2021年1月13日水曜日

【読書感想文】働きやすい職場だから困る / 仁藤 夢乃『女子高生の裏社会』

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女子高生の裏社会

「関係性の貧困」に生きる少女たち

仁藤 夢乃

内容(e-honより)
「うちの孫がそんなことをするはずがない」「うちの子には関係ない」「うちの生徒は大丈夫」「うちの地域は安全だ」―そう思っている大人にこそ、読んでほしい。


「居場所のない高校生」や「性的搾取の対象になりやすい女子高生」の自立支援をおこなっている著者による、〝女子高生産業〟のルポルタージュ。
〝女子高生産業〟とはJKお散歩とかJKリフレとか、要は「お金を払って女子高生と過ごす」商売だ。当たり前だがいっしょに散歩したりお話したりするだけで済むとはかぎらない。利用客の多くは「あわよくばそれ以上のこと」を狙っているのだから。

 だが表向きは風俗店ではないので違法行為をしたという証拠がないかぎりは警察も厳しく取り締まることができず、性産業への入口となっていることが多い。


 事務所についたらインターホンを押し、「普通のマンションだから、友達の家に遊びに行くときみたいな感じ」で挨拶をする。店長がドアを開けたら部屋に荷物を置いて、チラシを持って準備完了。マンションの前の通りで客引きをする。ただ、それだけだ。

(中略)

 客が入ったら事務所の下まで連れて行き、料金を受け取る。それを持って彼女だけ部屋に上がり、店長にお金を渡す。「何分行ってきまーす」と伝えて客の元へ戻り、そこからお散歩が始まる。客は彼女を連れてどこにでも行くことができる。
 時間は店が管理し、支払った分の時間になると少女の携帯に「終わりの時間だよ。延長するかお客さんに聞いてみて」と店から電話がかかってくる。延長しない場合はその場で解散し、少女だけ事務所に戻るという流れだ。客と店のスタッフが顔を合わせることはない。
 好きなときに事務所に現れ、チラシを配って客引きをし、お金を持って戻ってくる。客と散歩に行き、また客引きに行く彼女たちに、店がしてやることはほとんどない。少女たちは客からお金を運んでくるいい餌だ。レナは「店の人は女の子が心配だから、ビラ配り中もたまに見回りに来る」というが、それは少女を監視し管理するためである。

 これを読んで、鵜飼いの鵜みたいだな、とおもった。
 高校生が客引きをして、高校生が会計をして、高校生が客とお散歩をする。店側はほとんど何もしてない。チラシを作り、終わりの時間を連絡するだけ。トラブルになったら出ていくんだろうけど、やってることは「ショバ代をとるヤクザ」そのものだ。なんと楽な商売だろう。何もしなくても鵜が勝手に魚をとってきてくれるのだ。

 女子高生からしても楽な仕事だろう。ふつうのアルバイトよりはるかに稼げるのだから。
 だが世の中そんな甘い商売はない。当然ながら危険はある。見ず知らずの男とふたりっきりになるのだから、性的暴行を受ける危険性は高い。客の多くはそういう目的で近寄ってきているのだし「金を払ってるのだから」という意識は人を強引にさせる。


 誰が見たってよくない商売だろう。堂々と「JKお散歩で働いてます」「JKお散歩利用してます」と言える人はまあいない。

 でもなくならない。手を変え品を変え、未成年を対象にした準性産業はなくならない。なぜなら需要があるから。
 男側の需要はもちろん、女子高生側の需要も。

 レナによると、彼女がこの仕事をしている理由は、部活や受験勉強のためシフト制のアルバイトをする時間がなかなか取れないこと、家計が苦しいこと、「そんな中、仕事を一生懸命頑張っている父親に小遣いをもらうのを遠慮してしまうことの3つ。そして、彼女には「うちは他の家と違う事情がある」という意識が強くある。
「同級生も一緒にお散歩を始めたんですけど、その子にはちゃんと親がいるから、帰りが遅いと怒られるし、受験に備えて勉強しなさいと言われてやめました。うちはパパが夜の仕事だから、遅く帰ってきてもわからない。だから、パパより早く帰ってくるのが目標。3時までにはお家に帰るから、ばれてない」
 レナは「うちは父子家庭だから」「あの子のうちには親がいるから」と何度も口にした。彼女を見ていると、心のどこかで父親に気づいて欲しいと思っているのではないかとすら思えた。そして同時に、「家庭を支えたい、迷惑をかけたくない。自分のことは自分でしなければ」という意思を持っていることが伝わってきた。

 高校生が働ける場所はそう多くない。酒を出す店では働けないし夜遅くも働けない。大学生以上しか雇わない店も多い。授業やテストや部活で時間の融通も利かない。

 働けてもたいていは最低時給。小遣い稼ぎならそれでもいいかもしれないが、生活費を稼がなくてはならない高校生にとっては厳しいだろう(そして生活に困っている子どもは年々増えている)。

 そんな高校生にとって、JKビジネスは働きやすい職場だ。短時間でも働ける。働きたいときだけ出勤すればいい。うまくやれば月に何十万円も稼ぐことができる。
「働けない」か「JKビジネスで働く」の二択しかないケースも多いだろう。
(男子だったら「働けない」か「学校をやめる」か「非合法な手段で稼ぐ」の三択になる)

 稼がなくてはならない高校生は年々増えているのに、高校生が稼げる社会になっていない。
「売る女子高生」や「買う男」だけの問題ではないのだ。




 少し前に、杉坂 圭介『飛田で生きる』という本を読んだ。飛田というのは大阪市内に今も残る遊郭。半ば公然と売春がおこなわれている場所だ。

 遊郭というと怖いイメージがあるが、『飛田で生きる』を読むかぎり飛田新地という街は他の風俗街に比べてずっと安全であるようだ。
 そもそも売春という非合法なことをやっているので、必要以上に警察に目をつけられないために「開業時は警察に届ける」「暴力団と関わらない」「営業時間を守る」「無理なスカウトや引き抜きをしない」「料金は事前にきちんと伝える」「従業員に健康診断を受けさせる」といったことを徹底しているらしい。
 もちろんそれでもリスクはあるだろうが、極力トラブルにならないような工夫がされている。

 それに比べると、JKビジネスはすべてが緩い。そもそも「未成年者を働かせる」「ヤクザが関わっているところも多い」「料金は交渉次第」「営業時間も場所も不規則」「届け出はしない」「従業員の身元確認もしないことがある」など、何から何まであぶなっかしい。




「そうはいってもJKビジネスで働くのなんて一部のグレた女子高生だけでしょ」とおもうかもしれないが、そうでもないようだ。
 この本によると、まじめに勉強や部活に取り組んでいたり、生活費に困っていないような高校生も働いているらしい。

 はじめは「不良の子」「お金に困っている子」だけかもしれないが、そういう子がJKビジネスをすることで、そうでない子も足を踏み入れるようになるのだ。
 友人から「私もやってるけどあぶない目に遭ったことなんてないよ」と誘われたら、敷居は下がるだろう(そして店側は女子高生に紹介料を払って友だちを紹介させる)。

 JKリフレやお散歩、売春に流れていく少女たちの多くは「衣食住」を求めている。「寂しいから」「居場所を求めて」ではない。寂しさを埋めるためだけなら、少女はわざわざおじさんを相手にしない。女子高生を相手にする若い男はいくらでもいる。たとえ男性の前でそういう振る舞いをしたとしても、女同士の本音トークではそんな風には語られない。彼女たちは生活するため、お金や仕事が欲しくて男性を相手にしているのだ。
 家庭や学校に頼れず「関係性の貧困」の中にいる彼女たちに、裏社会は「居場所」や「関係性」も提供する。彼らは少女たちを引き止めるため、店を彼女たちの居場所にしていく。もちろん、少女たちは将来にわたって長く続けられる仕事ではないことを知っているが、働くうちに店に居心地の良さを感じ、そこでの関係や役割に精神的に依存する少女も多い。
 一見、「JK産業」が社会的擁護からもれた子どもたちのセーフティーネットになっているように見えるかもしれないが、少女たちは18歳を超えると次々と水商売や風俗などに斡旋され、いつの間にか抜けられなくなっている。


 以前読んだ本に、ドイツでは売春が合法だと読んだ。
 合法だから店はきちんと届けていてルールをきちんと守っているから、利用客にとっても働く女性にとっても安全だ。
 日本も風俗やJKビジネス(男子も)を公営化したらいいんじゃないかな。

 衛生管理や健康管理をきちんとして、年齢制限をして、料金をきちんと定めて、税金もとって(もちろん未成年者はお散歩はさせても売春はさせない)。

「国がJKビジネスをやるなんて!」とおもうかもしれないが、結果的にはそっちのほうが高校生の安全を守れるとおもうんだよね。
 外貨も獲得できるし。


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