【読書感想文】茂木 誠 『世界史で学べ! 地政学』

内容
なぜ日米は太平洋上でぶつかったのか。日中関係と北方領土問題の根本原因は―新聞では分からない世界の歴史と国際情勢が、地政学の視点ならスッキリと見えてくる!世界を9つの地域に分けてわかりやすく解説。ベストセラー「経済は世界史から学べ!」の著者が贈るビジネスパーソン必読の書。

ジョージ・フリードマン『100年予測』やマクニール『世界史』がおもしろかったので、地政学の本をどんどん読みたくなって購入。

なんか予備校講師が書いた本みたいな表紙。
表紙が安っぽいので5点減点......。というどうでもいい採点はさておき、内容は明快。
地政学の入門書としてはちょうどいい。

複雑な世界の緒地域の歴史・政治を、地理的要因を軸にして、快刀乱麻を裁つように説明。ニュースがわかりやすくなるね。
 1990年代以降の中国は、史上はじめて北方の脅威から解放され、海洋進出の余力が生まれたのです。米国も金融危機の後遺症で国力が衰退し、東アジアから米軍を撤収せよ、という声も出はじめています。背後のロシアがおとなしくなり、日本の保護者だった米国も引いていく。ならば、東アジアの海はわが中国のものだ、と。対日政策を「友好」から「恫喝」に大転換した根本原因は、ここにあります。
なるほど。ソ連解体が中国の海洋進出につながってるのか。

他にも、ロシアがウクライナに触手を伸ばしていることをニュースでやってるけど、「ロシアが外国から批判を受けるのを承知でなぜそんなとこに手を伸ばすのか」ってことはニュースを見ているだけではなかなかわからないよね。

でも地政学の観点から見ると、穀倉地帯で鉄鉱石の産地、さらに黒海への出口であるウクライナがロシアにとって絶対に手放したくない場所であることがわかる。

ロシアの行動原理って、100年前からずっと変わってないんだよね。
「冬でも船が出港できる不凍港を手に入れる」ことの重要性は現代でも変わらない。
ほとんどの人は船に乗る機会がほとんどないけど、今でも国際的な流通の要は海路。
島国日本に住んでると海があるのがあたりまえな気がするけど、海って大事なんだね。
日本がモンゴル帝国に侵略されなかったのは島国だったからだし、大航海時代にヨーロッパ諸国の植民地にならなかったのは鎖国をして海からの交易を拒んでいたおかげだし(そうじゃなかったら中国のように切り刻まれていたかも)、明治維新が成功したのも海にうって出やすかったから。
日露戦争、日中戦争での勝利も海に出やすかったのが要因だし、太平洋戦争で敗れた要因のひとつは海路を絶たれたから。
戦後の復興も、海に面していて貿易がしやすかったことと、地続きの隣国がいないおかげで防衛に多くの国費を割かなくてすんだから、ってのが成功の一因だ。

日本史上に起こった出来事の多くは「島国だったから」で説明できてしまう。




歴史や政治を理解するための手助けになってくれる本だけど、ちょっと鼻につくのは頻繁に著者の政治思想が顔を出すところ。
けっこう右寄りの思想が頻出するので「まあまあ。あなたが中韓を嫌いなのはわかったからもうちょっとニュートラルに地政学の説明してよ。そういうのはべつの本でやってよ」と言いたくなる。

でも「世界みんな仲良く」という理想論ではなく、現実的な損得で物事をみる姿勢は嫌いじゃないけどね。

ロシアのクリミア併合について説明した章。
 プーチンを暴走させたのは、アメリカのオバマ政権の優柔不断でした。
 (中略)シリアやイラクの内戦にも不干渉で、シリア政府軍による毒ガス使用にも、テロ集団IS(イスラム国)の勢力拡大にも手をこまねいていました。
 プーチンはこれを「青信号」と見たのです。「オバマは邪魔しない。やるならいまだ」と。
 実際、オバマがやったのは黒海への軍艦一隻の派遣と、ほとんど効果がないロシア政府要人(しかもプーチン本人を除く)の資産凍結だけでした。
 オバマ大統領が平和主義者だということは間違いありません。しかし、無責任な平和主義が国際紛争を抑止するどころか増長させることも、国際社会の現実なのです。

なるほど。
オバマ大統領は平和的でいい大統領だと思ってたけど、アメリカぐらいの大国になると、自国にとっての平和が他国にとっての戦争や紛争につながることもあるんだね。

こういう話を読むと、「いついかなるときも戦争はだめだ!」という主張は、やっぱり幼稚なものに感じてしまう。
もちろん、そういうことまで把握した上で、「他の国の国民がどんなに理不尽でひどい目に遭わされていたとしても自分たちだけは平和に暮らしていたいから戦争をしない!」という主張だったら、それはそれでありだと思うけど。


世界各国の歴史を改めて読むと、「みんな自分のことは棚に上げるんだなあ」という感想がわいてくる。
 メキシコ政府の許可を得てテキサスの荒れ地に入植したアメリカ人たちは、人口でメキシコ人を圧倒すると、「テキサス共和国」の独立を宣言します。メキシコ軍を撃退したテキサス共和国はアメリカ合衆国に加盟を申請し、28番目の州となりました。これを不服とするメキシコとの戦争に圧勝したアメリカは、カリフォルニアまでの広大な領土を割譲させ、太平洋岸に達したのです。
 2014年にロシア系住民が多いクリミアが、ウクライナからの独立と、ロシアへの編入を住民投票で決議したのを受け、ロシアはクリミアを併合しました。アメリカのオバマ政権はこれを激しく非難しましたが、「クリミアをウクライナに返せ」という前に、テキサスをメキシコに返還しない理由を説明すべきでしょう。

他にも、日本が満州事変を起こしたときに調査にきた「リットン調査団」。
あのリットンさんがどういう人物だったのかというと、イギリスがインドを半ば詐欺のような形で植民地支配していたときの官僚だったそうだ。
リットン卿はインドのベンガル総督を務めた植民地官僚で、バルフォア外相の義弟に当たります。イギリス植民地統治の実務者を満州事変の調査に派遣したわけです。泥棒が別の事件の犯罪調査をしたようなものです。満州の調査の前に、イラクを調査しろ、と日本は主張すべきでした。

これらのエピソードを読むと、英米って、自国のことを棚に上げるのがうまいんだなって思うね。棚に上げるのがうまいからこそ世界の覇権国家になれたのかもしれない。
どの国だって誇らしくない歴史はあるけど、そこにはふれずに自分には汚点なんてひとつもないみたいな顔をいて、ぬけぬけと他国を非難できる。そういう才能を持った国だから、世界的にでかい顔ができるんでしょうね。

政治でも会社でも、出世する人ってそういうタイプだもんね!



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