いてないスポーツなんだよね。
 なぜなら強い子にばかりボールが集中するから。

 強い子は投げて、当てて、キャッチして、当てられて外野に行って、また当てて内野に復帰して……と八面六臂の活躍を見せる一方、弱い子は「逃げる」以外にはほとんどやることがない。

 いやほんと、「すごいスピードで飛んでくるボールから逃げまどい、ボールをぶつけられて痛い目に遭い、外野に行ってぼーっと過ごし、たまに転がってくるボールを拾って強い子にパスするだけ」のスポーツなんかおもしろいわけないよね。ほぼ罰じゃん。
 ドッジボールがスポーツ嫌いを生みだしていると言っても過言ではない。

(ちなみに、男子はそこそこ下手な子でも積極的に敵を狙いにいくのに対し、女子はそこそこうまい子でも空気を読んで自分では投げずに味方にパスすることが多い。既にはっきりと行動に男女差があっておもしろい)


 そんなわけで、ボール遊びが上手な子も下手な子もそこそこいっしょに楽しめるスポーツはないかなーと考えて、小学校のときにやっていたポートボールを思いだした。
 あれなら下手な子でもぼちぼち活躍できるかも。

 ということで、子どもたちにルールを説明してポートボールをやることにした。

  • ゴールマンは大人がやる(ゴールマンはただ立つだけであまりおもしろくないので。またゴールマンは背が高い人でないと点が入らないので)
  • ドリブルは教えなかった。うまい子のワンマンプレーにならないように、パスをつながないと点をとれないようにした。
  • 公式ルールだと2歩まで歩いていいらしいが、低学年には「2歩まで」を意識するのは難しい。また「3歩歩いた」「いや2歩だ」で喧嘩になることが目に見えているので、シンプルに「ボールを持っている人は1歩も歩いてはいけない」にした。投げるときに1歩踏みだすぐらいは黙認。
  • 危険な接触を減らすため「ボールを持っている人から奪うのは禁止」とした。ボールを取ったらあわてなくていい。小学校低学年には「一瞬で状況を把握してパスコースを決める」のは難しすぎる。スチールが禁止なので、ボールを手に入れるには、パスをカットするか、こぼれ球を拾うかしかない。
  • 怪我や喧嘩を招かないよう、2人同時にボールに触れたときはじゃんけんで所有権を決めることにした。




 ということで、小学2年生4人+大人2人でポートボールをやってみた。

 うん、いい。かなり白熱する。

 パスをつながないと点がとれないので、全員にまんべんなくボールを触る機会がある。ゴールマンを除けば1チーム2人しかいないので、必然的に下手な子にもボールがまわってくる。これが1チーム4人とかになると下手な子はパスしてもらえなくなるんだろうけど……。

 子どもは走りまわるけど大人はまったく走らなくてもいい、というのもいい。

 子どもは体力が無尽蔵にあるので、子どもといっしょにおにごっこなどをやっていると大人が先にばてるのだ。

 気を付けないといけないのは、なるべく接触を避けるようなルールにしているが、それでもやはりボールをめぐって子ども同士の接触が発生することだ。お互いに頭をぶつけるとか、別の子に引っかかれるとかは多少覚悟しなければならない。

 そうか、小学校でドッジボールが人気なのは、プレイヤー同士の接触が少ないからってのもあるんだろうな。ボールをぶつけられるのは痛いけど、怪我をするほどじゃないもんな。




 子どもたちははじめてのポートボールを楽しんでいた。ルールもそれほど難しくないので、みんなすぐに飲み込めた。

 特に教えたわけじゃないけど、「パスをカットするためにボールを持っている子と、パスを待っている子の間に入る」なんてプレーも自然にできるようになった。

 ところが「パスをカットされないように、ボールを持っていない子が右に左に動きまわる」はなかなかできない。みんな、ぼーっと突っ立ってパスを待っている。目の前に敵がいるからパスがもらえるはずないのに。

 そういやぼくも小学校のときにサッカーをやっていたけど、コーチから「パスもらいに行け!」とよく怒られたなあ。
 小学生にとって「パスをもらいやすい位置に移動する」というのはかなり難しいのだ。自分を客観的に見る、俯瞰的な視点が必要になるもんな。




 おもしろかったのは、自然発生的にドリブルが生まれたことだ。

 歩いてはいけないので、パスコースとシュートコースをふさがれるとどうすることもできない。立往生だ。

 あるとき、ひとりの子がボールを少し前に投げて自分で拾いに行った。ちょっと投げる、拾いに行く。ちょっと投げる、拾いに行く。そうやれば少しずつ前に進めることに気づいたのだ。
 他の子が「あれいいの?」と訊いてきたが、「ボールを持ったまま歩いてはいけない」というルールは破っていないので問題ない。
 OKと答えると、他の子も真似をしはじめた。


 ちょっと投げて、拾う。またちょっと投げる、拾う。

 ああそうか。これは原始的なドリブルだ。この子は、教えられていないのに自然にドリブルを発明したのだ。


 想像だけど、たぶんバスケットボールのドリブルもこうやって生まれたんだとおもう。

 バスケットボールが生まれたとき、「ボールを地面にバウンドさせながらだったら歩いていい」というルールはたぶんなかったはず。あったのは「ボールを持ったまま3歩以上歩いてはいけない」というルールだけ。
 たぶん最初期のバスケットボールにはパスはあってもドリブルはなかったはずだ。

 だがあるとき、誰かが「ボールを地面にバウンドさせながらならルールに抵触せずに進める」ことに気づいた。周囲は「あれアリなの?」とおもっただろうが、ルール的にはセーフだった。
 そこでみなが真似をはじめ、ドリブルが生まれたのだ。

 

 今、ぼくはポートボールにおけるドリブル再発明の瞬間を目撃したのだ!


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