2021年5月13日木曜日

【読書感想文】資源は成長の妨げになる / トム・バージェス『喰い尽くされるアフリカ』

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喰い尽くされるアフリカ

欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日

トム・バージェス(著) 山田 美明(訳)

内容(e-honより)
石油やダイヤモンドのほか、多くの資源に恵まれているアフリカ大陸。だが、そこに暮らす人々の多くは厳しい貧困と内戦に苦しんできた。膨大な資源が生み出した巨額の金はいったいどこに消えたのか?長くアフリカに住み丹念に取材を重ねたフィナンシャル・タイムズ紙の記者が直面したのは、欧米が作り上げ、中国がブラッシュアップした巧妙な略奪のシステムだった。グローバル経済の実態を暴く!


 タイトルが『喰いつくされる』でサブタイトルが『中国が乗っとる』なので「中国ひどい!」みたいな内容かとおもいきや、そうでもない。
 たしかに一部の中国企業もアフリカで暗躍しているが、悪いのは中国企業だけでない。欧米の企業も悪いし、アフリカの為政者も悪い。
 ちょっとこのタイトルは中国を悪者にしすぎだなあ。


 本の内容は、ほとんどタイトルが表しているとおりだ。
 アフリカには、天然資源の豊かな国が多い。石油、ダイヤモンド、天然ガスなどが産出される。だが資源が見つかったことでその国が豊かになるかというとそんなことはない。むしろ逆で、政治の独裁が進んだり、他の産業が衰えたり、悪い面のほうが多い。

 サリムの調査チームは、天然資源の輸出に依存している国について、世界銀行のデータを詳細に検討した。その結果、一九六〇年から二〇〇〇年にかけて、天然資源が豊富な貧しい国よりも、そうでない貧しい国のほうが、成長が二~三倍速いことがわかった。この期間に経済成長を維持できなかった四五か国のうち、実に三九か国が石油や鉱物資源に大きく依存していた。また、一九九〇年代、世界銀行から融資を受けていた国は例外なく、石油産業・鉱業に依存している割合が高い国ほど、経済が悪化していた。

 意外なことに、天然資源は経済発展をもたらすどころか、成長の妨げになることのほうが多いのだ。
 もともと民主主義制度があって経済的に十分強い国が資源を手に入れた場合は有効活用できるが、そうでない国の場合は経済バランスなどを崩す原因になってしまう。

 資源によってかえって産業が衰えるこの現象は、オランダでガス田が見つかってから他の産業が衰えたことに由来して、「オランダ病」と呼ばれる。

 この病気は、貨幣を通じて国に入ってくる。輸出された炭化水素資源、鉱物資源、鉱石、宝石にドルが支払われると、自国通貨の価値が上がる。すると、国内製品に比べて輸入品のほうが安くなり、自国の企業が弱くなる。こうして輸入品が国内製品に置き換わると、地元の農民は耕作地を放棄する。それでも工業化が始まれば、このプロセスは後退していくが、このような状況になってしまうと工業化はなかなか進まない。天然資源を加工すれば、その価値を四〇〇倍にできるかもしれない。だが工業力のないアフリカの資源国家では、原油や鉱石がそのままの形で流出していき、どこかほかの場所でその価値を高める加工が行われる。
 こうして経済的な依存症の悪循環が始まる。ほかの産業が衰えると、天然資源への依存率が高まる。天然資源ビジネスにしかチャンスはなくなるが、わずかな人々しかそのチャンスはつかめない。鉱山や油田の開発には莫大な資金が必要になる反面、農業や製造業に比べ、労働力は少なくてすむからだ。配電網や道路、学校といったインフラを整備すればチャンスは広がるが、石油や鉱物資源によってほかの産業が衰退していくため、インフラ整備もおろそかになってしまう。

 ナウル共和国という国を知っているだろうか。オーストラリアの北東、太平洋に浮かぶ小さな国だ。
 ほんとに小さい。面積は21平方キロメートル。日本の面積を小学校数で割ると17平方キロメートルぐらいらしいから、ナウルはだいたい平均的な小学校の校区ぐらいの広さだ。狭い。

 このナウル、1899年にリン鉱石が発見されたことで大きく運命が変わる。海鳥の糞が堆積してリン鉱石になっていたのだ。このリン鉱石が高く売れたことでナウル政府は豊かになり、税金ゼロ、教育や医療も無償、国民みんな働かなくても食べていけるようになった。
 ところが次第にリン鉱石が枯渇してゆき、国民は働かないし他に産業もないものだから経済は破綻状態になった(最近新たに採掘できるようになりリン鉱石の輸出が持ち直してきているらしい。それもいつかは尽きるが)。

「売家と唐様で書く三代目」という有名な川柳がある。
 財産を残しても、孫の代になると初代の苦労を知らないから道楽をして財産を食いつぶしてしまう、という意味だ。
 労せずして得た財産は身につかない。オランダ病も似たようなものだろう。後に残るのは道楽癖だけだ。




 また、資源が壊すのは経済だけではない。民主主義も壊す。
 資源の採掘には莫大な初期投資が必要になる。すると外国企業が入ってくる。採掘権を得るためにリベートを渡す。政府に近い一部の人間だけが儲かる。その他国民の反感が大きくなる。軍事力によって押さえこむ。為政者は権益を手放したくないので民主的な選挙を否定・妨害工作する。かくして内紛が絶えなくなる……。

 アフリカの資源国家の支配者は、国民の同意を得なくても国を統治できる。それが資源の呪いの核心にある。資源ビジネスがあるかぎり、支配する者と支配される者との社会契約は成立しない。社会契約とは、ルソーやロックといった政治哲学者が提唱した理論である。政府は、国民の同意を得て、国民の自由をある程度奪う代わりに、国民共通の利益を守る。そうすることで政府は、国民から正統性を認められる。これが社会契約である。だが資源国家の国民は、支配者の責任を問うこともできず、略奪の分け前を手に入れようとするだけの存在に成り下がってしまう。このような状態は、サウジアラビアの王族やカスピ海沿岸諸国の絶対的指導者など、専制君主にとって理想的な財政システムを生み出す。生涯にわたりアフリカの貧困の原因を研究しているオックスフォード大学の教授ポール・コリアーは、収集したデータを見ると、さらにいっそう悪質な影響があることがわかるという。「資源の呪いでいちばん怖ろしいのは、民主主義がうまく機能しなくなることだ」

 資源がない国では、政府の財源は基本的に国民の労働・納税だ。
 国民が政府に反旗を翻し、労働や納税をボイコットしてしまえば政府もまた倒れる。だから政府は国民の声を完全に無視することはできない(いくらかは無視するけど)。

 だが資源国家はそうではない。国民の労働や納税がなくても外国企業から入ってくる金があれば豊かな暮らしができる。
 たとえば産油国であるアラブ首長国連邦には普通選挙がない。石油収入で成り立っているから国民の声を拾いあげる必要がないのだ。




 日本は天然資源が少ないと言われている。石油もガスも鉄鉱石もほぼ100%輸入している。最近でこそ日本近海にメタンハイドレートが埋もれていることがわかったなどと言われているが、まだまだ採取や実用化には至っていないようだ。

 アラブ首長国連邦は教育費も医療費もほぼ無料で税金もないと聞いて「資源が豊富な国はええなあ」と感じていたが、『喰い尽くされるアフリカ』を読むと、日本にたいした資源がなくてよかったんだろうなと感じる。

 もしも資源が豊富な国だったら、幕末あたりか、太平洋戦争後にきっと外国に占領されていただろう(まあ資源が豊富だったら太平洋戦争を起こさなかった可能性もあるが)。
 太平洋戦争後にアメリカかソ連に占領されていたんじゃないだろうか。(村上龍 『五分後の世界』がまさにそういう世界を書いた小説だ)。
 もしくは、今頃中国に攻めこまれているかもしれない。
 大した資源がない(あっても豊かな水や温暖な気候など輸出しにくいもの)おかげで、今も独立国の地位を保っているのかもしれない。




 中国の対アフリカ貿易額は、2002年には約130億ドルだったが、10年後には1800億ドルになり、アメリカの対アフリカ貿易額の3倍になったそうだ。

 中国が経済成長したからというのもあるが、他にも理由はある。

 先述したように、資源によって急激に潤うと政権は独裁状態になりやすい。内戦により、政府軍が民間人を虐殺するようなケースもある。アンゴラのように。
 すると欧米諸国は政府軍の行動を非難し、経済制裁のため貿易を停止する。すると政府は困ってしまう。資源が輸出できないし、外国のものが入ってこなくなるのだから。

 そこに中国企業が入りこむ。うちは気にしませんよ。取引しますよ。
 困っている政府は飛びつく。中国は資源が手に入る。win-winだ。殺される国民以外は。

徐京華は、国際社会からのけ者にされ、誰もビジネスをしたがらない政府を見つけ、その政府に天然資源を現金に変える既存のテクニックを提供するのだ。軍事クーデターにより設立された政府は「資金に飢えている」とティアムは言う。「彼らはそんなときに近づいてきてこう言う。『ほかの誰も資金を出してくれないのなら、私たちが出そう』国家の利益や自分自身の権威が危機に瀕していれば、その資金を受け取るに決まっている」

 しかしことさらに中国を非難する気にもなれない。
 欧米がやってたことを中国がやってるだけだから。日本だってアジア諸国でやろうとしてたことだし。




「資源があることがかえって経済成長の妨げになる」という話はすこぶるおもしろかったのだが、後半は疲れてしまった。

 アフリカの様々な国のケースが紹介されるのだが、国はちがえどやってることはほとんど同じだし、固有名詞がどんどん出てくるので関係を追っていくだけで疲れてしまう。
 新聞記者だけあって、新聞記事みたいな文章なんだよね。とにかく関係者の名前とかを丁寧に書いている。調べたことは全部書いている。司馬遼太郎の文章みたい。
 こっちは捜査官じゃないからすべての情報を知りたいわけじゃないんだよ。

 というわけで後半は飛ばし読み。
 一応最後まで目を通したけど、前半だけで十分だったな……。


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