37日間漂流船長
あきらめたから、生きられた
石川 拓治
長崎県を出港した後、船のエンジントラブルにより漂流。
食べ物も水も尽きたが、海水を蒸留させて水滴をなめて命をつなぎ、出港から37日目に千葉県沖の太平洋のどまんなかで救助された……。
と、なんともドラマチックな実話を文章化したもの。
壮絶な体験のはずが、あまり緊張感がない。
文章のせいもあるだろうが、漂流した武智さんの語り口のせいもあるだろう。
なんだかずっとユーモラスだ。
武智さんが漂流しはじめたとき、まだ携帯電話の通じる場所にいた。
だが彼はエンジンメーカーに電話をしただけで、知り合いや海上保安庁などに助けを求める電話はしていない。
どう考えたって判断ミスなのだが、でもこの気持ちはよくわかる。
ぼくが同じ立場でも、やっぱり通報をためらってしまうかもしれない。
「大事にしたくない」という気持ちがはたらいちゃうんだよね。
だが、仕事でもそうだけど、たいていの問題は自分ひとりで抱えてなんとかしようとするとかえって大事になる。
ぜったいに早めに相談したほうがいい。
「なんでもっと早く言わなかったんだ!」と言われることはあっても「こんなつまらないことで相談するな!」と怒られることはあまりない(そういう上司も存在するんだろうが、その手の人はどっちみち怒るのでやっぱり早めに相談しといたほうがいい)。
ぼくは今までに三度緊急通報をしたことがある。
一度は成人式で友人が酔っぱらったヤンキーにからまれて殴られていたとき、二度めはひとり暮らしで夜中に高熱を出したとき、三度めは猛烈にキンタマがいたくなったとき(→ 睾丸が痛すぎて救急車に乗った話)。
結果的に三度とも大したことはなかった。
友人は一発殴られただけでヤンキーは立ち去ったし、熱はすぐに引いたし、キンタマもたいした病気ではなかった。
ただ、警察官にも救急隊員にも医師にも「こんなことで緊急通報をしないように」とは言われなかった。
まあ通報があれば駆けつけるのが彼らの仕事だし、「暴行」「高熱」「急所の痛み」は一歩間違えれば命にかかわってもおかしくないことだからだ。
やばいことになる予兆があれば、早めに助けを求めたほうがいい。
取り越し苦労でも怒られたりしないから。
ふつうに考えれば、小さな漁船で37日間も太平洋を漂流していたらまず生きられない。
武智さんが生き延びられたのは、運が良かったのもあるし(食べ物や飲み物を多く積んでいた。台風でも転覆しなかった)、幼いころから漁師をやっていた経験や技術のおかげでもある(魚を釣ったり釣った魚を干して保存したりしている)。
だが、彼が生き延びたいちばんの決め手は強い精神力にあったんじゃないだろうか。
ふつうなら、仮に飲み物や食べ物があったとしても太平洋の真ん中をひとりで漂っていたら発狂してしまうんじゃないか。
見渡す限りの海。周囲には何も見えない。たまに飛行機や大型船舶の姿が見えても、向こうはこちらに気がつかない。船にあるのは有限の食糧と水。確実にある死に向かって近づくだけの日々。
この状態で一ヶ月。平静を保てる自信がない。
ぼくだったら早めに食糧を食べつくして海に身を投げてしまうかもしれない。
この状況を少し楽しむ余裕がある武智さんはすごい。
ただ石けんやシャンプーの匂いを楽しむって、もうちょっとおかしくなっているような気もするが……。
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