2019年10月18日金曜日

【読書感想文】税金は不公平であるべき / 斎藤 貴男『ちゃんとわかる消費税』

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ちゃんとわかる消費税

斎藤 貴男

内容(e-honより)
政治家の嘘、黙り込みを決めたマスコミ、増税を活用する大企業によって隠された消費税の恐るべき真実。導入から現在まで、その経緯と税の仕組みを一からわかりやすく解きほぐし、日本社会を「弱者切り捨て」へと向かわせ、新たに「監視社会」に導く可能性をも秘めた消費税の危険性を暴き出す。文庫化にあたり、武田砂鉄氏との対談を収録。消費税論の決定版。

大筋では著者の書いていることに納得。消費税よくない。
ただなあ。どうも議論が荒っぽいんだよねえ。

法律とか統計とかよく調べているんだけどね。そこは感心するんだけど、肝心の論理がちょこちょこ飛躍している。

Aが増えている。同時期にBも増えている。だからBが増えたのはAのせいでしょう!
……みたいな展開が多い。
いや疑似相関とか因果関係が逆とかいろいろ可能性はあるじゃない。

あと感情的な議論はやめようと書いているくせに、おもいっきり感情に訴えかけてきたり。
「源泉徴収制度はナチス時代のドイツのやりかたを参考に作られたのです。それを今でも使っているんです!」とか書いてある。

いやええやん。ナチス政権の考えたやり方だとしても、いい制度なら真似したらええやん。
問題視するのはそこじゃないでしょ。

まあまあ。
しかしこうやって改めて税金のことを説明してくれる人って貴重だね。
みんなよくわかってないもんね。もちろんぼくも。

税金を徴収する側(=税務署)としては、国民が税金のことをよく理解してない状態がいいからね。
そっちのほうががっぽりとれるわけだから。
だからこそ、国民は自分自身でちゃんと勉強しなくちゃいけない。



題は『ちゃんとわかる消費税』だが、消費税以外の話のほうがおもしろかったな。
規制緩和の話とか。
航空機のキャビン・アテンダント(CA)が真っ先に契約社員に切り換えられていきました。もちろん当事者は怒ったけれど、世間は「企業にとってよいことなら労働者にとってもよいはずだ」というように受け止めたのです。
 これは労働組合のナショナルセンターである連合の人に聞いた話ですが、最初がキャビン・アテンダントだったことには大きな意味がありました。他にも、早くから派遣に切り換えられていったのは、女性の、当時で言うOLたちでした。男性の仕事はすぐには派遣にならなかった。今は性別に関係なくどんどん派遣や請負に切り換えられてしまっていますが、あの頃の連合は、女性について「主たる家計の担い手ではない」という古い認識から離れられずにいたのです。連合の組合員の圧倒的多数は大企業の男性正社員でしたから、「女性の労働者がいくら非正規になったところで関係ないし、社会全体にとってもたいした影響はないだろう」と放置してしまっていた。ところが、次第に製造業に派遣が広がって、主たる家計の担い手であった男性も同じような目に遭っていきます。新自由主義の搾取のスタイルに当事者として被害を受けるようになるまでは、労働組合も問題の所在に気づくことができなかったわけです。
これってまさに寓話『茶色の朝』だよね。

寓話を解説しちゃだめですよ/『茶色の朝』【読書感想】

『茶色の朝』は、こんな話。
ある日、茶色以外の犬や猫を飼ってはいけないという法律が施行される。
"俺"とその友人は法律に疑問を持つが、わざわざ声を上げるほとでもないと思い"茶色党"の決定に従う。茶色の犬や猫は飼ってみればかわいいし、慣れてみればたいしたことじゃない。
だが"茶色党"の政策は徐々にエスカレートしてゆき、「以前茶色じゃない犬を飼っていた」という理由で友人が逮捕される。"俺"は自分の身もあぶなくなったことに気づきこれまで抵抗してこなかったことを悔やむが……。


契約社員への切り替えをまずはキャビン・アテンダントからはじめたってのは、実に巧妙だよね。上にも書かれているようにCAは女性が多いってのもあるし、容姿や学歴に恵まれた人のつく仕事ってのも大きいとおもう。やっかみを買いやすい立場だから、「どうせさんざんいい思いをしてきたんだろ」「仕事を失ったってたいして困らないだろ」と思われて反対運動が支持されにくかったってのもあるんじゃないかな。
「自分には関係のないエリート様が少々困ったところで平気でしょ」ってなぐあいに。
ところが「CAもやったんだから」という理由で、一度開いた穴はどんどん広がってゆき、しまいには堤防は決壊してしまう。
「じゃあ他の職種も規制緩和しましょう」「女性だけ対象にして男性だけ守るのは差別だから男性も非正規に切り替えましょう」となってゆく。
自分の身が危なくなってから反対してももう遅い。

最近めっきり聞かなくなった「高度プロフェッショナル制度」も同じだよね。
最近話題にならなくなった、ってのが恐ろしいところだよね。みんなが忘れた頃にどんどん導入されてゆくんだろうね。

消費税も、軽減税率だのキャッシュレス還元だのといろんな目くらましを用意して「なんだ、それならたいして困らないか」と思わせながら増税してるからね。
本当の苦しみは遅れてやってくるんだけど。



消費税増税に関して、新聞業界が「軽減税率」という毒まんじゅうを食わされて批判の拳をあっさりおろしてしまったことについて。
斎藤 こんなことは私が言うべきことじゃないかもしれないけど、もう本気で再編成を考えないと新聞の存在価値そのものがなくなっちゃうんじゃない?
武田 再編成?
斎藤 経営統合とか、宅配からの撤退とか。
武田 新聞社の記者と話していても、現場にそういった危機感はないですね。
斎藤 現場の人には全然ないでしょう。まだ自分たちのことをエリートだと勘違いしたまんまなんじゃないのかな。そこがまた質が悪い......どうしてこんなこと言うかというと、自分自身が業界紙の出身で、ろくでもないことを嫌というほど見聞きし、自分でも多少は経験したからなんですよ。会社に金がなくなると、ベテラン記者が懇意の大企業に行って金を貰ってくる。それで記事だか広告だかわからないような記事が載る。それができる記者が優秀な記者だってことになるわけだ。それを何十年もやっている先輩が何人もいて、それはそれで私も嫌いじゃないというか、否定なんかしません。そういう生き方もあると思う。業界紙というのはそういうものだし、相手の業界の人がわかっていればいいことだからね。でも、一般紙はそれとは違う信用の上に成り立っているわけじゃないですか。なのに今、一般紙がやっていることって、業界紙とまったく同じなんだよ。現場の記者からは見えないところで、どの新聞社も同じことをやっている。私がいた業界紙は記者と営業と広告の距離が近かったから見えちやったんだけど、彼らには見えないんでしょうね。

ぼくも広告の仕事をやっているので、「公的機関の仕事」のおいしさはよくわかる。
いくつかやったことがあるけど、はっきりいってめちゃくちゃ楽なんだよね。
値切ってこないし、成果も求められないし。

だからお金に困っている新聞業界が「原発のPR記事載せてください」とか言われたら飛びついてしまうのも無理はないとおもう。
で、スポンサー様になってもらったら舌鋒鋭く批判できなくなるのも気持ちもわかる。

でもなあ。
それってその場しのぎにはなるけど、長期的に見たらぜったいに寿命を縮める道だとおもうんだよなあ。

メディアの役割って「事実を伝える」と「解説する」があるとおもうんだよね。
事実を伝えるのはもちろん大事だけど、「なぜこうなったのか」「このままだとどうなるのか」「防ぐにはどうすればよいか」「外国だと似たケースでどうしているのか」「これによってダメージを受けるのは誰なのか」「逆に得をするのは誰なのか」などを論じることも重要。

で、政府や大企業からお金をいただいている新聞は「解説する」役割を放棄することになる。少なくとも批判的な解説はできなくなる。
「官房長官はこう言ってます」「〇〇社はこう発表しました」だけ伝える存在になる。
でもメディアが「事実を伝える」必要性はどんどん減っていっているわけだよね。昔なら新聞やテレビを通さないと国民に届けられなかった情報でも、ホームページやSNSでかんたんに発信できる。事件があれば現場近くの一市民が写真を撮ってツイートしてくれる。
単純な情報の量やスピードでいったら、新聞がネットに太刀打ちできるはずがない。

だから今後新聞が生き延びる道があるとすれば(あるかわからないけど)、「解説する」に力を入れないといけない。なのに目先の金欲しさにそれを捨てている。
政府広報紙になったらもう誰も新聞を読まないでしょ。じっさい産経新聞の部数減なんかいちばんすごいみたいだし。

と、えらそうに理想を語るのはかんたんだけど現実にはまあ無理だろうね。
新聞が「事実を伝える」を捨てて「解説する」に方針転換しようとしたら、記者を減らして、日刊をやめて、宅配をやめて、広告を減らして……ととんでもない数の人を切らないといけない。もちろん自分たちの給料も減らす必要があるだろう。
ぜったいに不可能だ。

ぼく自身は新聞を読むのは好きだし(とってないけど)、新聞社に勤める友人もいるので新聞社にはなんとか生き残ってほしいけど……。あと十年もつのかな。



消費税だけでなく、いろんな税がどう移り変わっていったのかを知ると、ある大きな流れが見えてくる。
それは「富める者には甘く、貧しい者には厳しく」という流れだ。

ここ数十年、消費税はずっと増えてきた。逆進性(貧しい者に対する負担がより大きいという性質)が大きいにも関わらず。
また税金ではないが社会保険料負担も増える一方。
対照的に減っているのは、法人税や高所得者に対する所得税。
そして輸出型企業は消費税によって逆に儲けている(輸出免税制度)。

誰が見ても一目瞭然だ。
日本はどんどん「金持ちに優しく、貧乏人に厳しい国」になっている。最大の原因はもちろん自民党だが、かつての民主党も手を貸している。
 弱肉強食、適者生存は世の習いですが、政府までが人間一人ひとりの命や尊厳や人権を尊重する建前を放棄してしまったら、世の中は獣たちのジャングルと変わらなくなってしまうじゃないか、と私は考えています。国家のためと言いながら、小さいところが辛うじて食べていくために稼いだお金までぶんどるというのが消費税増税です。そうやって巻き上げた税金を大企業に回す仕組みを強化して、それでGDPが増えたとしても、そんなものを本当の意味での「経済成長」と言えるのかどうか。
 成長ではなく搾取です。搾取を成長にみせかけるなどというのは、最も卑劣な手段だと思います。国家社会のためでさえありません。早い話、「なぜ消費税を上げたいかって? 俺や俺の身内が儲かるからだよ」というのが増税したい人たちの本音ではないでしょうか。

政府がこういう方針だからか、「貧しいのは努力が足りないせいだ。才能や努力によって儲けた人間から何の努力もしていない人間に金をまわすなんて不公平じゃないか」なんて自己責任論を口にする人間も少なくない(金持ちが言うんならまだわかるんだけど、そうじゃない人間が言うのがちゃんちゃらおかしい)。

だがぼくは言いたい。
そうだよ、不公平だよ。
税金ってそもそも不公平なもんなんだよ。
完全に公平にするんなら政府なんていらないじゃない。

金持ちは自費で水道をひき、警備員を雇い、子どもに家庭教師をつけ、医者を雇えばいい。貧乏人は川の水を飲み、何が起こっても自分たちで解決し、教育は受けられず、病気になったら死んでゆく。
まさに弱肉強食。政府は何もしない。これがいちばん公平だ。

でもそんな社会はみんな望んでいない。
だから国家をつくり、税金を出しあって警察や消防や学校や病院やインフラをつくってきたわけじゃない。
だから税制が不公平ってのはあたりまえの話なんだよね。

ねずみ小僧とかロビンフッドとかがやっていたような義賊システムを制度化したのが政府なんだから(ねずみ小僧もロビンフッドも元々は義賊じゃないらしいけど)。

だから、このまま低所得者から高所得者への財産移管を進めていってたら、そのうち大多数の国民が「国なんかいらないよな」ってことに気づいてしまうんじゃないかな。

これって日本だけの話じゃなくて、近いうちに今みたいな形の国家は解体に向かうのかもしれないなあ、とぼんやりと考えている。


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