現代「死語」ノート
現代「死語」ノートⅡ
小林 信彦
戦後の流行語の中から、使われなくなった「死語」を拾い集めて著者(昭和7年生まれ)の解説をつけたエッセイ。
死語というのはおもしろい。生き残っている言葉よりも確実にその時代を映している。
たとえば1961年(昭和36年)の流行語。
すごい。著者は「それじたいはどうということもないが」と書いている部分も相当まずい(このへんの感覚が昭和7年生まれか)。
今こんな発言したら退職に追いこまれるかもしれない。
しかし今では「文学部は女子学生だらけ」なんてあたりまえすぎて誰も言わない。それだけ女性が高等教育を受けることがあたりまえになったということだ。
1986年(昭和61年)の流行語。
えっ。
「定番」ってそんなに最近の言葉だったの。驚いた。
もっとも言葉としてはもっと古くからあったのかもしれないが、流行語として選ばれるぐらいだから1986年以前はあまり使われなかったのだろう。
1986年まで「定番」が一般に使われていなかったのは、それまでは「定番」がなかったからではなく、逆に「定番」があたりまえだったからだろう。
服は長く着るのがあたりまえ。流行を追って毎年のように買い替えるなんて考えられない。すべてが定番。だからあえて「定番」を使う必要がなかった。
ところがバブル期(1986年といえばちょうどバブルがはじまった頃だ)から、ファッションは消耗品になった。だから「流行り物」ではないという意味の「定番」という言葉が生まれた。携帯電話が生まれたことで「固定電話」という言葉が生まれたように。
こういうところにもバブルの片鱗が見てとれる。
言葉には時代の空気が濃厚に反映されている。
昭和三十年代は流行語も景気がいい。明るく楽しい言葉が多い。
だが高度経済成長期ぐらいから暗い言葉が増えはじめる。公害、過労死など高度経済成長のひずみが目に付くようになったのだろう。冷戦の影響も大きいはず。
1995年(平成7年)の流行語(死語)。
bashing(非難)ではなくpassingね。「無視」みたいなニュアンスだろうね。
バブル期に日本は叩かれていたが、今おもうと叩かれていたうちがハナ。すっかり歯牙にもかけられない国になってしまった。
流行語・死語の移りかわりを見ていると、流行の担い手がだんだん若くなっているように感じる。戦後の流行語は大人の言葉が多い。政治経済用語だったり、小説や映画のフレーズだったり。
次第に子ども向けテレビ番組や中高生発信の流行語が増えてくる。大人たちが文化の先導者でなくなってゆく。
くだらない流行語が増えてゆくのだが、あながち悪いこととも言いきれない。社会が抱える深刻な問題が小さくなったからこそ、テレビやアニメの言葉の重みが相対的に増したのだろう。
歴代流行語大賞(ユーキャン)を見ていると、ここ最近の流行語なんてテレビ・スポーツの言葉ばかり。ほんとにバカみたいだけど、2020年はほとんどコロナ関連だったことをおもうと(2021年もたぶんそうだろう)今となっては懐かしい。またバカな言葉が流行語になる時代になってほしい。
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