小学校で英語学習がはじまったり、早いうちから英語を学ばせようという幼児教育が盛んだ。
といっても今にはじまったことではなく、ぼくが小学生のときにも英会話教室に通っている同級生はけっこういた。
で、そういう子らがその後英語ができるようになったかというと、(ぼくが知るかぎりでは)ぜんぜんそんなことはない。まあ本人の意欲なんかもあるんだろうけど。
そんなわけでぼくは早期英語教育については懐疑的に見ている。
『英語学習は早いほどいいのか』では、慎重にデータを集めて「ほんとに早期英語教育は有効なのか?」を検証している。
しかし本当に慎重なのである。慎重すぎてうんざりするほど。
「○○という研究結果もある一方で、××という報告も上がっている。というわけでどちらということもできない」という説明ばっかり。
筆者は学問的に誠実な人なんだろうけど、それにしてももうちょっと明快にできなかったのか。
「で、どっちやねん!」と言いたくなる。
新書なんだからもうちょっと簡潔に書いてよ……。
乱暴に結論をまとめてしまうと、
「外国語学習においては幼少期から学習をはじめたほうがよさそう。ただしそれは移民のように日常的に膨大な外国語と接する環境においての話であって、日本人が日本で英語を学習する程度であれば、『いつ始めるか』ではなく『どれだけ長い期間学習するか』が重要である。早すぎる時期に外国語学習をはじめることは、外国語に対する苦手意識が増したり、母語の習得が遅れるというデメリットも引き起こす」
ということみたいです。
移民や植民下にある地域の子どもにとっては、外国語の習得の成否が命にも関わる重要な課題である。なんとしても身につけなければ生きてゆけない。たとえ母語を捨ててでも。
という事情を考えると、「日本人は英語がへた」なんて批判されるけど、それは日本語だけで生きていけるほど軍事的にも経済的にも安定した世の中だってことだよなあ。
英語がへたでいられるって、幸せなことなんですよ。
じゃあどうすれば外国語が身につくのかというと、
「どれだけさしせまった課題として習得しようとしているか」と
「どれだけ多くの時間を外国語学習に費やすか」
ということに尽きる。
なーんだ、と思うような結論だ。
そう、結局のところ、劇的に英語が話せるようになる近道は存在しないのだ。
ジョン万次郎のように単身で外国に放りだされれば否が応でも身につくだろうし、1日5時間真剣に学習すればたいていのことは話せるようになるだろう。
つまり、高いリスクを引き受けるか、大きなコストを支払うかしかないわけだ。
でもそんなのはやりたくない。
わが子を天才児にしたい母親や、あっと驚く施策でもてはやされたい文科省や教育委員会のみなさんや、てっとりばやくお金を稼ぎたい教育ビジネス界の方々が求めているものとは違う。
みんな勉強が嫌いなんだろうね。「楽して大きな成果をあげる」ことしか考えていない。
だから、たしかな研究結果も出ていない「早期英語学習によってバイリンガルに!」という神話に飛びついてしまう。
こうした傾向は日本だけではないみたい。
ぼくはただ、自分の子どもが学校に入るころには、根拠薄弱な「子どものうちにこそ英語教育を!」ブームが去っていることを願うばかり……。
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