2021年4月12日月曜日

お塾

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 子どもが塾に行く年齢は、年々早くなっていっているようだ。

 うちの子の周囲でも「中学受験対策の有名塾に入った」とか「××の春期講習に行かせている」といった声が聞かれる。まだ小学二年生だが。

 まだまだ必要ないとおもっているけど、そうはいっても周囲が塾に行きだすと焦る。「うちの子だけ取り残されてしまうのでは……」という気になる。

 焦りを払拭するため、小学校時代の同級生のことをおもいだす。



 悪友N。
 彼はもっとも勉強とは遠いところにいた。とにかく勉強ができない。というよりやろうとしない。宿題はやってこない。授業態度も悪い。小学生にして「おれはパチンコで食っていく」と言っていた。中学卒業後は、近隣でもっとも偏差値の低い高校を中退してホストになったと風のうわさで聞いた。その後の消息は知らない。

 小学校時代、Nからこんな話を聞いた。
「おれは小学校受験をさせられてん。いやでいやでしょうがなかったけど、親がむりやり。おれが勉強嫌いになったのはそのせいや。おれが小学校受験に失敗したから、親はおれに対して勉強の期待をしなくなった」

 嘘やろとおもった。とても小学校受験をするタイプには見えなかったからだ。
 だが言われてみればNの姉は地元では名門とされる国立の附属中学校に通っていた。たぶんNの親は、姉と同様にNにも国立小学校に行ってくれる期待をかけ、そして期待を捨てたのだろう。

 このエピソードは、ぼくに「幼いころから勉強漬けにしようとすると反動でとんでもないアホになってしまう」という意識を植えつけた。



 べつの友人D。
 家が近かったこともあり小学校低学年の頃から毎日のように遊んでいた。公園で走りまわったり、サッカーをしたり。活発な子だった。
 彼は小学校一年生のときからそろばん教室に通い、二年生には塾に通いだし、三年生になると塾が週六ぐらいになってまったく遊べなくなった。通っていたプール教室やサッカークラブもやめ、学校以外のすべての時間を塾にささげるようになった。

 Dの二歳上の兄もやはり小さいころから塾に通い、日本有数の進学校に入った。後に京大に入ったと聞く。

 一方のDは兄ほど勉強が得意でなかったようで、「日本有数の進学校」よりは少しランクの落ちる中学校に入り、そこの学校とはあまりあわなかったようで不登校気味になり、大学は「関西ではわりといいとされる私大である××大学」に入った。

 これは母から聞いた話だが、公立中学校、家からいちばん近い公立高校に通っていたぼくが京大に合格したとき、そのうわさをどこからか聞きつけたDのおかあさんが我が家にやってきて(それまで十年以上連絡をとってなかったのに)、「おたくのお子さんは公立高校から京大入ったんですって? うちの子なんか昔から塾に行って私学に行かせてたのに××大学にしか行けなかったんですよ……。ほんとお金が無駄になったわ……」と愚痴を吐いていったそうだ。
(ちなみにぼくの姉は××大学に行ってたので「おたくの娘の頭が悪いと言われてるようで不愉快だったわ!」と母は憤慨していた。)


 Dが優秀でなかったわけではない。小学校時代同じクラスだったぼくにはわかる。塾に通っているからというだけでなく、当意即妙な受け答えができたり、おもわぬ発想をしたり、柔軟な思考力を持った子だった。

 ただ、ぼくと同じで悪ガキだった。教師のことはなめてかかってる。教師から言われたことでも、自分が納得しなければ従わない。
 そういうタイプは、進学塾や「そこそこの進学校」には合わなかったんだろうなと今ならわかる(ちなみにトップクラスの進学校はたいていものすごく自由らしいので合っていたかもしれない)。

 もしDが公立中学校・公立高校に進んでいたらどうなっていただろう。



 このふたつの例をもって「塾や小学校受験・中学校受験なんて意味がない」と言い切る気はない。

 NもDも「塾通い・受験が(親の期待ほど)うまくいかなかったケース」だが、もしも塾に行っていなかったらどうだったかなんて誰にもわからない。

 ただ、年齢が低いほど「塾で先取りしていることでつけられる周囲との差」は大きくて、中学高校と進んでいくにつれその差はほとんどなくなる。

「塾に通っているからクラスの中でダントツによくできる子」が「塾に通っていてもそこそこのレベルの子」になるケースは多く見てきた。周囲も塾に通ったり家庭学習の時間を増やすからだ。

 勉強なんて周りと比べるようなものではないけれど、そうはいっても周囲は気になる。
「かつては周りを引き離していたのに追いつかれる」よりも
「かつてはぜんぜんできる子ではなかったけど歳を重ねるごとに相対的順位が上がっていく」ほうが、当人の意欲は湧きやすいだろう。まちがいなく。


 我慢だ、我慢。マラソンでいうとまだスタートしてトラックを出ていないぐらい。ここで大きなリードを得ても意味がない。

 今は「勉強を嫌いにならないこと」が最優先だ。

 だから小二の娘はまだ塾に行かせなくていいよねと自分に言い聞かせてるんだけど、そうはいっても周囲が塾に行かせているのを見ていると不安になる。
 ちくしょう受験産業め。親の不安にうまいことつけこみやがる……。


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