三階に止まる
石持 浅海
一篇目の『宙の鳥籠』の出来がよろしくなかったので「これはハズレだったな……」とおもいながら読んだのだが、どんどん尻上がりになっていって、二篇目以降はほとんどおもしろく読めた。
『宙の鳥籠』だけは書き下ろし作品らしいが、これだけ明らかに見劣りしている。
しかも舞台は密室。登場人物はふたりだけ(その二人の会話の中には他の人物も出てくる)。すでに事件は起こっていて、書かれているのは謎解き部分だけ。
結果、説明台詞のオンパレードだ。
「君も知っている通り○○は××をした」「そう、君は△△をしたわけだ」「わかっているとおもうけど□□だよね」
こんな台詞しゃべるやつおるかい。
お互いにとってわかりきっていることを、時系列にとって丁寧に説明する。頭おかしいとしかおもえない。
まあ世の中にはわかりきったことをぐだぐだぐだぐだとしゃべる人もいるが、切れ者という設定の人がこんなしゃべりかたをしたらだめだ。
設定からして無理があるんだよね……。
『転校』は超進学校を舞台にした作品。ミステリというよりSFショートショートのような味わい。これは謎解きよりも設定の異常性に重きが置かれているので悪くなかった。
『壁の穴』は「女子更衣室を覗いている最中に殺された」という友人の汚名を返上するため、推理をする学生の話。
都合のよい「高校生名探偵が殺人事件を解決!」になっていないのがいい。
『院長室』は『EDS緊急推理解決院』というアンソロジーに収録されている一篇だそうだ。
この一篇だけ読むと少々設定がわかりづらい。これだけでも一応わかるけど。
緊急推理解決院の院長がまぬけすぎるのと、謎解きがすべて推測なのが残念。七瀬氏はもう結論がわかってたのに、なんでわざわざあんなことをしに行ったのか。
『ご自由にお使い下さい』は6ページほどの作品。
これも証拠のない推測がたまたま当たっただけで、推理の切れ味はあまりよろしくない。この長さだったら、ラスト数行で真実が明らかになるぐらいの鋭さがほしいな。
『心中少女』は、心中するために廃墟を訪れた少女が死体を発見する……という設定は好きだった。これはどうなるんだろうと期待したんだけど、残念ながら期待を下回ってしまったな。
でもこのへんでわかってきた。この人は奇をてらったどんでん返しよりも、地に足のついた「ありそう」な展開のほうが好きなんだろうな。そうおもって読むと悪くない。
『黒い方程式』は設定がすごくよかった。
トイレに出たゴキブリに殺虫剤をかけて殺した妻が、夫にドアを閉められてトイレに閉じこめられる。そして夫から告げられる意外な事実……。
これもオチの意外性は少ないが、フランスの短篇映画みたいでよかった。フランスの短編映画観たことないから勝手なイメージだけど。
ラスト『三階に止まる』。
短篇集のタイトルにするだけあってよかった。この作品だけ毛色が違うのだが。
新しく越してきたマンション。家賃は相場より安いし、住人もいい人ばかり。ただ一点気になるのは、なぜかエレベーターが必ず三階に止まること。一階から七階に行くときも、七階から一階に行くときも、途中で必ず三階に止まる。誰も乗り降りしないのに。どれだけ点検してもエレベーターに異状はない。はてしてエレベーターを三階に止めている原因は何なのか……。
「日常の謎」系ミステリかとおもったがそうではなく、オカルトだった。オカルトはあまり好きではないのだが(怖いとおもえないので)、「エレベーターがなぜか三階に止まる」というのが気に入った。なぜなら、いかにもありそうな現象だから。
エレベーターって謎の動きをすることが多いよね。止まったのに誰も乗り降りしないこともあるし(押し間違いなんだろうが)、「七階で押したのに八階に止まってるやつより十階に止まってるやつのほうが先に来る」なんてこともある。
以前読んだ数学の本に、エレベーターは複雑なアルゴリズムで動いていると書いてあったが、複雑すぎてまったく動きが読めない。もはやエレベーターって人知を超えてるんじゃないか。
だからエレベーターって電化製品でありながら怪奇現象と相性がいいよね。機械なのに奇怪。
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