喰い尽くされるアフリカ
欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日
トム・バージェス(著) 山田 美明(訳)
タイトルが『喰いつくされる』でサブタイトルが『中国が乗っとる』なので「中国ひどい!」みたいな内容かとおもいきや、そうでもない。
たしかに一部の中国企業もアフリカで暗躍しているが、悪いのは中国企業だけでない。欧米の企業も悪いし、アフリカの為政者も悪い。
ちょっとこのタイトルは中国を悪者にしすぎだなあ。
本の内容は、ほとんどタイトルが表しているとおりだ。
アフリカには、天然資源の豊かな国が多い。石油、ダイヤモンド、天然ガスなどが産出される。だが資源が見つかったことでその国が豊かになるかというとそんなことはない。むしろ逆で、政治の独裁が進んだり、他の産業が衰えたり、悪い面のほうが多い。
意外なことに、天然資源は経済発展をもたらすどころか、成長の妨げになることのほうが多いのだ。
もともと民主主義制度があって経済的に十分強い国が資源を手に入れた場合は有効活用できるが、そうでない国の場合は経済バランスなどを崩す原因になってしまう。
資源によってかえって産業が衰えるこの現象は、オランダでガス田が見つかってから他の産業が衰えたことに由来して、「オランダ病」と呼ばれる。
ナウル共和国という国を知っているだろうか。オーストラリアの北東、太平洋に浮かぶ小さな国だ。
ほんとに小さい。面積は21平方キロメートル。日本の面積を小学校数で割ると17平方キロメートルぐらいらしいから、ナウルはだいたい平均的な小学校の校区ぐらいの広さだ。狭い。
このナウル、1899年にリン鉱石が発見されたことで大きく運命が変わる。海鳥の糞が堆積してリン鉱石になっていたのだ。このリン鉱石が高く売れたことでナウル政府は豊かになり、税金ゼロ、教育や医療も無償、国民みんな働かなくても食べていけるようになった。
ところが次第にリン鉱石が枯渇してゆき、国民は働かないし他に産業もないものだから経済は破綻状態になった(最近新たに採掘できるようになりリン鉱石の輸出が持ち直してきているらしい。それもいつかは尽きるが)。
「売家と唐様で書く三代目」という有名な川柳がある。
財産を残しても、孫の代になると初代の苦労を知らないから道楽をして財産を食いつぶしてしまう、という意味だ。
労せずして得た財産は身につかない。オランダ病も似たようなものだろう。後に残るのは道楽癖だけだ。
また、資源が壊すのは経済だけではない。民主主義も壊す。
資源の採掘には莫大な初期投資が必要になる。すると外国企業が入ってくる。採掘権を得るためにリベートを渡す。政府に近い一部の人間だけが儲かる。その他国民の反感が大きくなる。軍事力によって押さえこむ。為政者は権益を手放したくないので民主的な選挙を否定・妨害工作する。かくして内紛が絶えなくなる……。
資源がない国では、政府の財源は基本的に国民の労働・納税だ。
国民が政府に反旗を翻し、労働や納税をボイコットしてしまえば政府もまた倒れる。だから政府は国民の声を完全に無視することはできない(いくらかは無視するけど)。
だが資源国家はそうではない。国民の労働や納税がなくても外国企業から入ってくる金があれば豊かな暮らしができる。
たとえば産油国であるアラブ首長国連邦には普通選挙がない。石油収入で成り立っているから国民の声を拾いあげる必要がないのだ。
日本は天然資源が少ないと言われている。石油もガスも鉄鉱石もほぼ100%輸入している。最近でこそ日本近海にメタンハイドレートが埋もれていることがわかったなどと言われているが、まだまだ採取や実用化には至っていないようだ。
アラブ首長国連邦は教育費も医療費もほぼ無料で税金もないと聞いて「資源が豊富な国はええなあ」と感じていたが、『喰い尽くされるアフリカ』を読むと、日本にたいした資源がなくてよかったんだろうなと感じる。
もしも資源が豊富な国だったら、幕末あたりか、太平洋戦争後にきっと外国に占領されていただろう(まあ資源が豊富だったら太平洋戦争を起こさなかった可能性もあるが)。
太平洋戦争後にアメリカかソ連に占領されていたんじゃないだろうか。(村上龍 『五分後の世界』がまさにそういう世界を書いた小説だ)。
もしくは、今頃中国に攻めこまれているかもしれない。
大した資源がない(あっても豊かな水や温暖な気候など輸出しにくいもの)おかげで、今も独立国の地位を保っているのかもしれない。
中国の対アフリカ貿易額は、2002年には約130億ドルだったが、10年後には1800億ドルになり、アメリカの対アフリカ貿易額の3倍になったそうだ。
中国が経済成長したからというのもあるが、他にも理由はある。
先述したように、資源によって急激に潤うと政権は独裁状態になりやすい。内戦により、政府軍が民間人を虐殺するようなケースもある。アンゴラのように。
すると欧米諸国は政府軍の行動を非難し、経済制裁のため貿易を停止する。すると政府は困ってしまう。資源が輸出できないし、外国のものが入ってこなくなるのだから。
そこに中国企業が入りこむ。うちは気にしませんよ。取引しますよ。
困っている政府は飛びつく。中国は資源が手に入る。win-winだ。殺される国民以外は。
しかしことさらに中国を非難する気にもなれない。
欧米がやってたことを中国がやってるだけだから。日本だってアジア諸国でやろうとしてたことだし。
「資源があることがかえって経済成長の妨げになる」という話はすこぶるおもしろかったのだが、後半は疲れてしまった。
アフリカの様々な国のケースが紹介されるのだが、国はちがえどやってることはほとんど同じだし、固有名詞がどんどん出てくるので関係を追っていくだけで疲れてしまう。
新聞記者だけあって、新聞記事みたいな文章なんだよね。とにかく関係者の名前とかを丁寧に書いている。調べたことは全部書いている。司馬遼太郎の文章みたい。
こっちは捜査官じゃないからすべての情報を知りたいわけじゃないんだよ。
というわけで後半は飛ばし読み。
一応最後まで目を通したけど、前半だけで十分だったな……。
その他の読書感想文はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿