無理
奥田 英朗
衰退しつつある郊外の都市を舞台に、職業も年齢もばらばらの五人の生活を描いた小説。
(ネタバレあり)
妻に不倫をされて離婚した地方公務員は人妻買春サークルにはまり、女子高生は引きこもりの青年に拉致監禁され、悪徳商法のセールスマンは同僚が殺人を犯し、新興宗教の会員である女性は対立する宗教団体の陰謀で職を失い、市議会議員は悪巧みが市民団体に暴露された上に近しい支援者が犯罪に手を染めてしまう。
女子高生と新興宗教会員以外は自業自得とはいえ、はじめは小さなきっかけだったのにどんどん深みにはまり、気が付けば引くに引かれぬ状況に追い込まれる。進むも地獄、退くも地獄。そしてさらに突き進んで状況は悪化してゆく一方。
人間が道を踏み誤るときというのはこういうものなのだろう。いきなり大犯罪に手を染めてしまうのではなく、「いつでも引き返せる」とおもっているうちに気づけば退路を断たれている。傷口を浅くしようとあがくことで、どんどん傷口を広げてしまう。
ギャンブルで身を持ちくずす人だって、いきなり全財産をつっこんですべてを失うわけではない。はじめは小さな負けなのだ。
この前、河合幹雄『日本の殺人』というノンフィクションを読んだが、殺人犯の大多数は犯罪志向性のある人間ではなく、たまたまめぐり合わせが悪かったために近しい人を殺してしまうのだという。
破滅への道は、ぼくやあなたのすぐ横で口を開けて待っているのだ。
同じ著者の『ララピポ』も、転落人生を描いた小説だった。著者はこういうのが好きなのだろうか。
とはいえ『ララピポ』はまだからっと乾いていた。ユーモアもあった。
『無理』のほうはじとっとしている。『ララピポ』が真夏なら、『無理』は冬の曇天という感じ。とにかく気が滅入る。
『無理』の舞台であるゆめの市が、もう救いがない。人も企業もどんどん出ていき、街にあるのは大型ショッピングセンターと観覧車だけ。公務員以外にろくな働き口がない。店はつぶれ、バスの本数は減り、生活保護受給者が増えたため受給資格は厳しくなり、若者は都会に出ていき、残るのは行き場のない人間だけ。
これはフィクションだが、似たようなことが日本中あちこちで起こっている。そしてこれは日本全体の縮図でもある。
後味の悪い小説はけっこう好きなんだけど、『無理』は読んでいてちょっと息苦しかったな。終始閉塞感が漂っていて。
ラストも事態はまったく好転せず、かといって悪事が自分にかえってくるような勧善懲悪パターンでもなく、悪事とは無関係なひどい目に遭って終わりという投げやりな展開。とことん救いようのない小説だった。
個人的には嫌いじゃないけど、小説を読んですかっとしたいという人にはまったくお勧めできません。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿