プラチナデータ
東野 圭吾
ミステリとおもって読みはじめたが、近未来SF+サスペンス+サイコ小説って感じだった。
多重人格の主人公、素性不明の謎の少女、DNA捜査システム、新技術をめぐる日米の攻防、裏に隠れた大物の陰謀……と東野圭吾氏にしてはずいぶんケレン味の強い設定。
ただ、どぎつい設定のわりにストーリー展開は平凡。ある研究者が冤罪で追われ、警察から逃亡しながら真犯人を追う……。と、今までに何度も読んだことのあるような展開。真犯人も「まあ順当だよね」という人選だし、謎となっている“プラチナデータ”も想像を超えてくるものではなし。
まあそれだけなら「そこそこのサスペンス」だったんだけど、ラストでがっかりして大きく点数を下げた。
「主人公を追い詰めた犯人が自分からべらべらと種明かし」があったからだ。
これやられたらほんと興醒めなんだよなー。
「おまえはどうせ死ぬのだから冥土の土産に教えてやろう」ってやつね。
聞かれてもないのに自分に不利になることを長々と語るやつね。
計算高くて慎重なはずの犯人なのに、その瞬間だけは相手に逃げられるとか録音されてるとか一切考えないやつね。
『プラチナデータ』の犯人は、典型的なこのタイプだった。
まあしゃべるしゃべる。
全部教えてくれる。なんて親切なんだ。
おまけに、抵抗した主人公と格闘している間もべらべらしゃべる。
これ、信じられないかもしれないけど、犯人と主人公が銃を奪いあって格闘しているときに、犯人が主人公の首を絞めながらいうセリフだからね。
生きるか死ぬかの格闘をしながらいうセリフかね、これが。
つまりこれは作中で交わされている会話じゃなくて読者に対する説明なんだよね。
無理のあるストーリーをごまかすために、言い訳がましいセリフを登場人物に吐かせてるわけです。
「素手での格闘になったら警察官が勝つだろ」「絞め殺したらすぐばれるだろ」というツッコミを封じるために説明させているわけです(ちなみに「この扼殺痕を神楽君の仕業に見せかける」方法は一切説明されない。思い浮かばなかったんでしょう)。
コントを演じている役者がいきなり客席のほうを向いて「えー今のは何がおもしろかったのかといいますと……」と説明しだしたようなものなのです。
だせえ。
東野圭吾作品って初期作品はともかく最近はどれも一定の水準をキープしてるとおもってたんだけど、これはめずらしくその水準に達してなかったなー。
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